トイレの個室に本を置き忘れた。
便座に座っている時間の5分程度が手持ち無沙汰になるので、2ページほど本を読む時間にしている。
トイレで新聞を読むおっさんと同じだと考えてくれて良い。
事務所に寄ると、案の定、忘れ物として取ってあった。
恐縮しながら、「済みません、私のです…」と申し出る。
事務の人や上長に叱られて、ひたすら謝りながら、そそくさとその場を立ち去る。
もやっと、胸にわだかまりを感じる。
私はどうして、叱られたのだろう?
気恥ずかしさから急いで出てきたから、内容をきちんと受け止めていなかった。
1つ、トイレはそも非衛生であり、私物を持ち込むのは適切ではない。
確かに、手洗いは充分にしているし、工場内に入る時にも気を付けているが、本の持ち運びで菌が移動していないとは断定できない。
私個人としては、そこまで気にすることでもない気がするが、食品を取り扱う工場であるならば、むしろ当然の叱責だ。
2つ、就業時間中の休憩時間に本を読むな。
…これが分からない。
休憩時間は休憩する時間ではないのだろうか?
現工場では、トイレ休憩は15分、軽食休憩は1時間である。
休憩は稼働状況で変動はあるが、大体2、3時間に1回はある。
就業時間中であるのは、分かる。
しかし、私が本を読んでいるのは、5分、休憩時間内だ。
時間をオーバーした訳でも、仕事をサボっている訳でもない。
しかし、むしろ、この就業時間中での本の持ち込みがどうも気になる様だった。
私の簡単な弁明に対しても「それにしてもな…」と言って思わしくない反応であった。
この反応から、例え短い時間であっても仕事以外のことをするのは倫理に反していると考えていると推察する。
しかし、休憩時間に仕事以外のことをするなは、逆に難しくないか?
どうも納得できない。
いや、衛生面での叱責はその通りと感じるので、本のトイレへの持ち込みは今後しない。
しかし、短い時間での休憩は、早めに戻れということなのか?
私の考えが間違っているのか首を傾げながら、本を鞄に仕舞う。