ネガティブ方向にポジティブ!

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【クレイジー・アンサー】

【クレイジー・アンサー】

 

・登場人物

 

三山(みやま)  生き倒れていた。 

 

沙悟浄(さごじょう)  通りかかった。

 

※文字数8000文字超え

 

 

1、いつかのどこか

 

照明、地明かり。

 

三山、舞台上でうつ伏せになって倒れている。ピクリとも動かず、ただ時間が過ぎていく。

 

沙悟浄、上手側からカバンとバナナの房を担ぎ、調子外れの鼻歌を歌いながら舞台へ。

 

沙悟浄  ~♪っと。いやー気分が良いね!朝起きて、歯ぁ磨いて、顔ぉ洗って、鏡を見たら、あら良い男!今日はいつもよりキリッとしている!駅のホームですれ違ったあの人も、隣の席のあの子も、ちらっと見て、さっと目を逸らす。照れたんだろうね~、何せ、今日はいつもより、キリッとしてますからね!いやー、気分が良い!(三山に向かって)なあ!兄さん!今日は良い日だと、そうは思わないかい?

 

三山、無反応。

 

沙悟浄  ……ちょいと、兄さん?……おーい!……あれ?これ、マジなやつか?おーい!!

 

三山、ぼそぼそと何か言う。

 

沙悟浄  んん?何だって?

 

三山  ……腹が、減った……

 

沙悟浄  あー、そうかい!腹が減ったか!バナナ、食うかい?

 

三山  バナナ!!!

 

沙悟浄  うわっ!?ビックリした~……

 

三山  ば、バナナ、バナナを、バナナを……

 

沙悟浄  ……(バナナの房を三山へ)ほら。

 

三山、沙悟浄から奪い取るようにバナナの房を取り、貪り食う。

 

沙悟浄  ハハハ!そうか、そうか、よっぽど腹ぁ減ってたんだな。食え食え、おお、食え食え。

 

三山  (バナナを食べながら)恩に着る……お陰で明日も生き長らえそうだ。

 

沙悟浄  そうか、そうか!いやー、良いこともしたし、今日は良い日になったな!うん!

 

三山  (一息吐く)名を名乗るのが遅れた。私の名前は三山と言います。この度は、貴重な食べ物を分けて頂き、本当に、ありがとうございます!

 

沙悟浄  そうか、そうか。おらは沙悟浄だ。良いってことよ。にしても、金ぇなかったんか?

 

三山  ……生憎、無一文でして……

 

沙悟浄  そいつぁ、悲しいな……目の前にコンビニがあるってのに、金がなけりゃあ何も買えねぇ、世知辛い世の中だよ。

 

三山  コンビニ……?

 

沙悟浄  それに輪をかけて、ここに人が倒れているってぇのに、誰も声をかけない!ああ!世知辛い!なんて世知辛い世の中なんだっ!そうは思わないか、ええ、兄さん!

 

三山  え、あの、は……?

 

沙悟浄  まあ、しかしだ、兄さんはツイている!何せ、このおらが通りかかった!運が良い!もうね、宝くじの一等を当てるくらい、運が良い!

 

三山  それは、はい、ありがとうございます。それで聞きたいことがあるのですが……

 

沙悟浄  礼なら結構!いやー、今日は良い日になったな!じゃあ、気を付けて帰りなよ?あ、そうか、金がないんだったっけ?どこに住んでるんだ?バス乗るか?それとも、電車に乗るか?

 

三山  ちょ、電車、は?ちょ、ちょっと待ってください。

 

沙悟浄  まあ、電車が一番良いかもな。バスは本数が少ない。

 

三山  あ、あの、ちょっと待ってください。

 

沙悟浄  小銭があったはずだ……ちょっと待ってくれよ、へへっ(ポケット探りながら)普段はね、ここも人の往来があるんだけどね?休日なんか駅からどっと人が出てきてね、こう、コンビニの方の道へ流れていくんだけどね……おかしいな、小銭ちゃんやい、どこなのよ……

 

三山  あ、あの待ってください。

 

沙悟浄  ああ、急ぎなさんなって。小銭を渡すから。あ、返さなくて良い。情けは人の為ならず!気にすんな、困ったらお互い様ってな。

 

三山  待ってください!!

