大鉈で切り裂いたような雲を横目に駐車場へ向かう。
幾台かの自動車が同じ場所をなぞったことを端的に示した乾いた土のタイヤ跡が、人間の生々しい存在感を物語っている。
最近雇った我が相棒は顔をびっしりと凍らせ、不貞腐れているように見える。
エンジンを吹かして、しばし手元の電子機器で没入する。
電子の波に寄せられたサーファーで今日も賑わっている。
政府が、マスクが、10万円が、イギリスが、医療の現場が、それぞれが信じる真実を声高に叫ぶ。
我が相棒がやる気ななったのも見越して、アクセルを踏む。
対向車線のライトが虹の円環を作っている。
電信柱が退屈そうに、ソーシャル・ディスタンスを守りながら並んでいる。
何となしに、自動販売機に立ち寄る。
音声案内のお姉さんがとっくに使えなくなったポイントカードの使用を勧めてきて、上と下との意志疎通の乖離をひっそりと憂いる。
私のお気に入りの缶コーヒーが何時の間にか「つめたい」しかなく、春の陽気の到来の遅れも憂いる。
アクセルを踏み込んで、田んぼの畦道を見る。
世の中がコロナ禍で大騒ぎの中、ムスカリやタンポポがのんびり揺れている。
人間の騒ぎは、自然の営みにはほとんど影響がない様子だ。
このまま仕事も休みになりはしないだろうか?
と、いつもの愚痴も自然と零れる。
ぼおっと運転していれば、嗚呼、いつもの我が家だ。
私が社会に厭われて三十余年、騒ぎの最中に若干乗れないというもどかしさと、騒ぎ過ぎやしないかという薄情さを脇に抱えて、今日も玄関のドアノブに手を伸ばす。