ネガティブ方向にポジティブ!

このブログは詰まらないことを延々と書いているブログです。

【皮と骨とが剥がれる音】中盤前半。

物語の中程、だ。

 

 

4、(回想終わり)皮剥の館、内部。

 

照明、背景薄暗い黄色。

音響、振り子時計の音。

 

小夜、雨羅、下手から舞台中程へ。

仁科、ノエル、下手から上手前へ。

 

小夜「隠れるのが上手いわね」

雨羅「まあ、館の主を名乗ってるし、館の構造は熟知してるだろ」

小夜「自分の寝室がどこにあるかも知っているでしょうね」

雨羅「いや、むしろそこは知ってないとおかしいだろ?」

小夜「寝室が30くらいあるかもしれないじゃない?」

雨羅「多過ぎだろ。館の部屋、全部寝室かよ」

小夜「気分で今日寝る部屋を変えているのよ」

雨羅「今日は良い気分だから奥の部屋とか?乙女か」

小夜「朝の星座占い次第で今日の気分が変わるわ」

雨羅「乙女か。夜まで引っ張るな」

小夜「朝一よ。不貞寝(ふてね)するから別の部屋に行くわよ」

雨羅「ブルーな気持ちだから手前の部屋ってか?面倒な乙女か」

小夜「しょうがないじゃない?これから殺されるのに、不貞寝くらいしたくなるわ」

雨羅「ああ、成る程?確かに今日死ぬって分かったらブルーにもなるか」

小夜「ええ。可哀想な人なの。早く見付けて、首をちょん切らないと」

雨羅「ああ、まったく可哀想な奴だ。早く見付けて、首をかっ切らないと」

仁科「……なあ、ノエル」(ノエルを裾(すそ)を引き、小声で話し始める)

ノエル「……何?」(小声で応じる)

仁科「あいつらに着いていって、大丈夫なのか?」

ノエル「……大丈夫だよ。これはゲームで、あの二人は、きっと、アクターだよ」

仁科「アクター?」

ノエル「ゲームの案内役」

仁科「いや、そうだったとしたら、あのキチガイのお仲間ってことだろ?」

ノエル「……キチガイ?」

仁科「人間の死体を館に運び込むような奴、まともじゃないって」

ノエル「ちょ、ちょっと変わった人なんだよ、きっと。あの二人は怖くないし」

仁科「……俺は信用できない」

ノエル「順平、だ、大丈夫だよ、大丈夫……」

 

雨羅、ノエルの肩に手を置く。

 

ノエル「ヒッ!」

雨羅「おっと、驚かせちまったな。悪りぃ、悪りぃ」

仁科「(雨羅とノエルの間に割って入る)何ですか?」

雨羅「いや?楽しそうにお喋りしているから、仲間に入れて欲しいなって」

仁科「ああ、そうですか」

ノエル「こ、これからどうしましょうかっ!」

雨羅「小夜、どうする?」

小夜「そうね、一番手っ取り早い方法にしましょ?」

ノエル「一番手っ取り早い方法?」

小夜「全部の部屋をしらみつぶしに調べる」

雨羅「まあ、それしかねえか」

小夜「効率的に探すなら手分けしてやった方が良いのだけど……」

ノエル「み、みんなで探しましょ!離れるのは、怖いし……」

仁科「……反対。早く終わらすなら、別れた方が良い……(お前らと一緒に居たくないしな)」(()内、小声)

小夜「そうね、じゅんじゅん、私もそう思うわ」

雨羅「んじゃあ、手分けするか」

仁科「……あの」

小夜「何?じゅんじゅん?」

仁科「その、じゅんじゅんっての、止めてもらって良いですか?」

小夜「ええっ!そんなっ!」

雨羅「ほらあ。だから、いきなり距離を詰め過ぎなんだって」

小夜「おかしい。ニックネームで呼ぶことによって秒でマブダチに、ノエールとじゅんじゅんの結婚式に友人代表としてスピーチする計画が、間違っていたというのっ!」

雨羅「間違いしかないわ、コミュ症」

小夜「いいえ違いまーす。私はコミュ症ではありませーん。周りが私のペースに合わないだけでーす」

雨羅「事実から目を逸らしても、現実は変わらないぞ?」

小夜「ああ、ウツだ、殺そう」

雨羅「そこで「死のう」とならない辺り、図太いよな」

小夜「現実が変わらないなら、私が現実を変えるまでよ」

雨羅「カッケー、これは秒で惚れる(ほれる)」

仁科「……あの」

雨羅「あー、悪い。仁科さん、これで良いか?」

仁科「……ええ、まあ」

ノエル「ふ、二人は、その、えっと、ファンキーなファッションですね!」

雨羅「お?分かる?イカしているだろ?」

仁科「イカレてる、の間違いだろ……」(ぼそっと小声)