 

沙悟浄  おおっと、何だい?大きい声出して……

 

三山  ……あの、駅って、何ですか?

 

沙悟浄  ……んん?え、今の人って電車に乗らない?ほら、線路の上を走る……あ、電車知らないなら線路も分からんか……

 

三山  いや、電車は分かります。

 

沙悟浄  お?電車が分かるなら、説明がしやすい!駅はその電車が出たり入ったりする、バスの待合所みたいなところのことだよ!

 

三山  駅も分かります!だから、その駅がどこにあるんですか!

 

沙悟浄  あ、そうか、最寄り駅ね?うっかりうっかり。電車に乗るんだから、駅の場所を分からないと行けねぇよな?あっちよ(上手を指差し)

 

三山  (上手を見て)いや、いやいやいや……

 

沙悟浄  駅まで案内するから心配しなさんな。

 

三山  コンビニ……

 

沙悟浄  んん?

 

三山  コンビニは、どこにあるんですか。

 

沙悟浄  え?だから、あっちに……

 

三山  嘘をつくな!

 

沙悟浄  おおう?!

 

三山  さっきから、訳の分からないことを!

 

沙悟浄  ちょ、ちょっと落ち着きなよ。こんな街の中で大きい声を出すもんじゃ……

 

三山  山の中!ここは、や・ま・の・な・か!街の中じゃあ、ない!!

 

沙悟浄  ……ん?

 

三山  良いですか、あなたは「目の前にコンビニがある」と言いましたが、どこにあるんですか!?周り、木、木、木ばっっかりじゃないですか!?

 

沙悟浄  いや、あるよ、そこに……(下手側を指差し)

 

三山  ありませんよ!?馬鹿にしてます?!

 

沙悟浄  いやいや、してないよ?

 

三山  私はここ1週間、食べ物を求めて歩いてましたけどね!人っ子一人会いませんでしたよ!

 

沙悟浄  は、はあ…

 

三山  コンビニ?電車?はあ?そんな文明らしきものなんて見当たりませんけど?!ふざけるのも大概にしてください!

 

沙悟浄  あー……うん、なるほど。分かった。腹が空き過ぎて、ちょっと混乱してるんだな、うん、そうに違いない。

 

三山  (手元のバナナの房を見る)……済みません。怒鳴り散らしてしまって……命の恩人に対する態度ではなかったですね……

 

沙悟浄  良い、良いって!そりゃあ、今、腹にモノが入ったばかりだもん。仕方ないって、うん。あ、でも、ちょっと訂正させてもらうけど。

 

三山  はい。

 

沙悟浄  ここは、街の中ね?オッケー?

 

三山  ノー。

 

沙悟浄  いや、ノーじゃなくて。

 

三山  ここは、山の中です。

 

沙悟浄  いやいや、街だって。

 

三山  いやいやいや、山の中ですよ。

 

沙悟浄  いやいやいやいや、街だって!

 

三山  いやいやいやいやいや、山ですって!

 

沙悟浄  街!!

 

三山  山!!

 

沙悟浄  街!!!

 

三山  山!!!

 

お互いに睨み合い、一度、離れる。

 

三山  頭がおかしい人に助けられてしまった……

 

沙悟浄  ……あー、も一つ、言わなけりゃいけないことがあった。

 

三山  ……山ですよ。

 

沙悟浄  そっちじゃない。三山さん、さっき小声で何てぇ言った?

 

三山  ……何も言ってませんよ?

 

沙悟浄  頭がおかしい人、と言ったよね?

 

三山  聞こえてるじゃないか……

 

沙悟浄  そうじゃないんだよな。

 

三山  済みませんでしたね、言い過ぎました、「頭がおかしい」と言ったことを謝罪します。これで良いですか?

