母に漫画を貸した。
「この世界の片隅に」がドラマで放映されていて、母がそのドラマを気に入っているようなのだ。
原作である漫画を私が所持していたために、引っ張り出して今朝方、手渡した。
最初に怪訝な顔をした母であったが、お気に入りのドラマの原作漫画と気付くや、歓声を上げた。
母から「ありがとう」と素直な謝辞を、私は軽く手を振って答える。
部屋から出て戸を閉める間際に「ちゃんと返してね」と釘を刺すと、「はーい」と軽やかな返事が返ってきた。
私は見聞を広げたいとは考えているが、漫画が映画、ドラマ、アニメと波及したものを見ようとはそんなに感じない。
私は漫画が好きなのであって、漫画原作だからと言ってメディアミックスされた物を片っ端から集めようとは考えない。
かと言って、別に漫画が原作の作品を決して見ない訳ではない。
先に漫画で読んでいると、展開が読めてしまうからわざわざ見る気が起きない。
物語をなぞるだけなら、見なくても別に良いのだ。
好きな作品なら後で何度でも読み返せば良いのだから、全く同じ必要はない。
かと言って、漫画原作なのに本筋と違うところをピックアップするのも変だ。
格闘漫画なのに恋愛要素を捩じ込まれても、辟易するだけだ。
捩じ込むくらいなら原作でなく、最初からオリジナルで勝負すれば良い。
世のクリエイティブな人たちには、原作の世界観を守ろうとする姿勢と、漫画と他媒体で生まれる齟齬を可能な限り無くした作品を作って欲しい。
例えば、漫画のキャラクターの派手な服装や突飛な髪型は漫画特有だが、それをドラマ化すると服はペラくなり、髪型も寒くなる。
派手な服装は金持ち設定ならブランド物の服を着させた方がらしいし、髪型も有り得そうな範囲に収めておくべきだ。
その上で、新しい解釈を見せてくれるそんな作品を待望する。
原作を読み込んだ、原作以上に原作な作品、そういうのなら見てみたい。
そうした愛のある作品が希有なのは、安易に作れないからこそだろう。
映画には映画特有の良さがあり、ドラマにはドラマ特有の良さがある。
アニメや小説、写真など、それぞれの畑のそれぞれの良さがある。
そのそれぞれの良さを熟知した人の作る作品は一体どんな物か…と一縷の期待を抱いてしまう傲慢さにふと気付く。
色々と考えて頭がぐわんぐわんと痛むから、漫画を読んで癒すことにする。