ネガティブ方向にポジティブ!

このブログは詰まらないことを延々と書いているブログです。

『ひとり自由俳句その5』

3月にTwitterで呟いた俳句。もう、6月なのにね!ちまちまとまとめます。

 

『ひとり自由俳句その5』

 

草萌えて、独り草取り、草生える。

 

ちまちまと、俳句投稿、気のままに。

 

時期外れ、チョコが無かった、当て付けよ。

 

さんざめく、雀の歌に、励まされ。

 

ゾロ目の日、何か良いこと、期待して。

 

我が儘に、分水嶺の、先を見る。

 

タイトルが、すでに俳句で、ちょい可笑し。

 

看板の、ユニークな文、誰が読む?

 

酒のあて、二杯三杯、呑みながら。

 

青き空、青き山脈、青い春。

 

滑舌が、回らない上、出てこない。

 

野焼きした、白煙の中、くぐり抜け。

 

声に出し、耳朶で捉える、心地好さ。

 

適当に、書いたつもりが、適当だ。

 

視野狭め、戦う相手、間違える。

 

堂々と、歩く君の背、見惚れたよ。

 

しんしんと、春雪のように、深甚と。

 

親の前、「あ」と発音も、飲み込んで。

 

一年目、だからどうした、休ませて。

 

空気さえ、微動だにしない、静寂よ。

 

突き進め、言葉を選ぶ、猶予なし。

 

雨粒に、大海の祖の、魂やどる。

 

え、それだけ?些細なことが、一大事。

 

同じ文、なのに違う意、言の限。

 

簡単な、難問にする、人間さ。

 

夜の街、客引きの声、振り切れず。

 

伝えたい、震える空気、抱き締めて。

 

妹の、彼氏と父母を、遠巻きで。

 

眠る前、毛氈被る、悪夢見る。

 

窓の山、置き去り走る、電車かな。

 

暗い庭、子は鬼ごっこ、親そっぽ。

 

お給料、私史上最高額。

 

郵便に、嫁ぐ初恋、再失恋。

 

昼遊び、電車で午睡、夜仕事。

 

馬鹿野郎、対岸の火事、卑怯者。

 

第三次世界大戦、無いよなあ?

 

ふとぶらり、日向求める、猫のよう。

 

考える、考える訳、考える。

 

1時間、一眠りする、幸せや。

 

燕岳、コントラストに、雪と雲。

 

春うらら、アリスも眠る、陽気かな。

55

半紙よりも薄い人生経験しかない私が、雑巾を固く絞って出た数滴の水のような言葉で綴った小説を書いた。

小説を完成できたことを私は、縁側で飲む一杯目のビールのような爽快感があった。

私の短い人生の中で、私が作品と呼べる物を完成させたことは、少なくても私にとっては重大な出来事だ。

努力することを嫌い、継続することを放棄した私にとって今回の小説は、私の人生にとってマイルストーンなのだ。

 

さて、私が小説を当ブログで掲載したところ、とある人物(以下Nさん)が私の小説の文章構成について「読みづらい」と指摘してきた。

Nさんとの関係を私は、「友達」ではなく、「メルマガ」と呼称し位置付けている。

Nさんは、定期的に何かしらのコメントやイベント等の情報をメールで知らせて来て、私は「メルマガ」のような人だなと常々感じている。

そのNさんが私の小説を読み、「句読点が少ない」と私に文章の質の向上のアドバイスしてきたのだ。

 

正直に私の胸の内を打ち明けると、「有難いけど、的外れな気がする」が私の偽ざる所感だ。

Nさんはライター業を細々としていて、物書きとして私に一言、物申したくなったのだろう。

しかし、完成させたことで満足している私は、文章構成に言及されても反応に困ると言うのが実情だ。

文章の質の向上はしていった方が良いのは間違いないのだが、現時点ではNさんのメールは私に響いていない。

 

とは言っても、句読点の打ち方は調べても損はないだろうと考え、サラダ油をフライパンに引くようにさらっと探してみた。 

ebloger.net

 

上記のリンクによれば、「1行に50文字程度、読点(「、」のこと)は1、2つ程度」とあった。

実はこの記事は1行の文字数と句点を意識して書いているのだが、どうだろうか?

