10時40分頃、神奈川県横浜市から長野県松本市へ舞い戻った。
私が次に乗り継ぐ電車は11時09分とあった。
時間があるので立ち食いそば屋で昼食にし、食後は暇つぶしに漫画を読んだ。
スマートフォンの電池切れだったので、時間を知る術はホームの時計盤だけだった。
夢中になって読んで、はたと時計を見た。
時間は11時15分、すでに発車した後であった。
電車が来た気配がなかったので訝しく感じながらも、時刻表を確認した。
次の電車は12時12分、およそ1時間先だ。
仕方ない、と途中まで読んでいた漫画をまた開いた。
しばらくして、読み終えて、時計盤を見ると、11時50分であった。
ああ、もうそろそろだな、と空を見上げた。
雲がゆっくりと流れていた。
姿形を変えていく雲を眺めるのは随分久方ぶりだ。
じっとしていれば、少しづつ左から右へ移動しているのは分かる。
ホームの席からだと1秒毎に数cmくらいしか動いていないように見えるが、私が考えているより雲は遠くにあって、あの数cmは数kmだったとしたら、実は雲は超高速で移動しているのではないか?と下らないことを考えていた。
じっとして雲を眺めていると、そわそわしてきた。
あの雲を無性に追い抜きたくなった。
せかせかと動く人にはもっとゆっくりで良いのにと考えるのに、ゆっくり動く雲を問答無用でぶっ千切って置いて行きたくなる。
心に余裕がないのだろうか?
心に余裕がないから、時間が足りなく感じるのだろうか?
いや、私が単に鈍いだけ、置いてきぼりされホームで老いていくだけ。
社会を動かす人々の速度には着いて行けない。
大自然の雲の速度には待って居られない。
巧まずして、この世界のどの物事とも噛み合ないようで、寂しく感じた。
雲が流れているな、と足を放って椅子にもたれかかった。
じんわりと汗が額から顎へと伝った。
私はもっと時間が欲しい、雲を眺めていても焦らないくらいの時間が欲しい。
はたと時計盤を見た。
時間は12時16分、また1本、見逃した。
確か、次の電車は13時29分、およそ1時間後だ。
急き立てるように、駅のホームの椅子に座り直した。
大丈夫、次があるさ。
私はもっと時間が欲しい、10本だろうが20本だろうが電車を見逃し続けても問題ないくらいの時間が欲しい。
そうして、1時間、またぼけっと過ごした。
そして、今度は見逃さずに乗って帰った。
それから、振り返って、雲を思い出した。
急き立てられて、またのんびりと、私の休日は終わった。