ぬかるみを踏んで右足が沈んだ。
一瞬、姿勢が崩れるが、慌てず、左足をアスファルトに着地させる。
沈んでいた右足は宙に浮き、何事もなかったかのように左足の前に行く。
昨日から降り続く小雨が、剥き出しの土を水分を多く含んだ泥にした。
しとしとと傘を差すほどではなかった。
まさか、ピサの斜塔くらい身体が傾くほどのぬかるみだとは、考えなかった。
雨が避けられる所で、右足を確認する。
ほんの爪先に、申し訳なさそうに砂利の混ざった泥が乗っているだけだった。
あれだけ沈んだのに、右足は何ともなかった。
ひとえに、左足の機転のお陰なのだが、右足はその事を分かっているだろうか?
帰りの道で、きっと見る。
ぬかるみに残った右足の跡を。
その時、右足はどんな顔をするのか、今から期待する。