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【ハジメとオワリの夏休み】まとめ

【ハジメとオワリの夏休み】まとめ


・登場人物

 


 ハジメ

 


 オワリ

 


 おばあちゃん

 


 長山

 

 

・8月1日。

 

 

ハジメ  8月1日、日曜日、晴れ。今日からおばあちゃんちに行く! 色々と遊ぶぞ!

 


 遠くでセミの声。

 


おばあちゃん  おや、いらっしゃい

 


ハジメ  おばあちゃん!こんにちは!

 


おばあちゃん  はいはい、こんにちは。大きくなったねぇ。ほら、外は暑いだろ? 冷蔵庫にあずきバーがあるよ

 


ハジメ  あずきバー!食べる!

 


おばあちゃん  手を洗いなよー?

 


ハジメ  はーい……あ!今日からよろしくお願いします

 


おばあちゃん  はいはい、よろしくね

 


ハジメ  あずきバー♪あずきバー♪

 


 おばあちゃん、目を細めてハジメを見る。空を見上げて、 手を合わせる。

 


おばあちゃん  どうか孫が無事に過ごせますように……

 


 オワリ、影の中からハジメを見ている。

 


・8月2日。

 


ハジメ  8月2日、月曜日、晴れ、朝からラジオ体操をした!

 


 ラジオ体操が流れる。

 ハジメ、ラジオ体操をする。

 ハジメ、ラジオ体操が終わり、スタンプカードの列に並ぶ。

 長山、ハジメを見てニヤニヤする。

 


長山  おい、青っちろいのがいるぞ? もやしみたいに細っこいのがいるぞ?

 


ハジメ  ……うん?え、僕のこと?

 


長山  よお、青っちろいの?見ない顔だな?ここらの奴じゃねーな?

 


ハジメ  そうだけど……

 


長山  よお、青っちろいの?何でそんなにひょろひょろなんだよ? ちゃんとメシ食っているのかよ?

 


ハジメ  食べてるよ……僕にはハジメって名前があるんだ、その、 青っちろいってのは止めてくれよ

 


長山  へえ?ハジメ?俺は長山だ。ハジメ、カブトムシ好きか?

 


ハジメ  うん、好きだよ

 


長山  じゃあ、カブトムシを採りに行こうぜ?あ、 ひょろひょろには難しいか?

 


ハジメ  心配しなくてもへっちゃらだ!

 


長山  へえ?そう?じゃあ、虫取りカゴと網持って、ここに集合な?

 


ハジメ  分かった!

 


 長山、ニヤニヤして去る。

 オワリ、影の中からハジメを見ている。

 


・8月3日。

 


ハジメ  8月3日、火曜日、曇り、川遊びをした。 そこでオワリ姉ちゃん会った!

 


 上流の川が流れ、子どもらが川に飛び込んでいる。

 ハジメ、川から出る。

 オワリ、影から出てくる。

 


オワリ  こんにちは

 


ハジメ  うわ!びっくりした……

 


オワリ  こんにちは

 


ハジメ  こんにちは!

 


オワリ  はじめまして、かな?私はオワリです。あなたは?

 


ハジメ  ハジメです!

 


オワリ  そう、ハジメくん。川遊びは楽しい?

 


ハジメ  うん!すっごく楽しい!

 


オワリ  そう。ねえ、もっと面白いもの、見たくない?

 


ハジメ  もっと面白いもの?

 


オワリ  そう、もっと面白いもの……

 


ハジメ  見たい!

 


オワリ  じゃあ、見に行きましょう。明日、迎えに行くから

 


 オワリ、影の中へ戻る。

 


ハジメ  不思議な人だな……

 


・8月4日。

 


ハジメ  8月4日、水曜日、雨、オワリお姉ちゃんと面白いものを見た!

 


 雨が降りしきる。

 ハジメ、縁側で宿題をしている。

 オワリ、影から出てくる。

 


オワリ  こんにちは

 


ハジメ  わ!……こんにちは!

