ネガティブ方向にポジティブ!

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ビール瓶

今週のお題「怖い話」

 

 

昔、私が小学生の時の話だ。

私の通っていた小学校の近くに公園があった。

公園は見通しの良い芝生と人工の小高い山があり、走り回って遊ぶには丁度良い公園であった。

 

公園は校門から出て歩いて3分、走れば1分もかからない場所にあった。

私の通学路からは外れていたが、鬼ごっこをやる人を集めているときにたまに混ざって遊んだりした。

私はそれほど熱心に鬼ごっこをしていた訳ではなかったが、公園で遊ぶのは大変に楽しかった。

 

その公園にSくんという子も来ていた。

Sくんは私の通う小学校とは別の小学校から来ているようであった。

記憶があいまいな部分があるが、同じ小学校ではなかったような気がする。

 

少なくとも同じクラスメイトではなかったが、Sくんはよく公園に来ているようで、公園でよく遊ぶ主要グループとも仲が良かった。

その流れで私とも顔合わせをするし、何度か会話もした。

だが、たまにしか鬼ごっこに参加しない私とSくんの仲は、知り合いの内からは出ないものだったろう。

 

ある日、私も鬼ごっこに参加して、その鬼ごっこが終わった。

他の子どもたちは鬼ごっこの後は、家からカードゲームを持ってきてベンチを占拠して遊んでいるようであった。

私はカードゲームには興味がなったので、鬼ごっこが終わればさっさと家に帰っていた。

 

だが、その日は私は公園に残った。

母が小学校に用事があるだがで、次いでに私を迎えに来てくれるという話になっていた。

なので、母が用事を済ますのを私はベンチに座り、ぼけっと座っていた。

 

珍しい日には珍しいことが続き、他の子どもたちは帰っていた。

誰かの家で遊ぶだが何だが、とにかくいつも残っている人らが1人も居なかった。

1人だと公園はだだっ広くて、誰か来ないものか、と少し考えていた。

 

そこへSくんが来た。

Sくんは周りをきょろきょろしていたが、公園に私しか居ないことに落胆しているようであった。

そういえば、今日はSくんも公園に来るのが随分と遅いな、と私と考えていたのを覚えている。

 

Sくんは私のところに来て、「他の人は?」と聞いてきた。

私は「帰ったよ」とだけ答えた。

Sくんは心底ガッカリしていたようだが、何か急に私の顔を見て、こんなことを言った。

 

「なあ、面白いものがいるんだよ」

Sくんはどうやら、その面白いものを見せたくて、公園にいるだろう他の人を誘いたかったようなのだ。

いつもなら私はすげなく断るのだが、手持ち無沙汰だったし、少しぐらいならとその面白いものを見よう、となったのだ。

 

公園から歩いて数分、小さな神社がある。

住宅地の中にあって、妙に木が生い茂っている、そういう神社だ。

まだ明るかったが、それでも薄暗い神社に気味の悪さを感じていた。

 

Sくんの後についていくと、急に立ち止まって、指を指した。

指の先、神社の賽銭箱の前に何かが居た。

高さは賽銭箱の縁よりは低く、真っ直ぐ上に伸びた、黒い、何かだ。

 

神社の薄暗さが手伝って、それが何なのか、私にはまるで分からなかった。

「あれ、何だと思う?」、とSくんが小声で聞いてきた。

私は首を傾げて「ビール瓶?」と言った。

 

「そんな訳ないじゃないか」、と呆れた顔をしたSくんが言った。

そう言われても、細いようでずんぐりとしたそれがビール瓶でなければ、私にはさっぱり分からないのだから、答えようがない。

Sくんは、「あれ、捕まえようぜ」とにんまりと言った。

 

何を言っているのだろう、と私は驚いた。

私はよく分からないが得体の知れないものに近付きたくなかった。

私は「行くなら1人で行ってよ」と答えて、公園に戻ることにした。

 

Sくんは「つまんない奴」とか、言った。

そこでSくんとは別れた。

Sくんは一度家に帰って、虫取り網を取って来なくちゃとか何とか言っていたが、私には関係ないと公園に戻り、少しして、用事が済んだ母と家に帰った。

 

それからSくんとは会っていない。

どうもあの日からSくんは公園に遊びに来なくなったようなのだ。

とは言え、Sくんとは知り合いぐらいの付き合いでしかなかったし、たまにしか公園に行かないから、私は公園に来ない日もあるだろうぐらいにしか考えてなかった。

 

他の子どもらも最初は気にしているようであったが、公園でしか会う機会のないSくんのことを次第に忘れていったようであった。

Sくんのことを思い出したのは、それからもっと時間が経ってからだ。

成人式、久方ぶりに会った小学校の同級生との会話で、Sくんの話題が出たのだ。

 

随分、懐かしい名前が出たな、と考えていた。

同級生が言うには、半年前くらいにあの公園で会ったそうだ。

同級生が公園に寄ったのは全くの偶然らしいのだが、向こうが一目見て気付いたらしく声をかけてきたらしい。

 

しかし、同級生は最初分からなかったそうだ。

忘れていたのもあるが、Sくんの見た目が同い年というにはかなり老け込んで見えて、どこのおじいさんが声をかけてきたんだと訝しんだそうだ。

とは言え、当時は仲良くしていた友達だ、直ぐに打ち解けたそうだ。

 

Sくんは左足を引き摺っていた。

同級生が足をどうしたのか、と聞くと昔、巻き込まれて、と答えたそうだ。

何に?と同級生が続けて聞くとSくんは少し考えて、こう言ったそうだ。

 

「ビール瓶に」

 

同級生はシニカルに笑うSくんを見て、酒に酔って足を挫いたのだろうと思ったらしい。

しばらくSくんと話した後、それじゃあと別れた、とのことだ。

連絡先は聞きそびれて、今はどこで何をしているか分からない。

 

私は一人、当時のことを思い出し、身震いした。

いや、全く関係ないかもしれない。

私の思い出したあの黒い何かと、Sくんの足を巻き込んだ「ビール瓶」が同じとは限らない。

 

それ以降、別の話題になって、聞くに聞けなかった。

Sくんは別れた後、どこに向かったのか?

わざわざ公園に来て、懐かしむのだろうか?

 

もし、もし、別れた後にもう一度、あの神社に行っているとしたら?

いや、空想の域を出ないし、神社に行く理由がない。

しかし、今まで近寄らずにいた公園にSくんがいたことを考えると、私は僅かな疑念を振るい落とせない。

 

Sくんは、今、何を考えているのだろうか?