 

沙悟浄  違う違う、そっちじゃない。

 

三山  はい?

 

沙悟浄  名前。

 

三山  は?

 

沙悟浄  おらの名前、言ってみ?

 

三山  沙悟浄さんですよね?それが何か?

 

沙悟浄  名前聞いて分からんか?おら、河童な。

 

三山  ……はい??

 

沙悟浄  だから、おら、河童な?

 

三山  空想上の生き物が居る訳ないじゃないか?

 

沙悟浄  いや、目の前にいるじゃねーか?

 

三山  頭の頭頂部も禿げていないし!

 

沙悟浄  こら!身体の特徴をあげつらうのは、どうかと思うぞ?!皿な、皿!

 

三山  ……頭に血が上り過ぎていました。確かにあなたは禿げていませんね。あたかも「禿げている」かのようにと言ったことは謝罪します。申し訳ありませんでした。

 

沙悟浄  ……おう。

 

三山  しかし、河童か……一周回ってリアリティがありますね、ええ、こんな山の中だったら、河童の1匹や2匹、居ても良さそうですもんね?

 

沙悟浄  いや、だから、街だって。

 

三山  いやいや、山ですって。

 

沙悟浄  いやいやいや、街だって。

 

三山  いやいやいやいや、山だって。

 

沙悟浄  街ぃ!!!

 

三山  山ぁ!!!

 

沙悟浄  ま!!!ち!!!

 

三山  や!!!ま!!!

 

お互いに睨み合い、もう一度離れる。

 

沙悟浄  はあ、けったいな人を助けちまったな……

 

三山  ……フフ、けったいな人か(忍び笑い)

 

沙悟浄  何だ?気味悪いな……

 

三山  ……んん。失敬。沙悟浄さん、けったいな人、と言ったな?

 

沙悟浄  おう、言った。

 

三山  (忍び笑い)……んん!私は人ではない。

 

沙悟浄  おお?

 

三山  私はゴリラだ。

 

沙悟浄  ……ハハハハハッ!ご、ゴリラ?!ヒヒヒヒ……ゴリラが喋る訳なかろう!ハハハハハッ!あー、可笑しい!ハハハハハッ!

 

三山  そうだ、普通のゴリラは、喋らない。しかし、私は特別なゴリラだ。

 

沙悟浄  (笑いを収める)ほう?特別なゴリラ?

 

三山  聞きたいか。

 

沙悟浄  いや、別に……

 

三山  そうか、聞きたいか!ハッハッハッ!

 

沙悟浄  おめぇが話したいんじゃねーか。

 

三山  では、聞かせよう!んん!……私は遺伝子工学の最先端、スーパーミュータントだ。

 

沙悟浄  ……すーぱーみーたんと?

 

三山  スーパーミュータント。詳しい話は省く、非常に込み入っているからな。平たく言えば、実験室で培養したミュータント遺伝子を注入することにより、生物を別の生物に遺伝子組み換えする、というものだ。私は数年前までゴリラとして生きていたが、比較的知能指数が高かったために被検体に選ばれ、ミュータント遺伝子を注入された。結果は、ご覧の通りだ。

 

沙悟浄  も少し分かり易く言ってくれんか?

 

三山  あー……つまり、ゴリラが人間に変身したのが私だ。

 

沙悟浄  はー、なるほどね?

 

三山  もちろん、いきなり、人間の姿になった訳ではなく、14回のミュータント遺伝子を注入した。徐々にゴリラから、人間へ、その姿を近付けていった。更に人間としての教育、道義も叩き込まれた。今や、私のゴリラの名残りは、臀部(でんぶ)付近の毛のみだろう。

 

沙悟浄  ……毛深いの?

 

三山  ああ。

 

沙悟浄  ……見て良いけ?

