人に教えるのは難しい。
特に意識していなかった点を教えなければならなくなった時は難しい。
それは経験だよ、と片すのは頭が空っぽなのを自白するのと等しい。
積み荷の検品に新人さんがえっこらえっこら作業している。
今日の私は、一時的な教育係だ。
きちんと検品ができているか、様子を見る。
そこへ通りがかった人が積み荷のカゴがズレていることを指摘する。
1つ、2つなら大丈夫だが、あまりにズレが大きいと積み荷と転倒の原因になるから、注意した方が良い、とのことだ。
確かに、何個かカゴがズレていて、危険な感じがする。
きちんとカゴがズレないように積み重ねて欲しい、と言う前に新人さんの積み方をよくよく観察する。
しかし、新人さんも気にはしていて、ズレていたら直そうとしている。
はて、何がいけないのか?と積み荷が上段に差し掛かった辺りで判明する。
新人さんの背丈は150cmくらいで小柄だ。
カゴの上段に載せようすると、小柄な体格のために万歳したような格好となり、少し仰け反って載せている。
仰け反った姿勢だから両手のカゴが少し浮き、そのまま載せていくから、カゴのズレが起きている。
仰け反らないように載せて、カゴをズレないように注意して…と考えて無茶な注文であることに気付く。
小柄な新人さんに仰け反らないように載せてくれと言うことは、身長を今すぐ20cm伸ばしてくれと言うのと同じだ。
そんな簡単に身長が伸び縮みできるなら、私は自分の身長を10cm伸ばす。
更に困ったことがある。
新人さんは、台湾人なのだ。
簡単な日本語なら解するが、難しい指示は分からないと事前に聞いていた。
私がわたわたと「気を付けて、カゴが危ない」と伝える。
新人さんは「大丈夫!私、力持ちだから」と元気に答える。
確かに持ち上げる動作をしたし、彼女の案じての注意だが、伝えたいことではない。
他の女性作業員にカゴを載せる時に何を気にしているか?と聞いたが、「気を付けるしかない」との回答だった。
新人さんもカゴを積む際に気にしているのは知っているから、こちらが気を付けた方が早いか?と悩む。
取り敢えず、ズレる都度、声かけして意識してもらう方向にしよう、と結句、頭が空っぽなことを自白する。
人に教えるのは難しい。
ちょっと持ち上げる…いや、どう確認する?どう伝えれば良い?と悶々とする。
伝える言葉のズレで齟齬が生まれないか、悶々とする。
嗚呼、人に教えるのは難しい。