ノエル「(仁科の発言に被せるように)最高です!どこの服ですか?アトリエピエロですか?ゴシックホリックですか?」

雨羅「(小夜を指差して)こいつの手作り」

ノエル「え!すごい!」

雨羅「元々、小夜の趣味だったんだ、ゴシック。小夜から色々と教えてもらっている内に、ゴシック沼にずっぽし、って訳よ」

ノエル「へえ!そうなんですね!」

雨羅「それなのに、こいつ、「ゴシックドレスは終わり、時代はジャージよ」とか言い始めてな……」

小夜「伸縮性のある生地は軽快な動きをサポート!速乾性、保温性に優れ!耐久性もあってお手入れも簡単!部屋着にもオシャレにも対応できる適応性の高さ!ジャージ、これが人類の最適解よ!」

雨羅「規模がでかい」

小夜「私は部屋着、寝間着(ねまき)、仕事着、お出かけ用、布教用(ふきょうよう)、観賞用のジャージを持っているわ!」

ノエル「観賞用……?」

雨羅「ジャージ見ながら紅茶を飲むのがこいつの趣味なんだよ」

ノエル「……優雅ですねっ!」

小夜「分かる!?嬉しいわ。あなたもジャージを着ましょ?ね?」

雨羅「目が怖ぇよ、正気に戻れ」

ノエル「えっと……き、機会がありましたら……」

小夜「(ポケットからメモを出す)ここがオススメよ!個人営業のお店なんだけど、ここのポイントカードは素晴らしいわ。ポイントが貯まれば、商品1点と引き換えできるの!1000円で1ポイント、カードは20ポイント、2万円の買い物をすれば、どの商品でも!ちょっと値の張る、3万円とか4万円の商品でも交換してくれるのよ!まあ、1点で3万するような商品はそんなにないんだけど。普通、洋服とか買おうとしたら、10万円とか飛ぶじゃない?ここで買い物すれば、実質5点はタダ!すごくない?!超オススメ、ここで買うべきよ!」(ノエルにメモをぐいぐいと手渡そうとする)

仁科「普通、服に10万円も使わないでしょ……」

雨羅「ん?そうか?10万くらいは普通じゃねーか?」

ノエル「そうですね、10万くらいなら、まあ、普通じゃない?」

仁科「え?うっそ、俺の方が少数派なの?」

ノエル「女の子は、色々と入り用なの……えっと……ありがとうございます?」

小夜「良いのよっ!ふふっ、これで世界の景色がより良くなったわ」

雨羅「だから規模がでかいって」

ノエル「お二人は、本当に仲が良いですね」

小夜「当然よ、私のずだ袋よ」

雨羅「まーた照れてら。お可愛いこと」

小夜「うっさい!」

 

雨羅、意地悪く笑う。

ノエル、場の雰囲気が和らいだことにほっとする。

 

仁科「……あの」

雨羅「ん?何だ?」

仁科「お二人は、殺し屋、なんですよね?」

ノエル「ちょっと……!」

小夜「そうよ、私たちは殺し屋よ」

雨羅「そうさ、あたしたちは殺し屋さ」

仁科「それは、本当ですか?」

小夜「本当よ、嘘じゃない」

雨羅「嘘じゃないさ、本当だ」

仁科「……あいつを殺すんですか?」

小夜「あいつ?あいつって九十九一のことかしら?」

雨羅「あいつ?あいつって九十九一のことか?」

仁科「はい」

小夜「ええ、どうだったかしら?殺すのかしら?」

雨羅「さあ?どうだったかな、殺すんじゃねーか?」

小夜「そうね、殺すわ、真っ二つに切断して」

雨羅「そうだ、殺そう、バラバラに切断して」

小夜「ねえ、どんな顔をすると思う?」

雨羅「ああ、どんな顔をするんだろうな?」

小夜「絶望に目を見開くのかしら?」

雨羅「痛みで喚き散らかす(わめきちらかす)のかな?」

小夜「死にたくないって言うのかしら?」

雨羅「口から血を零し(こぼし)ながら?」

小夜「そう!口から血をごぼごぼと零しながら」

雨羅「死にたくないって言うかな?」

小夜「鼻から血を吐き出しながら?」

雨羅「ハハハッ!そう!鼻から血をどろどろと吐き出しながら」

小夜「楽しみね、雨羅」

雨羅「楽しみだな、小夜」

小夜「ええ、私たちは、九十九一を殺すわ」

雨羅「ああ、あたしたちは、九十九一を殺す」

小夜「必ず」

雨羅「必ず」

仁科「……殺し屋ってことは、誰かに依頼された、んですよね?」

 

