春の風が通り過ぎる度に、ガタガタと雨戸が鳴り響いている。
ワルツを踊る風たちが、砂利を敷き詰めた駐車所をダンスホールにしている。
冬の女王にこき使われていた鬱憤からか、楽し気というより少し興奮気味に、松の枝を揺らしている。
風たちが馬鹿騒ぎしているのを、枝の先に残った桜の花がうんざりしたように横目で見ている。
他の桜の花たちは、皆、風たちがこぞって攫っていった。
責務のために身を粉にした風たちだが、春のこの時期のために準備していた桜の木は、毎度のこの騒ぎに呆れ返ってしまう。
急に、風たちがピタッと止まった。
恐らく、厳格な山の精の鋭い眼光が無言で咎めたのだろう。
修学旅行で先生が見回りに部屋に訪れたときのような静寂さに、耳が痛くなる。
しばらくして、また風たちが騒ぎ出す。
恐らく、煩わしい山の精が居なくなったのだろう。
この様子だと、我が家の周りだけでなく、他でも盛大に踊り明かしていて、山の精はてんてこ舞いなのかもしれない。
よく耳をすますと、空を擦る音もする。
春だ、春だと厚顔無恥に幅を利かせて、気弱な雲でも小突いているのか?
ほら、また山の精がこちらを睨んで、音が止む。
さっきから微睡みながら、障子の向こう側の、硝子戸の向こう側の様子を探っている。
そして、風たちが何を考えているのか、想像する。
バタバタと要らない物が詰められた段ボールの下のブルーシートが鳴り響いている。
有り体に申し上げよう。
うるさい。
ちょっとは落ち着いたらどうなんだ?
桜の木も山の精も雲も、私と同じ気持ちだろう。
だと想像したい。
実は、桜の木も山の精も雲も、風たちと一緒になって騒いでいて、私だけパーティーに呼ばれていない、とは考えたくない。
ガタガタと雨戸が鳴り響いている。
バタバタとブルーシートが鳴り響いている。
春浮かれた風たちの笑い声に、うんざりしてしまう。
うんざりしながら、投稿する。