ネガティブ方向にポジティブ!

このブログは詰まらないことを延々と書いているブログです。

【爆速ロケット!!!】

爆速で駆け抜ける不条理劇。

 

松本令月(まつもと れいげつ)…主人公。

松本薫(まつもと かおる)…主人公の妹。

松本鏡前(まつもと きょうぜん)…主人公の父親。

長野淑子(ながの としこ)…研究員、鏡前の同僚。

風の女王…門番、淑子の顔と瓜二つ。

スプリット…ネズミ、鏡前の親友(?)

 

 

 電話の音。

電話に出る音。

 

松本令月(まつもと れいげつ)N「もしもし、松本です」

長野淑子(ながの としこ)N「あ、レイ君?」

令月N「淑子さん?」

長野N「今から研究所に来れる?」

令月N「急にどうしたんですか?」

長野N「鏡前(きょうぜん)さんが、大変なことになったの」

令月N「父が?何があったのですか?」

長野N「事情はこっちで説明するから、とにかく急いで来て欲しいの」

令月N「分かりました。直ぐ行きます」

長野N「ごめんなさい、待ってるわ」

 

電話が切れる音。

 

1、研究所

 

長野淑子、下手から出てくる。

松本令月、上手から(バッグを背負って)が出てくる。

 

令月「淑子さん!」

長野「レイ君、ごめんなさい、急に呼び立てて」

令月「いえ……それで、父は?」

長野「ああ……そうね、まずは端的(たんてき)に事実を伝えるわ。落ち着いて聞いて?」

令月「はい」

長野「鏡前さん、あなたのお父様は、ネズミになったの」

令月「……んん?」

長野「鏡前さんが研究していた「ナイアルラトホテップの疑似存在(きじそんざい)の接触可能領域(せっしょくかのうりょういき)を多元的物質空間(たげんてきぶっしつくうかん)に変移転換(へんいてんかん)するためのワームホール発生装置(はっせいそうち)の検証」をするために研究室に籠もって(こもって)いたわ……」

令月「え?ん?え?」

長野「でも、鏡前さんの研究が日本有数(にほんゆうすう)の魔術師(まじゅつし)にバレてしまって、鏡前さんをネズミに変えてしまったの」

令月「え?ちょ、ちょっと待って……」

長野「でも、あなたのお父様は決して諦めなかった(あきらめなかった)わ。これを見て。ワームホール発生装置の演算(えんざん)データの数値が残されていたの。可能性は極めて(きわめて)低いけれど、鏡前さんを元に戻すには、この方法しかないわ」

令月「え?え?……つまり?」

長野「レイ君には月に飛んでもらうわ」

令月「は?」

長野「この演算データでは、鏡前さんの遺伝子データが組み込まれているの。でも、今の鏡前さんはネズミ……遺伝子データが変わってしまうわ。同じ遺伝情報を持っているのは、レイ君、あなただけなの」

令月「ま、待ってくださいっ!何が何だが、全然分かりません!」

長野「……時間がないわ。レイ君、そこに座って」(令月を椅子に座らす)

令月「いきなり、訳の分からないことを……父が、ネズミ?というのも分からないし、ないあるてっぷ?とかワームホール?とか、淑子さんが何を言っているのか、分からないよっ!」(椅子に座る)

長野「拘束(こうそく)」

 

ガシャン、という音。

 

令月「え!?」

長野「これからあなたと鏡前さんはロケットで月の穴まで飛んでいくわ。月の穴に落ちると同時にワームホール発生装置を起動、ロケットは時空間移動(じくうかんいどう)をして、異次元空間(いじげんくうかん)へ到達(とうたつ)するはずよ」

令月「淑子さん!?淑子さん!??」

長野「レイ君、ごめんなさいね?鏡前さんをお願いね?」

 

ブザー音。

照明、全体を赤くする。

 

長野「5秒前、4、3、2、1、発射(はっしゃ)」

 

ロケットが打ち上げる音。

令月の声にならない絶叫。

鳴り響く、ブザー音。

 

ブザー音が徐々に小さくなる。

照明、赤から青へ、徐々に変わる。

同時に令月にスポット。

令月、顔を下に向けて、座っている。

 

松本薫(まつもと かおる)、上手から登場する。

 

薫「兄さま(にいさま)、どこに行かれるのですか?」

令月「父さんの研究所、淑子さんに呼ばれて」

薫「そうですか。帰りは遅くなりそうですか?」

令月「かもしれない。夕飯は用意しなくていい」

薫「分かりました。少々、お待ちになって」

 

薫、令月に巾着袋を手渡す。

 

