ネガティブ方向にポジティブ!

このブログは詰まらないことを延々と書いているブログです。

【あなたが眠るまで。】その4

カケルから今までの経緯を聞いた僕は、まず荷物を探してみた。

学校に行く前なら鞄を持って行く、はずだ。

鞄の中にここに来た理由が分かるかも知らない。

しかし、僕の周りにはカケルだけで鞄と思しきものはなかった。

ふと、ポケットの中はどうだったろうか、と探ってみた。

中からハンカチと定期入れとスマートフォン

ここで僕は己の脳が如何に信用ならないか思い知った。

ここに時間を確認できる物があるではないか!

どうして今の今まで忘れていたのだろうか。

いや、今は兎に角正確な時間が知りたい。

そう思ってスマートフォンを起動させようとした。

…しかし、電源が入らない。

幾らボタンを押し続けてもディスプレイ画面は真っ暗のままだ。

え?充電をし忘れたのだろうか?

いや、それにしたって充電をしていないことに気付かないなんてあるか?

でも、もし充電をしていたとしたら、一体何時間寝ていたことになるだろう。

もし、スマートフォンを使わない状態で充電が切れるとしたら、余程長い時間経っていることになる。

カケルは直ぐ来たのではなかったのか?

やはり、変だ。

この林は普通ではない。

僕は不気味で恐ろしい何かの存在を先程よりもより深く、より確信を持って感じ取っていた。

がやあー、がやあー

嗚呼、あの朱い何かだ。

その不気味さを証明するかのように、また僕の前に現れた。 

「お兄ちゃん」 

カケルがまた不安そうに僕の背中にしがみつく。

どうする?僕の直感ではココを動かない方が良い。

しかし、同時に今すぐにでもココから出なければならない、と本能が囁く。

残る理性は、ただでさえ信用がならないのに、目に見えない恐怖の前に余計に空回りする。

どうする、どうすれば良い?

僕はそれでも残る理性を総動員して考え始めた。

がさ、がざざ

僕の耳に不気味な音が聞こえる。

ええい、風がただ通り過ぎて葉がこすれているだけだ。

がやあー、がやあー 

がざ、がざがざ

朱い何かが鳴いている。

今考えている最中だ!

何所か遠くへ行ってしまえ!

がやあー、がやあー 

がざ、がざさ、ぱきゃ

何か枝が折れる音がした。

枝が折れる?

動物か何かが居るのか?

がやあー、がやー 

がざざ、がざざざ、がざがざ

先程よりも、音が大きくなっている。

何だ?

何がこっちに来ているのか?

一体、何が?

あの赤い何かは僕の望み通り遠くへ行った。

こちらに向かって来る何かから逃げるように

がざざ、がざがざ

音は僕の後ろの方から聞こえて来る。

その音は草をかき分けるときのような音を出している。

次第に大きくなる音が、こちらに向かって来ることを分からせる。

僕は身体を反転させながら、カケルを後ろに回した。 

「お兄ちゃん…何、この音?」 

カケルの声が僕の耳に届く。

その声は先程よりも硬く、抑揚がない。

正体不明の何かが壮大な音をまき散らしながらこちらに向かって来ることへの不安の現れか。

僕は近くにあった木の棒を手に取ると切っ先を音のする暗闇に向けた。

がざがざ、がざがざ

何かがすぐそこまで来ている。

暗闇で姿は見えないが、僕は目を眇めて林の奥をじっと伺った。

カケルは僕の腰にしっかとしがみついている。

落ち着け、僕がしっかりしなくちゃ。

人か、動物か、どちらにしても今は身の安全を最優先にしなくては。

がざ、がざ、がざ

林の奥から何かが見えて来た。

人のようなシルエットをしている。

同じく迷い込んだ人か、僕らを助けに来てくれた人か、それとも不審者か。

しかし、僕の目に飛び込んで来た姿は、僕の思考を一瞬止めた。

木だ、人の形をした木がこちらに向かって来ている。

足のような根は土をぼたぼた落としている。

手のような枝はでんでん太鼓のように振り回している。

木の、木の怪物だっ!

冷や汗が止めどなく流れ落ちてゆく。

息も上手く吸えない。

そして、気付いてしまった。

その木の怪物が僕を見ていることを。

顔はのっぺらとしていて何処に目があるか分からないが、その顔は真っ直ぐに僕の方に向いている。

それは明らかな意思でこちらに向かっていることに他ならなかった。

僕は全ての思考を放り出して、カケルの手を握り、何処の当てもなく林の中を走り始めた。

 

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