私の感想としては、書くのが遅くなって時間がかかる上に、読み易いのかどうかの判断が五里霧中の心境だ。

時間があるときにはなるべく意識して書くようにするが、普段は今まで通りに気にせず書き連ねようと決めた。

 

読み易さとは何なのか?頭の片隅にメモ書きして放っておくことにします。

 

投稿します

【あなたが眠るまで。】終わり

7.そして、日は昇りゆく

 

目を覚ましたら、僕は暗い場所にいた。 

どうやら寝てしまっていたらしい。

上体を起こし、軽く目を揉んだ。

そして、身体を伸ばして、考えた。

はて、何時僕は寝たのだろう?

僕は高木神社で早弁をしている。

昼食の時間は購買で焼きそばパンかカツサンドを買って友人たちと取り留めのない会話に入るために毎朝ここで食べている。

今日も朝からここで弁当を広げて…そこから今までの記憶がない。

横に弁当箱が置かれている。

未だ食べかけだ。

食べかけと言うことは…食事中に寝てしまった?

そんなことがあるだろうか?

しかし現に弁当箱の半分ほどない。

からあげも2つになっている。

そう言えば、僕はからあげを食べただろうか?

眠る前のことが思い出せない。

余程疲れていたのか?

いや、昨日は夜更かしをしていないし、体育で運動をしていない。

勉強もそこそこだ。

疲れるようなことはないもしていない。

首を傾げていると後ろでカサッと何かが落ちる音がした。

僕は音のした方へ目を向けようとした。

うにゃあ

と、猫の鳴き声がした。

良く知っている猫の鳴き声だ。

腰元へ目をやると何時の間にやら黒い光沢の美しい猫が居た。

この黒猫は僕が毎朝ここで食べていると僕の前でよく毛繕いをしている。

偶に弁当の中身を上げることもある。

首輪をしていないから野良かもしれないが、毛並みの美しさを鑑みるに飼い猫かもしれない。

それでもよく見かけるこの黒猫を僕は勝手にクロと名付けて呼んでいる。

「クロ、おはよう」

うにゃあ

クロが返事をした。

話しかけるときちんと返事をする。

猫にしては大変生真面目な性格をしている。

クロは僕の手の甲に自身の頭を擦り付けてくる。

僕はそっとクロの頭を撫でた。

つやつやの毛並みを僕は堪能した。

そう言えば、今日はめざしが入っていた。

弁当を中身を改めて見るとやはり丸々一匹めざしが入っている。

僕にとってのメインはからあげだ。

めざしはそれはそれでとても美味しいけど、特にこれといった思い入れはない。

僕はめざしを一匹行儀悪く手で摘むと、クロの足下に置いた。

「クロ、お裾分け」

うにゃあ

クロははぐはぐと食べ始めた。

その様子を眺めていて、遠くで予鈴の音が聞こえてハッとした。

しまった、のんびりし過ぎた。

今からだと…一限目にはまだ間に合う!

僕は急いで弁当箱を仕舞い、変に行儀良く置かれた鞄を見付け、その鞄の中へ入れた。

そのまま走って自転車に跨がり、挽回しようとペダルに足をかけた。

うにゃあ

クロが遠くで鳴いている。

僕はクロに手を挙げた。

「クロ、またな!」

うにゃあ

僕はクロの返事を聞くとペダルを力強く踏み、学校へと向かった。

 

黒猫は青年を見送った。

十字路を曲がった所までじっと。

見えなくなってから、黒猫は歩き出した。

青年が振り向こうとした音の先へ。

そこには握り潰された、煙草の箱が落ちていた。

その煙草の箱には血のような焦げ跡が点々ある。

黒猫は、その煙草の箱をくわえると再び青年が消えた方向を見た。

雲がゆっくりと過ぎ去っていく。

黒猫はスッと立ち上がると、境内の外へと歩き出した。

そうして、住宅の垣根へとするりと入っていった。

境内にはもう、誰もいない。

 

がやあー、がやあー

 

何処か遠くで、何かが鳴く声だけを残して。

 

《了》

 