令月「何これ?」

薫「今日の兄さまのラッキーアイテムです」

令月「巾着袋が?」

薫「中の小物はラッキーカラーのピンクで揃え(そろえ)ました!」

令月「お前はホント、こういうの好きだよな」

薫「運をバカにしてはいけません。これが兄さまを助けてくれるはずです」

令月「助けね……」(バッグに巾着袋を入れる)

薫「では、道中(どうちゅう)、お気を付けて」

 

薫、上手にハケる。

 

2、異次元空間

 

何かの警告音が鳴り響く。

令月、気を失っている

 

松本鏡前(まつもと きょうぜん)、上手から出てくる。

 

鏡前、令月の椅子を蹴飛ばす。

何かの警告音が止まる。

令月、起きる。

 

鏡前「おい、起きろ、レイ」

令月「ううん……父、さん?」

鏡前「すぐ移動するぞ、風の女王に会いに行く」

令月「……父さん!?」

鏡前「ぼけっとするな、急ぐぞ」

令月「ま、待ってくれ!」

鏡前「何だ?」

令月「色々、色々と突っ込みたいことがあるが……何だよ、その格好」

鏡前「?何か変か?」

令月「変態(へんたい)だよっ!良い歳したオッサンが着け耳着けて、何か、気持ち悪いよっ!」

鏡前「いや、ネズミだからな、今の俺(おれ)」

令月「それだよ!ネズミって何だよ!意味分かんねーってレベルじゃないぞ!」

鏡前「父さんの研究は聞いたか?」

令月「いやいや、聞いたけど、淑子さんが壊れたとしか思えないよ!何だよ、ないあるてっぷって!」

鏡前「ナイアルラトホテップな、クトゥルフ神話は聞いたことあるか?」

令月「……ニコニコ動画で見たことあるけど……あれ、大元から創作(そうさく)だろ?」

鏡前「もし、もし本当に存在したら?」

令月「ナイアル、ラトが?」

鏡前「そうだ、その痕跡(こんせき)を偶然(ぐうぜん)発見したんだ、一昨日(おととい)」

令月「え、一昨日なの?そんな最近なの?」

鏡前「ああ、父さん、その痕跡を見て閃いた(ひらめいた)ね。ワームホール発生装置の構造設計(こうぞうせっけい)がな」

令月「ねえ、父さんの仕事って何?」

鏡前「何だ、忘れたか?河川(かせん)の地質調査(ちしつちょうさ)だ」

令月「地質学の人間がワームホール作ろうって発想になるの?」

鏡前「え、そりゃあ、神様に会いたいじゃん?」

令月「会いたいじゃんじゃねーよ、頭オカシイの?」

鏡前「いやー、それほどでも」

令月「褒めて(ほめて)ない、ドン引きしてんだよ」

鏡前「お前は会いたくないのか?」

令月「……そりゃあ、会ってみたい、けど……」

鏡前「よし、では行くぞ、風の女王に会いに」

令月「当然のように言っているけど、風の女王って何だよ」

鏡前「説明が面倒(めんどう)だな、まあ、門番みたいなもんだ」

令月「女王なのに門番とは是如何に(これいかに)」

鏡前「こっちだ!」

令月「いや、まだ聞きたいことが山ほどあるんだけど」

鏡前「時間がない、急げ」

令月「ちょ、急かさないでよ……」

 

鏡前、令月、下手へ。

愉快な音楽。

スプリット、上手から出てくる。

スプリット、「それから、それから」と書かれた紙を見せる。

スプリット、下手にハケる。

 

3、風の女王の城

 

鏡前「ここだ」

令月「ここに、風の女王?がいるの?」

鏡前「そうだ」

令月「ていうか、何しに来たの?」

鏡前「元の世界に戻るための手順だ」

令月「戻るための手順……?」

鏡前「元の世界に戻るためには一度、風の女王と勝負をしなければならない」

令月「ああ、そう……」

鏡前「分岐確定(ぶんきかくてい)のためにはどうしても必要な手順なんだ」

令月「分岐確定とか、ゲームかよ……」

鏡前「来たぞ!」

 

風の女王、上手から登場する。

 

