遠く、山と空が何とも涼しげな色に見える。
近く、草木の先がほんのり枯れている。
夏が唐突に終わった。
駐車場に蝉の死骸がころん、と落ちていた。
実家の砂利庭にござが敷かれ、ジャガイモと白いカボチャがごろん、と寝かされていた。
ご先祖様を乗せた勇猛な胡瓜の馬は、台所で輪切りにされた。
天気予報では、9月の中旬頃の気温だそうだ。
連日、猛烈な暑さだったのに、あまりの下げ幅に驚いている。
居酒屋のメニューで他のメニューが1000円位なのに、大根のサラダが50円だった時のような、驚きだ。
上着をタンスから引っ張り出して、半袖の上から羽織る。
60カラットの砂糖のダイヤモンドを牛乳に沈め、電子レンジでチンして溶かす。
再び山と空を眺めて、これはもう秋だな、としみじみ感じながら、甘い牛乳を飲む。
過ごし易くはなったが、これから寒くなるかと考えると気が滅入る。
とは言え、寒くなることを今から心配するには、ちと早い。
今はフライパンの上で弾けた水滴のような日々が終わったことを喜びたい。
夏が唐突に終わった。
遠く、東京へ向かう道すがら、特別急行列車の中で夏を偲ぶ。
近く、私の周りでちらつく極小の秋をそっと纏う。
ここに夏の暇の報せを記しておこう。
何かの拍子で思い出す日のために。