 


オワリ  迎えに来たよ

 


ハジメ  んー……でも、雨降ってるよ?

 


オワリ  大丈夫

 


 オワリ、手を叩く。

 雨が上がる。

 影からぞろぞろと猫が出てくる。

 


ハジメ  わあ……!猫だ!みんな、どこ行くの?

 


オワリ  猫の集会所よ

 


ハジメ  えー!見たい見たい!

 


オワリ  じゃあ、こっちにおいで

 


ハジメ  うん!

 


おばあちゃん  ハジメ、どこだい?

 


 オワリ  影の中へ。

 


ハジメ  おばあちゃん?ここだよ?

 


おばあちゃん  宿題はしているね、えらいね

 


ハジメ  おばあちゃん、あのね、そこで猫が行進してたんだよ!

 


おばあちゃん  はいはい、猫が来たんだね

 


ハジメ  それでね、オワリお姉ちゃん……あれ?いない……

 


 雨が降り始める。

 


おばあちゃん  今日は唐揚げだよ

 


ハジメ  唐揚げ!やったー!

 


 オワリ、影の中で笑う。

 


・8月5日。

 


ハジメ  8月5日、木曜日、晴れ、今日はお祭りがあった!

 


 祭り囃子が聞こえる。

 


ハジメ  焼きそばにしようか……お好み焼きにしようか……うーん、 どうしようか?

 


 オワリ、影から出てくる。

 


オワリ  こんばんは

 


ハジメ  あ!こんばんは!

 


オワリ  何を悩んでいるの?

 


ハジメ  あのね、焼きそばにしようか、お好み焼きにしようか、 考えていたんだ

 


オワリ  そう

 


 オワリ、手を叩く。

 オワリの手の中にまん丸な食べ物が出てくる。

 


ハジメ  わあ、美味しそう!何これ?

 


オワリ  美味しいものよ。あげるわ

 


ハジメ  良いの!

 


オワリ  良いよ?

 


ハジメ  わあ!ありがとう!(オワリから受け取る)

 


長山  よう?青っちろいの?

 


 オワリ、影に戻る。

 


ハジメ  あ、長山くん

 


長山  ……誰と話してたんだ?

 


ハジメ  オワリお姉ちゃん……また居ない……

 


長山  それ、美味しそうだな?

 


ハジメ  あ、もらったんだ

 


 長山、ハジメからまん丸な食べ物を取ると、ぺろりと食べてしまう

 


ハジメ  あ!!

 


長山  ……ばかにうまいな?ごちそうさん?

 


ハジメ  僕がもらったのに!

 


長山  ん?もうないのか?

 


ハジメ  それ1個だけだよ!僕、食べてないのに!

 


長山  あー……焼きそば、食うか?

 


ハジメ  ……食べる

 


長山  あー、ごめんな?

 


ハジメ  ……いいよ。今度はちゃんと聞いてよね?

 


 オワリ、顔を覆う。

 


・8月6日。

 


ハジメ  8月6日、金曜日、曇り、朝から何だか騒がしかった。 何かあったんだろうか?

 


 おばあちゃん、電話で対応している。

 


ハジメ  ……今日は何しようかなー?

 


おばあちゃん  ハジメ

 


ハジメ  あ、おばあちゃん

 


おばあちゃん  今日はどこにも行くんじゃないよ?

 


ハジメ  ええ!?何で!?

 


おばあちゃん  良いから。大人しく家にいなさい

 


ハジメ  ……何かあったの?

 


おばあちゃん  ……何でもないよ

 


 遠雷が聞こえて来る。

 風に紛れて笑い声?

 


ハジメ  分かった

 


おばあちゃん  良い子だね。ばあちゃん、ちょっと出るから、鍵かけておくんだよ

 


ハジメ  はーい

 


おばあちゃん  ああ、それと……これ、持っていなさい(お守りを握らせる)

 


ハジメ  ……お守り?