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【あなたが眠るまで。】その12

弁当箱の中身は半分ほど食べていた。

からあげは最後に食べようとしていた3つとも入っていた。

減ってなく、増えてもなく、整然と3つ、弁当箱に収まっていた。

僕はカケルに弁当箱を差し出すとカケルはひょいっとからあげを1つつまみ上げると、そのまま一口で頬張った。

カケルが咀嚼する様子を僕は無言で見ていた。

カケルには大きかったのか、頬が膨らんだり凹んだり何度も繰り返していた。

目は軽く細められて、からあげをしっかりと味わってる。

そして、こくんと飲み込むと、満足そうに息を吐いた。

「ふー、おいしかった!ありがと、お兄ちゃん」

カケルはニコッと笑った。

そうしてミカヅキに向かって手を出した。

ミカヅキはカケルの手を数秒見つめるとスッと顔を上げた。

「私に何を求めるの?」

ミカヅキは小声でカケルはニタリと笑った。

「そうだなー?お兄ちゃんと遊ぶのをジャマされたしぃ?何してもらおうかなー?」

首を可愛らしく傾げているが、細く細く絞られた両目の隙間から、ねばつく空気を纏わせてミカヅキを見ていた。

「…この異空間で人間は長くは居られないわ」

ミカヅキは優しく、けれど子どもを叱る調子で言った。

言外にカケルも承知していることであるかのようだ。

しかし、カケルはそっぽを向いて両手を頭の後ろに組んだ。

「僕、分かんないなー」

そう言って口笛を吹く真似をする。

尖らせた口からはヒューヒューと気の抜けた音がした。

ミカヅキは軽くため息を吐くと、目を少し伏せた。

「……遊んであげる」

「本当!?」

ミカヅキが告げるとカケルはミカヅキ食い気味に反応した。

目は爛々と輝き、期待と共に目一杯息を吸い込んだ。

そうして、陶酔と共に吐いた。

ミカヅキはそんなカケルに人差し指を立てる。

「後でね」

「えーーー?!」

カケルは驚愕で目が見開き、今度は失望共に息を吸い込み、落胆と共に吐き出した。

「あーあ、がっかりだぁ」

カケルは首をガクンと落とし、腕をぶらりとさせて、身体全体でがっかりしていることを主張した。

けれど、直ぐに顔を上げるとにっこり笑っていた。

「なーんちゃって。冗談だよ。じゃあ、僕行くね」

そう言うな否やパッと後ろへ飛び退いた。

カケルとはこれで最後だ。

多分もう、会うことはない。

別れの前に僕は思わず声をかけた。

「何処に行くんだ?」

カケルは僕に目を向けると、これから悪戯をしに行く悪童のようにニヤリと笑った。

そうして指を上に差し、さらっと言った。

「神さまのとこ」

カケルはクスクス笑っている。

そうか、この異空間を作り出した超常な存在に会いに行くのか。

思えば、あの鳥居の先へ僕を連れて行こうとしたのも単純に僕と神さまと一緒に遊ぼうとしただけだったのだろう。

カケルはやはりカケルだった。

僕もくすりと笑った。

カケルは僕の顔を見て小さくうん、と頷くとそのまま駆け出した。

ミカヅキお姉ちゃん、また後でねー?お兄ちゃん、じゃーねー!」

元気に手を振りながら、笑いながら、カケルは木々の中へ飛び込み、暗闇に溶け込み、そうして見えなくなった。

 

静かだ。

あの朱い何かはもう居ない。

木の化け物も無邪気に笑うカケルも居ない。

葉の擦れる音さえもじっと息を潜めているかのような静けさ。

ただ、舞台上で一人スポットライトを当てられ、最早これ以上語ることがなくなった役者が何処を見るともなく佇むように僕はぽっかり空いた土の上に居た。

僕の隣にミカヅキが立った。

これで全てが終わった。

僕は彼女の顔を見た。

彼女の凛とした涼やかで美しい瞳に僕が写る。

 「ミカヅキ、ごめん。ありがとう」

ミカヅキの瞳孔が少し開き驚いた表情をした。

そして、顔を背けた。

「…十分だと言った」

「それでもだよ、僕が言いたかったんだ」

ミカヅキは顔を背けたままだ。

よく見ると乳白色の肌に赤みがさしたように見える。

まさか、照れているのだろうか?