小夜、日本刀の切っ先を仁科に向ける。

 

小夜「知りたい?」

仁科「……え?」

小夜「誰が。九十九一を。殺して欲しいと。希ったのか。知りたい?」

仁科「え、いや、その」

雨羅「知りたいのか?誰が。九十九一を。死んで欲しいと。切願ったのか。知りたいのか?」(仁科の背後に回り込む)

仁科「ま、ま、待って!は、刃物、あ、あぶ、危ない……」

小夜「答えろ」

 

仁科、必死に首を横に振る。

 

小夜「首を横に振ったわ、雨羅」

雨羅「首を横に振ったな、小夜」

小夜「横に振ったから、答えはノーかしら?」

雨羅「横に振ったけど、答えはイエスかも?」

小夜「どっちかしら?」

雨羅「どっちだろ?」

小夜「ねえ、どっち?」

雨羅「なあ、どっち?」

小夜、雨羅「どっちだ」

仁科「ノーだっ!知りたくないっ!ノーだっ!!」

小夜「そう、知りたくないの、残念だわ」

雨羅「まあ、知らぬが仏、あんま気にすんな、な?」

仁科「は、はい……」

ノエル「あ、あの、その……」

雨羅「お?何だ?」

ノエル「げ、ゲームをしましょ!部屋を調べるんですよね?」

雨羅「そうだな、始めるか」

小夜「何か見付けたら、教えて頂戴(ちょうだい)?」

ノエル「は、はい!がっ頑張るぞぉ!」(仁科に目配せ)

 

仁科、首を縦に振る。

 

小夜「さて、鬼さんはどこにいるのかしら?フフッ……」

ノエル「私は!順平と、探しますね!」

雨羅「おお、じゃあ、あたしはこっち」(下手側を指差す)

小夜「なら、私はこっち」(上手側を指差す)

ノエル「では!私たちはこの部屋から調べますね!」

小夜「お願いね?じゃあ……散(さん)!」

雨羅「急になんだよ、忍者かよ」

小夜「山!」

雨羅「川って言えば良いのか?」

小夜「特に意味はないわっ!」

雨羅「さいですか。じゃあこれで終わりな?」

小夜「いけず」

雨羅「はいはい、とっととやるぞ?ほら」

小夜「では、また」

雨羅「ああ、また」

 

小夜、上手側から客席へ。

雨羅、下手側から客席へ。

ノエル、舞台前で調べ始める。

仁科、舞台億へ調べ始める。

音響、振り子時計の鐘の音。

 

市ヶ谷、上手からぬるりと出てくる。

 

市ヶ谷「デュフフフ」(ノエルの後ろへ)

ノエル「え?キャア!」(市ヶ谷に捕まる)

 

小夜、異変に気付き、客席から上手側端へ。

雨羅、異変に気付き、客席から下手側端へ。

 

仁科「!ノエルっ!」

市ヶ谷「おっとぉ、動くな動くな、動くとこの娘の首をへし折るぞい?ヘヘヘ」

ノエル「……!!」

仁科「わ、分かった、動かない!動かないからっ!」

市ヶ谷「んんー?他の2人はどこだぁ?」

仁科「あ、あの2人なら、別の部屋を探しているっ!」

市ヶ谷「そうかそうか……お前、後ろを向け」

仁科「後ろを……」

市ヶ谷「早くしろ」

ノエル「順平……」

仁科「分かった、分かった…」(後ろに向く)

市ヶ谷「膝をつけ、両足な?グフフフ」(仁科、黙って膝をつける)

市ヶ谷「ハアハア……手は頭の後ろで組め、良いか?頭の後ろだぞ?」(仁科、手を頭の後ろで組む)