 


おばあちゃん  いいね、ちゃんと持っているんだよ?

 


ハジメ  ?はーい

 


・8月7日。

 


ハジメ  8月7日、土曜日、雨、オワリお姉ちゃんと話した。

 


 雨がしとしとと降っている。

 ハジメ、寝ている。

 オワリ、影から出てくる。

 


オワリ  ハジメくん、ハジメくん

 


ハジメ  うーん……

 


オワリ  ハジメくん、起きて

 


ハジメ  ……オワリお姉ちゃん?

 


オワリ  おはよう。ねえ、神社に行かない?

 


ハジメ  じんじゃ?

 


オワリ  そう。綺麗なものが見れるよ?

 


ハジメ  うーん……でも、眠たいよ……

 


オワリ  すごく綺麗だから、ハジメくんと見たいな?

 


ハジメ  うーん、分かった……

 


 オワリ、手を叩く。

 提灯の灯りが点々と点く。

 


オワリ  ほうら、綺麗でしょ?素敵でしょ?

 


ハジメ  わあ……!うん、綺麗だね!

 


オワリ  こっち、こっちよ……

 


 静かに鈴の音が響く。

 


オワリ  もうすぐ、もうすぐ……

 


ハジメ  待ってよ、オワリお姉ちゃん

 


 突然、突風が吹く。

 ハジメ、尻餅をつく。

 


オワリ  大丈夫?

 


ハジメ  うん、大丈夫……あれ?オワリお姉ちゃん?どこ?

 


オワリ  こっちよ、こっち……

 


 オワリ、影の中へ。

 ハジメ、影の中の周りをうろうろする。

 


オワリ  こっちよ、こっち……

 


ハジメ  分からないよ……

 


おばあちゃん  ハジメ!

 


ハジメ  ?おばあちゃん?

 


オワリ  ええい、忌々しい……

 


 ハジメ、倒れる。

 


・8月8日

 


ハジメ  8月8日、日曜日、晴れ。今日は家に帰る。 もっと遊びたかったな。

 


 遠くでセミの声。

 


おばあちゃん  どこか痛いところはないかい?

 


ハジメ  大丈夫だよ、そうだ!長山くんにさよなら言いたい!

 


おばあちゃん  ……長山くんにはおばあちゃんから言っておくから

 


ハジメ  ええ?いっぱい遊んだのに……

 


おばあちゃん  ハジメ

 


ハジメ  何?

 


おばあちゃん  ……いや、何でもない。元気でね?

 


ハジメ  うん!じゃあ、またね!

 


 おばあちゃん、目を細めてハジメを見る。空を見上げて、 祈るように手を合わせる。

 


おばあちゃん  どうか孫に、ハジメに何事もありませんように……

 


・8月9日。

 


ハジメ  8月9日、月曜日、晴れ。今日、ばあちゃんちに行く

 


 遠くでセミの声。

 


おばあちゃん  あー、いらっしゃい

 


ハジメ  ばあちゃん、久しぶりです

 


おばあちゃん  はいはい。大きくなったねぇ。ほら、外は暑いだろ? 冷蔵庫にあずきバーがあるよ

 


ハジメ  あずきバー、あー、懐かしいな

 


おばあちゃん  ……本当に、大きくなって……

 


ハジメ  今日からよろしくお願いします

 


おばあちゃん  はいはい、よろしくね

 


 おばあちゃん、目を細めてハジメを見る。空を見上げて、 手を合わせる。

 


おばあちゃん  どうか孫が無事に過ごせますように……

 


 オワリ、影の中からハジメを見ている。

 


・8月10日。

 


ハジメ  8月10日、火曜日、曇り、散歩をした。空気が美味しい。 昔を思い出す

 


 ラジオ体操が流れる。

 ハジメ、ベンチに座る。

 ハジメ、スタンプカードの列を眺める。

 長山、影の中に現れれる。

 


長山  おい、青っちろいのがいるぞ? もやしみたいに細っこいのがいるぞ?