 

三山  ……良いだろう。

 

三山、仁王立ちで臀部(でんぶ)だけ出す。

 

沙悟浄  おお!……あんがと。

 

三山  (ズボンをぐっと履く)私は、スーパーミュータントの成功例第一号として、アメリカの学会に人間として出席する、はずだった……しかし、私が目を覚ますと、この、山、にいたのだ。そして、1週間、雨水のみで凌いでいたが、空腹で倒れた。そこへ沙悟浄さんが通りかかって、今に至る。

 

沙悟浄  ほーん……嘘ぉ吐いてるようには見えないな……

 

三山  嘘ではないからな。

 

沙悟浄  しかし、おらも嘘を吐いてない。

 

三山  ……何を根拠に。

 

沙悟浄  まず、おらがここにいるってことだ。人も入り込めないような山ん中だったら、おらが通りかかるのは変じゃないけ?

 

三山  ……いや、あんたは河童だ。河童なら、むしろ、山の中だったら、自然だ。

 

沙悟浄  あ、河童は認めんだ?

 

三山  信じた訳ではない、が、自分も元はゴリラだ。河童もいても良いだろう。

 

沙悟浄  ヒヒッ!そうさね!なら、河童の言葉を聞きなされ。

 

三山  ……何だ?

 

沙悟浄  それとなく長く生きてると、同じモノを見ていても、お互いに話してみると違うモノに見えていることが、ままある。

 

三山  同じモノを見ていて、違うモノに見える?

 

沙悟浄  ああ。例えば、ある二人が「赤くて丸いもの」を見させて。それで、片方にそれは何かって聞くと「リンゴ」と答えるんだけど、もう片方は「風船」って答える、なんてことがある。

 

三山  ……お互いに見えている世界が違う、と?

 

沙悟浄  そうだ。

 

三山  しかし、あまりに乖離していないか?「街」と「山」では、全然違う。

 

沙悟浄  そこを今から話して埋めてこってことよ。

 

三山  良いだろう、話そう。

 

沙悟浄  仮説1。三山さんは幻術にかかってる。

 

三山  また、突拍子もない……

 

沙悟浄  いやー、河童のおらからすると、幻術がしっくりくるんだよなー。三山さんは途中で意識が無くなったっと言ってたけど、意識がなくなる前は、どこにいた?街か?

 

三山  ……街です。都会です。

 

沙悟浄  三山さんの言い方だと、ここは、道もねぇ山も山ってことだけど?ん?

 

三山  そうです。完全に山です。人が通った形跡がないです。

 

沙悟浄  そんな人も入らねぇような山奥なのに、街にいた三山さんはどうやって来たって言うんだよ。

 

三山  それは……

 

沙悟浄  誰かが運んだ?体のデカい三山さんを担いで?いやー、普通に考えても、無理だ、無理!しかーし!実は三山さんは幻術にかかっているとしたら?目の前の木ぃが幻術で魅せられたまやかし!目ぇ覚ましたら、周りが木ぃばっかり、と思い込んだ!そういう幻術にかけられる、そうに違いない!

 

三山  そんな馬鹿な話が……

 

沙悟浄  どうよ?この仮説?これはもう決まったか?

 

三山  反証1。もし、ここが街の中だとすると、誰一人会わなかったのは不自然では?

 

沙悟浄  それは、三山さんに人が見えなかっただけじゃ?

 

三山  私は、そうでしょう。しかし、周りは?

 

沙悟浄  ……あー、うろうろしてるのは見えるだろうし、そんなうろうろしてたら、不審者に見えるわな……

 

三山  その間、通報もされず、1週間も見逃し続けます?

 

沙悟浄  まあ、世知辛い世の中だから?

 

三山  反証2……その前に確認なのですが、幻術があるのであれば、幽霊もいたりします?

 

沙悟浄  おう、いるぞ。

 

三山  これは素朴な疑問なのですが、幽霊は沙悟浄さんは見えます?

 

沙悟浄  おう、見えるぞ。

 

三山  では、幽霊と人間の区別はできていますか?

 

沙悟浄  おおっとぉ?おらが人間と幽霊を区別できねぇって?できらぁ!