市ヶ谷「ヒヒヒヒッ!そのままじっとしてろよぉ?」

市ヶ谷「ハアハア……なあ、女?」

ノエル「ひう……!」

市ヶ谷「デュフフフ……怖いか?ええ?怖いのか?」

 

市ヶ谷、ノエルのうなじに顔を埋めて、深く息を吸い込む。

 

ノエル「うぇ……」

市ヶ谷「……ハアア……良いね、湿っぽくて酸っぱい匂いがするねぇ、グフフフ……」

ノエル「や、止め、て……」

市ヶ谷「なあ、助かりたいか?」

ノエル「え?」

市ヶ谷「助かりたいのか?フヒヒヒヒッ」

ノエル「た、助けてくれるのですか?」

市ヶ谷「アレを殺せ」

ノエル「……え?」

市ヶ谷「お前の男か?ええ?アレを殺すんだよ」

ノエル「そ、そんなの……」

市ヶ谷「できないってなら、お前が死ぬんだよ」

ノエル「ヒィ!」

市ヶ谷「さあ、どうする?どうするんだぁ?アレを殺すのかい?お前が死ぬのかい?」

ノエル「わ、私できない、そ、そんな……」

市ヶ谷「お?じゃあ、お前が死ぬってことで良いんだな?」

ノエル「い、嫌っ!げ、ゲームでしょ?こ、降参するから、や、やめて……!」

市ヶ谷「ゲーム?まぁだそんなこと言ってるのかい?グフ、可哀想な女だな……」

ノエル「た、助け……」

市ヶ谷「さあ、選べ、アレを殺すのか?お前が死ぬのか?」

仁科「……し……」

ノエル「じゅ、順平……!」

仁科「……死にた、死にたくないっ!」

ノエル「!!」

仁科「こ、殺すなら……殺すなら……」

市ヶ谷「お?お?こ、殺すなら、何だいぃ?デゥフ、グフフフフッ!」

小夜「あなたが死ぬのよ」(上手手端から一息に市ヶ谷の背後へ、日本刀で切り掛かる)

市ヶ谷「ヌフゥ!??」(間一髪の所で避ける。その際にノエルから離れ、下手側寄りへ)

雨羅「お前が死ぬんだよ」(下手端から飛び出し市ヶ谷の近くへ、ナイフを構える)

市ヶ谷「ヌワッとと」(舞台中央へ)

小夜「あら?あなた、九十九一の横に居た変態さん?」

雨羅「あー、居たな、九十九一にへばりついていた豚野郎」

小夜「ご主人様に命令されてきたのかしら?」

雨羅「あいつに命令されてきたのかな?」

市ヶ谷「グッ、べ、別にしゅ、主人ではない……」

小夜「成る程、ツンデレね」

雨羅「誰得(だれとく)だよ、オムツとネクタイだけしてるおっさんのツンデレなんて」

小夜「そういうニッチの要求も満たしていかないと!」

雨羅「誰目線だよ、そんな需要はねぇ」

小夜「腐女子とか?ネクタイをクイッて引っ張るのが良いのよ」

雨羅「オムツのおっさんのネクタイを?居るのかね、そんな物好き」

小夜「居るわ、世界は広いもの」

雨羅「あまりの多様性に愕然(がくぜん)とせざる得ない」

小夜「あら?オムツとネクタイだけの変態の内蔵を打ちまけるのに興奮しちゃう物好きだって居るわよ?』」

雨羅「ああ……確かに。豚野郎(ぶたやろう)の内蔵をかき混ぜるのに愉悦(ゆえつ)しちゃう物好きとか、居るな」

小夜「ねえ、変態さん、あなたの内蔵はどんな匂いなのかしら?」

雨羅「なあ、豚野郎、お前の内蔵はどんな色なんだろうな?」

小夜「私に嗅がせて頂戴よ」

雨羅「あたしに見せておくれよ」

小夜、雨羅「さあ、さあ、さあ!」

市ヶ谷「い、嫌だねっ!ブヒィ!」

 

音響、館が大きく軋む音、続いて、女の声が響く。

 

市ヶ谷「ヒィ!た、タミコ!」

小夜「ああ、例の幽霊ね……随分(ずいぶん)、苦しそうに呻く(うめく)こと」

雨羅「毒飲まされて死んだんだっけ?そりゃあ、苦しいだろうよ」

小夜「……あれ?タミコで良いのよね?毒で死んだのは?」

雨羅「おお、毒で死んだのはタミコで良いぞ、文月から聞いた話だとな」

小夜「そうよね」

 

