終業間際、職場のオバちゃんが段ボールを床に敷いて座り、何やら作業していた。
仕事の片付けをしながら観察していると、どうも床にこびり付いた油汚れをスクレーパーでこそいでいるようであった。
真っ黒なゴム状の質感にテラテラとした光沢がある油汚れをせっせとこそいでいた。
人のよく通る部分の油汚れは、上から見ても分厚さを感じる。
オバちゃんが、スクレーパーで端の方から力を込めて押していくと、驚くほどごっそりとこそぎ取れていく。
横から見ると、1cmの厚さはあり、パッと見、廃棄されたゴムタイヤの破片だ。
オバちゃんはせっせとこそぎ取っていっているので、ちり取りと片手ほうきを持って、こそぎ取れた油汚れを掃き集めた。
ゴム状の油汚れをちり取りに収めて、予め用意されていたビニール袋に入れていく。
油汚れが取れた場所は、元の白い床が見えて、黒い油汚れと強いコントラストを表出していた。
途中、他に人も加わり、大幅に黒い油汚れがこそげていった。
それを端からせっせ片手ほうきで掃き集めた。
気付けば、90Lのビニール袋の半分くらいをゴムの切れ端のような油汚れで満たしていた。
取り除かれた床は、こんなに白かったのか、と改めて驚いた。
人の行き交う場所だから、掃除が後回しにされがちだったが、これほど汚れが溜まっていたとは。
この床を見ると、今後なるべくブラシでこすって、できるだけ汚れが残らないようにしたい。
しかし…また分厚く溜めた後に、ごっそりとこそぎ取りたい気持ちもある。
いや、こそぎ取りたい気持ちの方が勝っている。
バーゲンセールのワゴンの中身がものの数分でなくなるような、ごっそりとした空間に魅入られる。
油にまみれた黒い悪魔が私に囁いている。
「お前もこそいでみたいだろう?」
答えは、勿論、イエスだ。
とは言え、あそこまで溜まるのは1年以上かかるだろうし、その間に小まめな掃除は入るだろう。
次回まで覚えているほど、興味はない。
黒い油汚れが分厚くなった時に、閃光のように思い出せれば、今の自分ができなかった欲求を満たせば良い。
先は長い、一先ず、忘れてしまえ。
取り敢えず、綺麗になって良かったと評しておこう。
ビニール袋が閉じられて、バサッとゴミ集積箱に放られたのを3秒見届けてから、くるっと身を翻し、何事もなかったかのようにその場から離れた。
こそぎ取る、来年以降を楽しみに、投稿する。