寒い寒いと言っている内に、もう2月の中旬になろうとしている。
あと半月で3月、冬から春に移り変わる。
私はガチガチと歯を鳴らして、春にモールス信号を送っている。
返信はなしのつぶてだが、存外、近くまで来ているかもしれない。
今日も執拗に歯を鳴らして、ラブコールを送る。
そんな2月中旬前、仕事をしている最中、生産が止まっているAラインの裏のゴミの片付けをしてくれ、と頼まれる。
裏に回ってちゃっちゃと片付けていると、Sさんが来て、もう1人の方は?、と聞かれる。
私は、裏の片付けを頼まれただけなので、知らない、と答える。
Sさん曰く、もう1人来るはずなのだが姿が見えない、とのことだった。
そうこうしている内に、Aラインが稼働し始め、油揚げが出始めた。
それでも、油揚げを拾う人も、検品する人も見当たらない。
どうやら、誰かが休憩に行かせたようだ。
困ったなー、と考えていると、突然、「ふざけんなよ!」という怒号が聞こえた。
一体、誰が叫んだのか?とびっくりしていると、怒号を上げた人が見当たらない。
Sさんはいるが、Sさんは丁寧に喋る、温和な人だから違うだろう。
ドキドキしながら、後ろを付いていくと、「ボロボロじゃねぇかよ」と悪態が聞こえた。
他に人が見当たらない、Sさん以外は。
信じられないことに、低く唸る、荒々しい言葉遣いは、Sさんからのようだ。
驚き過ぎて、心臓が止まりかけた。
程なく、代理の人が来た。
私は、代理の人と代わり、元の持ち場に戻った。
その間、歯がガチガチ鳴っていたのは、寒さだけではないだろう。
温和な人を怒らしてはいけない、胸に深く誓うことにする。