風の女王「誰じゃ?」

令月「え、淑子さん?」

鏡前「風の女王!ここで会うたが百年目!我が手で討ち果たして(うちはたして)やろうぞ!」

風の女王「ほう?我に勝負を挑む(いどむ)身の程知らず(みのほどしらず)がおるとはな……」

令月「と、父さん?!あれ、淑子さんだよね!」

鏡前「何を言っているんだ?風の女王だ!」

令月「いや、どう見ても、淑子さんにしか見えない……」

鏡前「そうか?淑子はもっと、こう、可愛いぞ?」

令月「いや、急に惚気(のろけ)られても……」

風の女王「何を話している?」

鏡前「何でもない!覚悟しろ!風の女王!」

風の女王「ふん!蹴散らして(けちらして)くれるわ!」

鏡前「いけ!レイ!」

令月「え?僕?」

鏡前「俺たちが元の世界に戻れるかどうかは、お前にかかっているぞ!」

令月「淑子さんもそうだけど、事前に説明も何もないよね?」

鏡前「来るぞ!」

令月「え、だから、何が、ちょ、待って」

風の女王「最初はグー」

令月「え、ジャンケン?」(「グー」で令月もグーを出す)

風の女王「ジャンケン、ポン!」

 

令月、風の女王と「あっち向いてホイ」の勝負をする。

 

※1、令月、勝った場合

令月「あ、勝ったけど……」

鏡前「よし!よくやった我が息子!」

風の女王「ぐぬぬ……!我を負かすとは……」

鏡前「風の女王!観念(かんねん)しろ!大人しく、カギを寄越すんだ!」

風の女王「ええい、下賎(げせん)な者共め……!」(手を振る)

 

轟々(ごうごう)と風の音。

 

鏡前「おい!何をするつもりだ!」

風の女王「我が貴様ら(きさまら)如き(ごとき)に遅れを取るとでも?……有り得ぬっ!有ってはならぬのだっ!」

 

※2、令月、負けた場合

 

令月「あ、負けたけど……」

鏡前「あああ!」

風の女王「ふふふ……所詮(しょせん)は虫けらよ、他愛(たあい)もない」

鏡前「おのれ、風の女王……!」

風の女王「ふはははは!虫けらには虫けらに相応しい(ふさわしい)場所へ行くが良い!」(手を振る)

 

轟々と風の音。

 

鏡前「おい、何をするつもりだ!」

風の女王「我が秘術(ひじゅつ)で最下層(さいかそう)にまで飛ばすまでよ!」

 

※1、※2、続き

風の女王、しなるように手を振り、上手にハケる。

 

轟々と風の音。

照明、嵐の窓の雨粒のように壁に青と灰色のまだら模様を映す。

 

令月、鏡前「うわあああ!」(風に翻弄される)

雷の音。

 

4、最下層

 

ドシン、と落ちる音。

 

令月、鏡前、舞台中央でうずくまる。

 

令月「いってー……」

鏡前「レイ……大丈夫か?」

令月「うん……ここどこ?」

鏡前「最下層……平たく言えば、マンホールの中だ」

令月「マンホールの中というのが適切とは思えないんだけど?」

鏡前「……これは幸運かもしれないな……」

令月「何が?」

鏡前「元の世界に戻れるかもしれない」

令月「え?ここから帰れるの?」

鏡前「ああ、父さんがナイアルラトホテップの疑似存在の接触可能領域を多元的物質空間に変移転換するためにワームホール発生装置を作ったのは知っているな?」

令月「知らないよ、謎の呪文(じゅもん)にしか聞こえないよ」

鏡前「ここが、その、接触可能領域だ」

令月「えっと……つまり」

鏡前「水洗トイレの中を通って、元の世界に帰る」

令月「ねえ?もうちょっとこっちのペースに合わせてくんない?」

鏡前「しかし、水洗トイレの場所が分からない……どうすれば……!」

令月「ねえ、僕の話を聞いて、本当、お願いだから?」

 

スプリット、下手から登場。

 

スプリット「ちゅー」(よう、久しぶりだね鏡前さん!のテンションで)

鏡前「!お前、スプリットか!」

令月「え、今度は何?」

鏡前「ワームホール発生装置の実験で飛ばしたネズミだ」

令月「さらっとエグいことを告白しないでくれる?」

鏡前「俺の無二(むに)の親友だ」

令月「親友を異次元に飛ばすとか、サイコパスかよ」

鏡前「スプリット!済まん!水洗トイレのある所まで、連れてってくれ!頼む!」

スプリット「……ちゅー!」(……色々と言いたいことはあるけれど、親友の頼みじゃ断れないな。良いよ、着いてきて!のニュアンス)

鏡前「スプリット……!ありがとう!」

令月「普通に会話しているのが怖い」

鏡前「ほら、行くぞ、レイ!」

令月「ネズミの後を追うの、正気?」

鏡前「?ロケットに飛ばされといて、今更?」

令月「ロケットは淑子さんだし!というか、今それを言う?!」

鏡前「四の五の言うな!行くぞ!」

令月「……分かったよ」

スプリット「……ちゅー!」(……やれやれ、鏡前さんは相変わらずだな。さて、こっちだよ!のニュアンス)