僕は超越した『美しい』の具現のようなミカヅキがここに来て急に身近に感じられた。

自然と笑みがこぼれた。

ミカヅキはちらっと僕を見るとふう、と釣られたようにふっと笑った。

儚く、壊れてしまいそうなのに決して崩れることのない笑顔の少女としばらく笑い合った。

程なくして、ミカヅキは僕に手を差し伸ばした。

「…そろそろ帰りましょう」

僕は無言でミカヅキの手を取り応えた。

ミカヅキは小さく僕の手を引っ張り連れて来たのは、僕が横になっていた場所だ。

ミカヅキはその場所を指差した。

「ここに横になって」

僕は言われるままに横になった。

ミカヅキは横たえた僕の傍に座ると、僕の額にそっと手を添えた。

「…目を瞑って。目が覚めたら、戻っているから」

そう言いながら、添えた手を僕の両目を覆う。

途端、身体は水か抜け出すように段々と沈んでいくのに、意識はヘリウムガスの風船のように浮くような不思議な感覚がした。

………めざし

「え?」

僕は小さく聞こえた声に反射して声を出した。

めざし、と聞こえた気がする。

そして、その声は何処かで聞いた気がする。

そう、ここで聞いた泣きそうな声に似ているような…

「何でもないわ」

ミカヅキは僕にそう言った。

「何でもない」と言う言葉自体、何かを言ったことを打ち消す言葉だ。

僕はただ、「え?」としか言ってない。

それなのに、この返答ということは、ミカヅキが「めざし」と言ったのか?

何で…と僕が訝しく考えていた。

僕が口を開こうとすると僕の両目に添えられた手にグッと力が入った。

「何でもないわ」

二度目だ。

これ以上追求するなということだろう。

僕は右手を軽く上げて手を振った。

僕の両目はミカヅキの手で覆われているから、ミカヅキの表情は読めない。

ただ、ミカヅキの手が少し熱くなったような気がした。

案外、顔に出るタイプなのかもしれない。

ミカヅキは咳払いを一つすると、スーと深呼吸しているようであった。

僕も深く息を吸った。

鼻孔に木々の湿った匂いがかすめた。

そこへミカヅキの声が降ってきた。

「人の目よ四半時廻り、千木のむねの屋根の家へ両の手を上げよ」

周囲の音がどんどん小さくなり、先ほどよりもぐんぐんと上へ上へと意識が引っ張られているように感じた。

ジェットコースターに乗り込み、コンベアで運ばれていくような緊張と期待が入り交じっていく。

僕の右手に何かが握られた。

ミカヅキの手だろう。

それだけで僕は安堵した。

最後に、ミカヅキがこう言った。

「安心して。傍に居るわ。あなたが眠るまで」

そうして、海にたゆまう小舟の中で燦々と太陽の日差しを受けるように僕は長く息を吐き、眠りに着いた。

 

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【あなたが眠るまで。】その11

がやあー、がやあー

空で朱い何かが鳴いている。

空は暗い。

黒い空に朱い何かはクルクルと舞っている。

「…ねえ、あの朱いのは何かな?」

ソレは唐突に聞いてきた。

ミカヅキはハッとして僕の方へ振り向く。

ソレはケタケタ笑う。

「アレはね、『えんらえんら』って言うんだよ!」

途端、空が真っ赤に染まった。

木々がバチバチと鳴っている。

そこら中で白い煙が立ち込めている。

肌がひりつくように熱い。

燃えている、一瞬にして、炎の真っ只中になった。

僕は辺りを見渡した。

すぐ近くにいたはずのミカヅキがいない。

ソレは笑いながら僕に近付いてきた。

「あの朱いのはね、煙草の火。ここの神様の力の影響で具現化しちゃった奴」

ソレは喋り始めた。

得意げに僕の周りを跳ねながら。

「でね?名前ってね、大事なんだよ?その存在を固定させるからね」

「『えんらえんら』って言うのは、煙の妖怪なんだ。知ってた?煙草とご縁があるね?」

「そうそう、『えんらえんら』って地獄の業火って解釈もあるんだよ?ここは地獄かな?ねえ、どうだと思う?お兄ちゃん?」

ケタケタと笑うソレは、僕にこう言った。

「ねえ、お兄ちゃん、遊ぼう?」

僕の望みは既に答えた。

だけど、ソレの望みに対して僕は何も答えていない。

ソレにとってはその事が重大なことなのだろう。

鳥居でのことを思い出す。

朱い何かが空に表れた時、ミカヅキは「話す時間もなかった」と言っていた。

その時、ソレはどうしていた?

嫌そうな顔をしていなかったか?

ソレにとっても良くないことだったのでは?

木々で覆うこの場所が炎に包まれれば、ソレにとって遊ぶ場がなくなることになるのでは?