 

三山  改めて、反証2。(下手側を指差す)、あそこにコンビニがあるそうですが、中の店員は人間ですか?

 

沙悟浄  そんなん当たり前じゃねーか。

 

三山  どうして?

 

沙悟浄  どうしてって、足が二本、ちゃーんとあるからさ。

 

三山  これも素朴な疑問なのですが、幽霊は足が無い?

 

沙悟浄  ……ない。

 

三山  本当に?二本足の幽霊は存在しないのですか?

 

沙悟浄  ……いや、それは……いるけど……

 

三山  では、沙悟浄さんの言う、コンビニの店員さんが、人間ではなく、幽霊かもしれないのですね?

 

沙悟浄  ……かもしれねぇなー。

 

三山  うっし!

 

沙悟浄  何か、ロジカルじゃねーな。おらが幽霊が見えねぇって言ったら、どうするつもりだったよ?

 

三山  それなら、沙悟浄さんの見えている人間が人間じゃないと推論します。まあ、むしろ、その可能性が一番高かったんですけどね。

 

沙悟浄  そんなことってある?

 

三山  沙悟浄さんは人間でしたっけ?そして、私は、元は何でしたっけ?

 

沙悟浄  ハハ、おらは河童で、三山さんは元ゴリラ、確かに人間じゃねーかもな。

 

三山  仮説2。沙悟浄さんが人間の街のイメージを勘違いしている。

 

沙悟浄  ああん?

 

三山  河童である沙悟浄さんの街は、山なんですよ。

 

沙悟浄  はああ?

 

三山  日々、山の中で過ごす沙悟浄さんにとっては、並び立つ木々はそびえ立つ摩天楼!この酸っぱくて食べられない実の成る木が、コンビニ!沙悟浄さんにとってはここは街なんですよ!

 

沙悟浄  おらが田舎者って言いたいのけ?

 

三山  東京には行ったことは?

 

沙悟浄  ない。

 

三山  大阪は?

 

沙悟浄  ない。

 

三山  名古屋は?

 

沙悟浄  ない。

 

三山  博多は?

 

沙悟浄  ない。

 

三山  札幌は?

 

沙悟浄  ない。

 

三山  仙台には?

 

沙悟浄  ない。

 

三山  おやおや?沙悟浄さんの言う、街、とは?

 

沙悟浄  でも、街には違いねぇ。

 

三山  (ポケットからiPhoneを出す)これをご存知ですか?

 

沙悟浄  何だそれ?

 

三山  はい!ダウト!これは携帯電話です!

 

沙悟浄  はあ?けーたいでんわ?あ、電話!は?電話?線がねーじゃねーか?

 

三山  今時はこれで遠くに居る人とやり取りするものなのです!そして!それを知らないということは!スーパーウルトラ未開人!最早、絶滅危惧種!

 

沙悟浄  遠くの人と……ん?なら、それで呼べば良いじゃねーか。三山さんの、友達とか。

 

三山  圏外なので無理です。電波がないので通話できません。

 

沙悟浄  けんがい?でんぱ?…さっぱり分からん……おら、機械は点でダメだかんな……あの、何だ、駅で使う……改札で、こう、ピッとする奴、何だっけ?あ、すいか?あれもよー分からんしな……

 

三山  ……Suicaは知っている……?街、で生活はしているのか……?

 

沙悟浄  だから、そう言っているじゃねーか。な、だから、幻術にかかってるんだって。

 

三山  いーや。沙悟浄さんが都会を勘違い説を、私は推します。

 

沙悟浄  いやいや、幻術だって。

 

三山  いやいやいや、勘違いですって。

 

沙悟浄  いやいやいやいや、幻術だって!

 

三山  いやいやいやいやいや、勘違いだって!

 

沙悟浄  幻術!

 

三山  勘違い!

 

沙悟浄  幻術!!!

 

三山  勘違い!!!