 


ハジメ  ……そう言えば、彼は元気にしているだろうか?

 


長山  よお、青っちろいの?見ない顔だな?ここらの奴じゃねーな?

 


ハジメ  名前……確か、長山、そう、長山くんって子がいたな

 


長山  よお、青っちろいの?何でそんなにひょろひょろなんだよ? ちゃんとメシ食っているのかよ?

 


ハジメ  失礼だったけど、良い奴だった。色々と遊んでくれたな……

 


長山  へえ?ハジメ?俺は長山だ。ハジメ、カブトムシ好きか?

 


ハジメ  カブトムシを誘ってくれたのも、ここだったな……

 


長山  じゃあ、カブトムシを採りに行こうぜ?あ、 ひょろひょろには難しいか?

 


ハジメ  心配しなくても、へっちゃらさ

 


長山  へえ?そう?じゃあ、虫取りカゴと網持って、ここに集合な?

 


ハジメ  ……彼は、今、何をしているのだろうか?

 


 長山、ニヤニヤして去る。

 オワリ、影の中からハジメを見ている。

 


・8月11日。

 


ハジメ  8月11日、水曜日、曇り、オワリと会った

 


 上流の川が流れ、子どもらが川に飛び込んでいる。

 ハジメ、その子どもらを眺める。

 オワリ、影から出てくる。

 


オワリ  こんにちは

 


ハジメ  え

 


オワリ  こんにちは

 


ハジメ  ……どちら様でしょうか

 


オワリ  あら、忘れちゃった?私、オワリよ?

 


ハジメ  ……オワリ、お姉ちゃん?

 


オワリ  そう、ハジメくん。こちらは楽しい?

 


ハジメ  ……相変わらず、お綺麗ですね

 


オワリ  ふふ、世辞がうまくなったね。ねえ、もっと面白いもの、 見たくない?

 


ハジメ  もっと面白いもの?

 


オワリ  そう、もっと面白いもの……

 


ハジメ  それは……

 


オワリ  見に行きましょう。明日、迎えに行くから

 


 オワリ、影の中へ戻る。

 


ハジメ  ……迎えに、来るのか?

 


・8月12日。

 


ハジメ  8月12日、木曜日、雨、オワリと面白いものを見た。 彼女は何者なんだ?

 


 雨が降りしきる。

 ハジメ、縁側で本を読む。

 オワリ、影から出てくる。

 


オワリ  こんにちは

 


ハジメ  ……こんにちは

 


オワリ  迎えに来たよ

 


ハジメ  ……あの日も、雨が降ってましたね

 


オワリ  そうね

 


 オワリ、手を叩く。

 雨が上がる。

 影からぞろぞろと何かが出てくる。

 


ハジメ  ……あれは何ですか?

 


オワリ  何だと思う?確かめたくない?

 


ハジメ  あなたは何者なんですか?

 


オワリ  教えて欲しい?じゃあ、こっちにおいで

 


 ハジメ、黙る。

 


おばあちゃん  ハジメ、どこだい?

 


 オワリ  影の中へ。

 


ハジメ  おばあちゃん?ここだよ?

 


おばあちゃん  はあ、良かった……

 


ハジメ  おばあちゃん、あのさ……

 


おばあちゃん  何だい?

 


ハジメ  いや、何でもない

 


 雨が降り始める。

 


おばあちゃん  ……今日は唐揚げだよ

 


ハジメ  ばあちゃんの唐揚げ、好きなんだよね

 


 オワリ、影の中で笑う。

 


・8月13日。

 


ハジメ  8月13日、金曜日、晴れ、今日はお祭りがあった。 オワリに聞かなければならないことがある

 


 祭り囃子が聞こえる。

 ハジメ、祭りから離れた場所に立つ。

 オワリ、影から出てくる。

 


オワリ  こんばんは

 


ハジメ  こんばんは

 


オワリ  何を考えてるの?

