歯医者に行った。
前回、治療した場所の続きだ。
完全に治るのは恐らくずっと先で、今回はそのずっと先の1歩目だ。
歯医者の玄関を開け、受付に保険証を出した。
事務員のお姉さんはさっと受け取ると、「中へどうぞ」と通した。
そして、通された部屋で治療台に座り、先生が来て、治療して、終わった。
時間にして、10分で終わった。
料金は1230円であった。
10分で約1000円とは、儲かるな、と考えた。
青々とした空に太々とした雲がどっしりと構えている。
山は気付けば見事な赤と黄色と緑色のコントラストで景色を華やかにしていた。
そんな中を駆け抜けて、家路に帰った。
秋の景色の10分にお金を支払う人はいない。
しかし、この景色を独り占めしようとするには国家予算でも足りないだろう。
見事な秋の景色を只で見れる贅沢か、と歯医者の帰りにちらりと考える。
ふと、歯医者もあの10分の技術を修得するのにどれ程のお金がかかったのか考えた。
きっと、途方もない金額がかかっているのだろう。
たった10分、されど10分、儲けたなという前に相手を称えるべきか。
秋の景色の中、卑しくもお金のことを考えながら、等しく10分を共有できることに不思議に感じる。