 

スプリット、鏡前、令月は下手へ。

 

薫、桶(おけ)と紙を持って上手から出てくる。

薫、「それから、それから」の紙を見せる。

薫、桶を舞台中央に置き、上手へハケる。

 

4、最下層(水洗トイレ)

 

令月「……本当にトイレじゃん……」

鏡前「スプリット!ありがとう…!俺は、俺はお前に……」

スプリット「ちゅー……?」(気にしなくて良い……私とあなたの仲でしょ?のニュアンス)

鏡前「スプリット……!」

令月「感激しているところ悪いんだけど、どうするの?」

鏡前「ん?水洗トイレの中を通ると言ったろ?」

令月「いや、どうやって通るのさ?下水道でも探すのか?」

鏡前「レイ、これに乗れ」

令月「これって……桶?」

鏡前「お前はこれに乗って、元の世界に戻れ」

令月「桶に乗って帰るっていうのも分かんないけど……これ、大の男が2人乗るには小さ過ぎるでしょ?」

鏡前「俺は、乗らん」

令月「……また意味の分からないことを。帰るよ」

鏡前「俺は、帰らん」

令月「いい加減にしてよ!ここまで好き勝手しといて、帰らないなんて言うなよっ!」

鏡前「俺は、会いに行かねばならない」

令月「神様に?今回は別に良いじゃん?帰るよ、父さん」

鏡前「俺は、母さんに会いに行く」

令月「死んだ人間に会いに行って、何になるのさ!僕や薫のことはどうでも良いのかよ!?」

鏡前「俺は、ネズミに変わった」

令月「だから、意味が分からないって」

鏡前「レイ、本当は、分かってるだろ?」

令月「分かんないよ……分かりたくない……」

鏡前「レイ、俺は母さんの所へ行く」

令月「……どうしても、帰らないの?」

鏡前「レイ、頼む」

令月、バッグから巾着袋を出し、中からピンクの小物を出す。

鏡前「何だ、これは?」

令月「今日の俺のラッキーアイテムが巾着袋で、ラッキーカラーがピンクだそうだ」

鏡前「薫か?あいつもよくよく好きだよな……」

令月「俺の幸運、父さんに分けるよ」

鏡前「……戻ってこいってか?」

令月「約束、できるよね?」

鏡前「当然!俺はお前の父親だからな!」

令月「……分かった、待ってる」

鏡前「おう!待ってろ!」

スプリット「ちゅ~……!」(もうヤだ!泣かせないでよ~……のニュアンス)

令月「ああ、スプリット。お前にも丁度良いのがある」

令月、巾着袋からピンクの包みのチーズを出し、スプリットに渡す。

スプリット「ちゅー!」(お!気が利くじゃないの!のニュアンス)

令月「……じゃあ、行くね、父さん」

鏡前「気を付けてな!薫をよろしくな!淑子には、俺のことは忘れろっと言っといてくれ!」

令月「淑子さん、そんなことじゃあ諦めないと思うけど……分かった」

 

令月、桶に乗る。

鏡前、令月の背を押す。

 

鏡前「このまま、お前はトイレの水洗の流れに乗って行けば良い。この桶にしっかりと捕まっていろ。恐らく、途中で気が遠のくだろうが、絶対に手を離すな。目が覚めれば、元の世界だ」

令月「母さんに息子と薫は元気にやっていること、ちゃんと伝えてよね!」

鏡前「おう!任せろ!」

令月「……さよなら!必ず戻ってきてよ!」

鏡前「おう!しばしの別れだ!待ってろ!」

スプリット「ちゅー!」(行けー!のテンション)

 

鏡前、スプリット、後ろに下がりながら上手にハケる。

濁流の音。

照明、点滅し始める。

段々と、点滅の間隔が短くなり、暗転。

 

5、家

 

照明、ゆっくりと地明かりになる。

上手から、薫が出てくる。

 

薫「兄さま、おはようございます」

令月「ああ、おはよう」

薫「良い夢は見れましたか?」

令月「どうだろう?覚えていないな、ひどく疲れた気はするけど」

薫「それはいけませんね。ご飯の支度(したく)はできてますよ」

令月「ああ、ありがとう」

 

令月、視線を下手側へ。

スプリット、下手側に出る。

令月、軽く手を振る。

スプリット、ハケる。

 

薫「?兄さま?外に何かいるのですか?」

令月「いや、何でもない、ご飯にしよう」

 

薫、上手にハケる。

令月、上手に行く。

令月、立ち止まり、振り返る。

 

令月「待ってるから」

 

令月、上手にハケる。

 

了。