 


ハジメ  昔、ここで遊んだ子、名前は長山くん、そう呼んでた子のことを

 


オワリ  そう

 


 オワリ、手を叩く。

 オワリの手の中にまん丸な食べ物が出てくる。

 


オワリ  美味しいものよ。あげるわ

 


ハジメ  ……それは、何?

 


オワリ  美味しいものよ。あげる

 


ハジメ  いらない

 


長山  ハジメ!逃げろ!

 


 オワリ、ニタニタ笑う。

 一瞬、暗闇に閉ざされる。

 再び明るくなる、オワリは消えている。

 


ハジメ  長山くん……もしかして、僕の代わりに……?

 


長山  ……青っちろいの?遊ぼうぜ?

 


ハジメ  ……いいよ。今度は僕の番だ

 


 オワリ、顔を覆う。

 


・8月14日。

 


ハジメ  8月14日、土曜日、晴れ、ばあちゃんと話した

 


 おばあちゃん、一心に祈る

 


ハジメ  ……ばあちゃん

 


おばあちゃん  ハジメ

 


ハジメ  オワリ、って知っている?

 


おばあちゃん  ……あんたがここに来るって聞いてから、こうなる気はしてたよ

 


ハジメ  オワリは、何者なんだ?

 


おばあちゃん  オワリ様は、昔からおわす方さ。随分と気に入られたようだね……

 


ハジメ  ……もしかして、長山くんは……

 


おばあちゃん  ハジメ

 


 遠雷が聞こえて来る。

 風に紛れて笑い声?

 


おばあちゃん  ……ばあちゃん、ちょっと出るから、鍵かけておくんだよ

 


ハジメ  はい

 


おばあちゃん  ……帰って来てくれよ

 


ハジメ  分かってる

 


・8月15日。

 


ハジメ  8月15日、日曜日、雨。

 


 雨がしとしとと降っている。

 ハジメ、座して待つ。

 オワリ、影から出てくる。

 


オワリ  ハジメくん、ハジメくん

 


ハジメ  こんばんは。

 


オワリ  フフ、ハジメくん、ハジメくんねえ、神社に行かない? 綺麗なものが見れるよ?すごく綺麗だから、 ハジメくんと見たいな?

 


ハジメ  うーん、分かった……

 


 オワリ、手を叩く。

 提灯の灯りが点々と点く。

 


オワリ  ほうら、綺麗でしょ?素敵でしょ?こっち、こっちよ……

 


 静かに鈴の音が響く。

 


オワリ  もうすぐ、もうすぐ……

 


ハジメ  オワリ

 


 突然、突風が吹く。

 


オワリ  なぁに?

 


ハジメ  長山くんを返して欲しい

 


 オワリ、笑いながら、影の中へ。

 ハジメ、影の前へ。

 


オワリ  こっちよ、こっち……

 


ハジメ  そうしたら、そちらへ行こう

 


 オワリの手の打ち鳴らす音。

 


オワリ  はぁい

 


 ハジメ、影の中へ。

 


・8月16日

 


 ラジオ音声「8月16日、月曜日、 今日は良い天気になりそうです!……」。

 遠くでセミの声。

 おばあちゃん、一心に祈る。

 ハジメ、影の中にいる。

 


おばあちゃん  ……じいちゃん、どうか、ハジメを守ってくれ

 


ハジメ  大丈夫だよ、帰って来るから

 


おばあちゃん  ……どうか、どうか、戻って来てくれ……

 


ハジメ  またね、ばあちゃん

 


 おばあちゃん、空を見上げる。

 


おばあちゃん  ハジメ……?