照明、誰もいない場所に白いスポットライト、数秒点いて消える。

音響、女の呻き声。

 

市ヶ谷「う、うわあああ!」(雨羅に体当たり気味に突っ込んでいく)

雨羅「おっと、こら逃げるなって」(ナイフを突き出す)

 

音響、館が大きく傾く音。

 

小夜、仁科、ノエル、雨羅、バランスを崩す。

市ヶ谷、雨羅がたたらを踏んでいる間に下手へハケる。

 

小夜「頓馬(とんま)」

雨羅「悪ぃ。で、どうする?」

小夜「待って……」(目を閉じて、神経を研ぎ澄ます(とぎすます))

 

音響、女の声。

 

小夜「……逃げるわよ」

雨羅「オッケー。おい、ノエル、仁科さん」

 

仁科、大きく肩が跳ねる。

ノエル、静かに振り向く。

 

雨羅「この部屋から出るぞ、立てるか?」

仁科「あ、はい……」

ノエル「……はい」

小夜「……こっちから来ているから、こっちね、行くわよ」(上手へハケる)

雨羅「おう」

 

雨羅、仁科、ノエル、上手へハケる。

 

照明、舞台中央を白いスポット照明、ゆっくりと。

 

皐月N「……お姉ちゃん……?」

 

照明、白いスポット照明、ゆっくりと消す。

 

④、(回想)皮剥の館。

 

照明、全体を青く。

文月、下手から出て、立ち止まる。

九十九、上手から舞台中央へ。

 

九十九「フミ?フミや!私は退屈だよ!こんな何もない山奥に閉じ込められて!毎日、毎日、毎日!書留(かきとめ)で届く書類に判子を押すだけ。何の変化もない。頭が可笑しくなりそうだ!本家の奴らの顔を見なくて済むのは有り難いが、この館には変化が無さ過ぎる!私は退屈で死にそうだっ!……あー、フミ、聞いているか?」

文月「……はい……」

九十九「何か、何か、変化が欲しい……血が沸き立つような、全身の肌が粟立つような、そんな刺激が欲しいっ!フミ、私は考えたよ」

文月「……何でしょう……」

九十九「……フミ、君には妹がいるそうだね?双子の、妹が」

文月「……はい……」

九十九「名は?」

文月「……皐月です……」

九十九「そうか、そうか!サツキ!良い名だ!フミよ!サツキをこの館に連れて来い!」

文月「……え……?私がです、か?……」

九十九「そうだよ、君が連れて来い、サツキを、この館に」

文月「……私が……皐月を……」

九十九「私のために、連れて来るんだよ、フミ」

文月「……畏まりました(かしこまりました)……」

 

九十九、満足そうに立ち去ろうと上手側へ。

 

九十九「……ああ、フミ、こんなことはないと思うんだが。君が、もしも、万が一、逃げ出してしまったとしても、見逃すよ。サツキに免じて、ね?嬉しいかい?」

文月「……逃げ、る……」

九十九「そう、逃げても、良い。私の手の届かない所へ、サツキを連れて来たら、逃げて良い」

文月「……逃げて……」

九十九「そうだ、分かったね……嗚呼、心が躍るよ!早く、早く明日が来て欲しい!サツキ、君が待ち遠しいよ……!」

 

九十九、上手にハケる。

照明、舞台中央にスポットライト。

文月、舞台中央のスポットライトへ入る。

 

※歌4(文月)

 

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紅(くれない)の色した

ピエロと少女

夕暮れの公園

何処かへ連れてく

 

誰かの影を踏む

顔の暗いおじさん

黄昏(たそがれ)の影の中

手招きしている

 

街灯に集まる

虫たちの行進

宵闇(とこやみ)のマネキン

こちらを見てるよ

 

太陽が落ちていく

魔が潜む夜へ

あなたの後ろにも

何かが居るよ、ほら

_____

 

文月「……逃げた、私は、妹を、あの悪魔に、引き渡して……私は、逃げて、しまった……」

 

文月、下手へのろのろとハケる。

照明、舞台中央のスポットライト、点けたまま。

 

皐月N「……お姉ちゃんは知らない。私が最初に裏切ったことを。お金に目が眩んで裏切ったことを。だから、ワタシのは天罰、天罰だったんだよ、お姉ちゃん……」

 

照明、舞台中央のスポットライトがふっと消える。