夜が開ける前に一雨降ったのだろう、朝の道が濡れていた。
その道に枯れ葉が点でバラバラに張り付いていた。
濡れた枯れ葉の匂いが冷えた空気に溶け込んでいた。
濡れた枯れ葉の匂いの中を颯爽と歩いた。
この湿った、芳醇な、枯れ葉の匂いが私は好きだ。
肺の隅々まで吸い込んで、吐き出した。
にわかに、継ぎ接ぎだらけの雑学が私の脳裏に蘇った。
匂いは空気に浮くくらい軽い固体と漫画で読んだこと記憶があった。
空気に浮くくらい軽い固体が匂いとすると、匂うものは得てして軽い固体を持っているのかもしれない。
犬の鼻が濡れているのは、より多くの空気中の匂いをキャッチするためと聞いたことがあった。
確か、犬の嗅覚は人間の嗅覚の1億倍だったはずだが、より多くの匂いをキャッチし易い仕組みとして、鼻先が濡れているのだ。
鼻先が濡れている、つまり、水分が匂いの固体を捉えているのだろう。
濡れた枯れ葉の匂いは、幾つかのブレンドがされているのだろう。
雨粒が地面に落ちた衝撃で舞った軽い固体と固体に張り付いたであろう液体が生まれる。
そこに木から枯れ落ちた葉の微粒子も混ざって、浮遊する。
濡れた枯れ葉の匂いとは、雨と土と枯れ葉が混ざった匂いなのだ。
それらが私の肺の隅々まで通り、私の脳や手足へと送られる。
だから、私の身体のコンマ数%は、雨と土と枯れ葉でできている。
今日はよく晴れていたのだろう、夕方の道は乾いていた。
その道に点でバラバラに枯れ葉があった。
ただ、濡れた枯れ葉の匂いはしなかった。
あの湿った、芳醇な、枯れ葉の匂いは何処へ行ったのだろうか?
濡れた枯れ葉の匂いは、私の身体の一部のままだろうか?
明日、目が覚める頃には、匂いの行方さえ忘れていることだろう。
駆け足に秋が終わる。