暗い夜道に自動販売機が煌々と輝く。
誘蛾灯に引き寄せられる羽虫のように、目が自然と自動販売機を見てしまう。
何もないから、自動販売機がより目立つ。
この町には何もない。
山間の村に比べれば、まだマシなのかもしれない。
それでも、この町には何もない。
道には、何処までも連綿と続く田んぼと、規則正しく並んだ電信柱がある。
その中に幾つかの民家と、民家と電信柱を繋ぐ数本の電線がある。
そしてそれらをすっぽりと覆う夜と、生き物の息づかいと、吹き抜ける風がある。
それ以外は何もない。
夜が支配するこの道で、ともすれば、あるはずの田んぼも電信柱も、民家も生き物も風も、消えてしまう。
このまま息を潜めたら私も消えてしまうかもしれないと錯覚するほどに、何もない。
空恐ろしくなるほどに何もない道に、自動販売機は煌々と輝く。
真っ暗闇の中、一際に自動販売機の白光りは輝く。
反って「何もない」ことが際立つほどに、空恐ろしく輝く。
夜道を走る、走る、何処までも走る。
何もない道に時折、自動販売機の光が道の縁を照らし出す。
私は何処から来たのだろうか、何処へ向かうのだろうか。
暗い夜道に自動販売機が煌々と輝く。
誘蛾灯に引き寄せられる羽虫のように、目が自然と自動販売機を見てしまう。
その強い光は、魔力めいた力で私を惑わす。
「何もない」、それ以上もそれ以下もない。
何もないこの町の現実に、私は否応なく思い知らされる。
自動販売機から目をぐいっと背ける、そして現実に蓋をする。
自動販売機の横を猛スピードで走る抜ける。
目の片隅の光の残像を振り払う。
私は気付かなかった、そうして心を閉ざした。
今日は通り抜けられた。
しかし、明日も明後日も同じ場所で同じように自動販売機は稼働していることであろう。
明日も明後日も私は気付かない振りが上手にできるだろうか?
「何もない」、そのことに少し動揺した、9月23日の夜の道より。