想像の域を出ない。

だけど、今ソレは楽しそうに僕の周りを回っている。

「…そんなに遊びたかったのか?」

僕は小さく聞いた。

ソレは聞こえなかったのか、はたまた聞こえているが無視をしているのか、跳ねるのを止めない。

表情は読めない。

だけど、僕は悲しくなった。

僕は『運がなかった』かもしれない。

でも、ソレも、カケルも『運がなかった』だけだ。

ただ、遊びたかっただけ。

ミカヅキもそう言っていたではないか。

それなのに、僕は自分のことばかり。

素直に遊んであげれば良かった。

今更、もう遅いのかもしれないけれど。

「…ごめんな、カケル。ごめんな…」

僕は目を閉じ、カケルに伝えた。

この炎の中では何れ僕は息倒れるだろう。

せめて懺悔の言葉を。

身勝手だけど、カケルに伝えたかった。

偽りだったけれども、それでも僕の弟であったのだから。

バチバチと木が爆ぜている。

チリチリと肌が痛い。

カケルの笑い声は、聞こえなかった。

「あーあ、そうじゃないんだけどなー」

カケルは詰まらなそうに呟いた。

僕は目を開くとカケルは下を向いていじけたように地面を蹴っていた。

「あーあ、もういいや…からあげ」

「え?」

僕は素っ頓狂な声で聞き返すと、カケルは僕に手をぐっと差し出した。

「からあげ。それで良いよ」

何が良いのだろう?

カケルはからあげが食べたいのだろうか?

何故からあげ?

それ以前に、僕の手元には弁当はない。

「あるじゃない、ほら、そこ」

カケルは指差す方を見ると、僕の弁当箱が現れた。

何故今まで気付かなかったのか?

僕は呆然として弁当箱を見ていた。

「取らないの?」

カケルに聞かれて、僕は我に返って、弁当箱へ歩み寄ろうとした。

と、その時、弁当箱の周りを火が取り囲んだ。

弁当箱の周りに燃えるような物はなかったハズなのに、円を描くように炎が地面から吹き出しているようだ。

僕は思わず後退った。

この炎の中に飛び込まなければならないのか?

「神様も意地悪だね…」

カケルはニタニタして言った。

どうやら、今のこの現象は神とやらの仕業らしい。

炎は益々勢いを増していく。

一体、どうしたら?

「…少し、熱い」

後ろから、聞き覚えのある声がした。

僕が振り返ると、ミカヅキが居た。

「やあ、ミカヅキお姉ちゃん。煤だらけで素敵だね」

さっきまで怨讐の敵に対するようだったのに、今やそれは嘘だったかのようにあっけらかんとカケルは言った。

ミカヅキは少し不機嫌そうに眉をひそめた。

眉をひそめたミカヅキと言うのが妙に珍しい物を見た気がした。

今日会ったばかりなのに、何故だかとても意外だった。

「…遊ばなくて良かったの?」

ミカヅキはカケルに尋ねた。

カケルは肩をすくめるとやれやれと言った。

「遊びたかったんだけどね、詰まらなくなったし。からあげ貰うから良いよ」

ミカヅキも肩をすくめるとスカートを軽くはたいた。

僕の横に来た。

僕はミカヅキに謝ろうとミカヅキの腕を掴んだ。

ミカヅキは『運のなかった』僕を助けようとしてくれている。

僕はずっとミカヅキの影に居て、ミカヅキに頼りきりだった。

だから、謝って、お礼が言いたかった。

ミカヅキ…僕は君に…」

だけど、ミカヅキは人差し指で僕の口を当てて、その先を言わせてくれなかった。

そして、首をゆっくりと振って言った。

「私は十分、あなたに助けられている」

そう言って、弁当箱へ向かった。

燃え盛る炎がミカヅキを襲う。

「流れる水よ、背肉の燃え立つ者を、小さくせよ」

ミカヅキがさっと右手を振ると、燃え盛る炎は消え去った。

ミカヅキはゆっくりと進み、弁当箱を持ち上げると、僕の元へ戻ってきた。

「…はい」

ミカヅキは呪文一つで僕が右往左往していたことを斯くも鮮やかに解決してみせた。

だけど、僕は弁当箱を見つめながらある考えに埋め尽くされていた。

僕がミカヅキを助けた?

何時?

何時僕はミカヅキを助けた?

何か見落としをした、ミカヅキに関する記憶を…僕は何を忘れた?

「からあげちょうだい、お兄ちゃん!」

弁当箱を見つめながら固まっている僕にカケルは元気よく話しかけてきた。

強引に思考を中断された僕はカケルの言葉をなぞる。

ああ、からあげ…からあげを、そうカケルにあげるのだった。

2階のボタンを押されたエレベーターのようにゆっくりと弁当箱のふたを開けた。

 

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