 

お互い睨み合い、その場でどかっと座る。

 

沈黙。

 

沙悟浄  ……ん?なあ、三山さんや。

 

三山  何ですか。

 

沙悟浄  あんた、すーぱーみーたんと?だとか言ってたな?

 

三山  スーパーミュータントです。それが?

 

沙悟浄  どっかで聞いたことがある……あ(カバンから本を出し、捲る)ああ!!

 

三山  何ですか?

 

沙悟浄  いやー、三山さん、すーぱーみーたんとを聞いたことがあるなーって思い出してみたんだ。そしたら、授業で習った気がしてな!今、本を調べたら、出たわ。

 

三山  当然です。先生は人類史に残すに相応しい偉人であり、私を人間にしてくれた父でもあります。沙悟浄さんの学校はよく分かってますね。

 

沙悟浄  ……なあ、三山さん、今、西暦何年だ?

 

三山  はい?

 

沙悟浄  西暦、何年か、答えてくれ。

 

三山  今は、西暦2020年だ。

 

沙悟浄  違ぇ。

 

三山  は?

 

沙悟浄  今は、西暦2222年だ。

 

三山  は?

 

沙悟浄  三山耕造、2020年にノーベル生理・医学賞を受賞した偉い先生だ。前、授業でやったんだ、歴史のな(本を見せる)

 

三山、食い入るように本を読む。

 

沙悟浄  三山さんは、途中、意識がなくなった。目ぇ覚ましてうろうろする三山さんに誰も声をかけなかった。河童のおらは幽霊は見える。幽霊は二本足があるのもいる。三山さんの先生は2020年に死んでいる。今は西暦2222年。おらが街を勘違いしているとして。ある街が200年経過したら、木もそこそこ生えてくるかもな?お互いが正しいことを言っているとすると……仮説3。三山さんは。

 

三山  反証!もしも、もしも、私が、ゆ、幽霊だとして!バナナ!バナナはどう説明するっ!沙悟浄さんが私に渡した一房のバナナ!私は食べたぞ!幽霊は、幽霊は、バナナを食べられるのかっ!

 

沙悟浄  …………確かに、幽霊がバナナを食べたって話は聞いたことも見たこともない。

 

三山  ほら!だったら、その仮説は間違って……

 

沙悟浄  ないが、幽霊がバナナを食べれない、とは限らない。

 

三山  はあ?!何を言ってる!私は食べたぞ!

 

沙悟浄  この世界は広いんだ、ゴリラが人間になったり、河童が街で生活したり、色んなことが起きる。幽霊が、バナナを一房食べることだって、あるんじゃねーか?

 

三山  そんな馬鹿な話があるか!?幽霊はバナナを食べれないんだろ!なら、仮説は間違っている!そうに違いないっ!

 

沙悟浄  ……同じものを見ていても、違うものに見えちまうもんだよ。おらは、三山さんの言い分も認めたぞ?三山さんも、現実を見た方が……

 

三山  如何にも譲歩したような言い方をしているが、街だという主張を変えていないではないかっ!何が私の言い分を認めただ!私は今、見ている、確かに、ここが山だとっ!

 

沙悟浄  …………まあまあ、落ち着けって。水飲むか?そこのコンビニで水を買ってくるか?

 

三山  ここは、山だっ!!

 

沙悟浄  はいはい、分かった分かった……悪かったよ、言い過ぎたって。直ぐ戻るから!

 

沙悟浄、下手にハケる。

 

三山  ……現実を見ろ?ふふっ、最もらしいことを言っているが、見えているモノが同じでもこの目に映すモノがお互いに違うモノだとするならば、お互いの現実も違うってことになるじゃないか……そう、見えているモノは、同じ、ハズなんだ……どこかで掛け違った……ここは、山なのか?街なのか?私には、山にしか見えない……しかし、そんな、いや、だが……

 

三山、iPhoneの着信音が鳴る。

 

三山、恐る恐るiPhoneを見る。

 

三山  先生……!?(電話に出る)……もしもし。

 

暗転。

 

了。