 


・8月17日。

 


ハジメ  8月17日、火曜日、晴れ。もう一度

 


 遠くでセミの声。

 


おばあちゃん  おや、いらっしゃい

 


ハジメ  おばあちゃん。こんにちは

 


おばあちゃん  はいはい、こんにちは。大きくなったねぇ。ほら、外は暑いだろ? 冷蔵庫にあずきバーがあるよ

 


ハジメ  ……あずきバー、うん、食べる

 


おばあちゃん  手を洗いなよー?

 


ハジメ  はい……今日もよろしくお願いします

 


おばあちゃん  今日「は」だろ?変なことを言う子だね

 


ハジメ  うん、間違えた。あー、あずきバー、冷蔵庫だね?

 


 おばあちゃん、目を細めてハジメを見る。

 


おばあちゃん  どうか孫が無事に過ごせますように……

 


 オワリ、影から出てハジメを見ている。

 


・8月18日。

 


ハジメ  8月18日、水曜日、晴れ。もう一度

 


 ラジオ体操が流れる。

 ハジメ、立っている。

 長山、ハジメを見てニヤニヤする。

 


長山  おい、青っちろいのがいるぞ? もやしみたいに細っこいのがいるぞ?

 


ハジメ  ……こんにちは

 


長山  よお、青っちろいの?見ない顔だな?ここらの奴じゃねーな?

 


ハジメ  うん、夏休みの間、遊びに来たんだ

 


長山  よお、青っちろいの?何でそんなにひょろひょろなんだよ? ちゃんとメシ食っているのかよ?

 


ハジメ  食べてるよ……僕はハジメ、よろしく、長山くん

 


長山  へえ?ハジメ?俺は……何で俺の名前知っているんだ?

 


ハジメ  ばあちゃんから聞いた。カブトムシ、採りに行きたいんだけど、 良い所知っているかい?

 


長山  んあ?何だカブトムシが欲しいのか?じゃあ、 カブトムシを採りに行こうぜ?あ、ひょろひょろには難しいか?

 


ハジメ  心配しなくてもへっちゃらだ!

 


長山  へえ?そう?じゃあ、虫取りカゴと網持って、ここに集合な?

 


ハジメ  ……分かった!

 


 長山、ニヤニヤして去る。

 オワリ、ハジメを見ている。

 


・8月19日。

 


ハジメ  8月19日、木曜日、晴れ、もう一度。

 


 上流の川が流れ、子どもらが川に飛び込んでいる。

 川に巨大な影が見える。

 


オワリ  ハジメくん、ハジメくん、次は何が見たい?何が聞きたい? 何が食べたい?ねえ、ハジメくん、何して遊びたい?ねえ、 もっと面白いもの、見たくない?もっと、 もっと面白いことをしようよ?

 


 川が真っ赤に染まる。

 


オワリ  今度は鬼の首を切り落とそうか?竜の鱗を削ぎ落とそうか? ハジメくん、ねえ、何がしたい?私、何でもできるよ?

 


ハジメ  家に帰りたい

 


オワリ  だめ

 


 オワリ、影の中へ戻る。

 


・8月20日。

 


ハジメ  8月20日、金曜日、晴れ、もう一度

 


 晴れているのに、雨が降る音が聞こえる。

 


オワリ  ハジメくん、ハジメくん、今日は何して遊ぼうか?おままごと? ヒーローごっこ?ねえ、ハジメくん、何して遊ぼうか?

 


 オワリ、手を叩く。

 影からぞろぞろと怪物が出てくる。

 


ハジメ  ……そろそろ、見飽きたな

 


オワリ  あら、じゃあ、おしまいね

 


 オワリ、手を叩く。

 怪物たちが溶けて影になる。

 


ハジメ  なあ、オワリ、僕はいつまで、ここにいるんだい?

 


オワリ  ずっとよ?ずっと、私とずっと遊んで暮らすの

 


ハジメ  どうして、僕なんだい?

 


おばあちゃん  ハジメ、どこだい?

 


 オワリ  影の中へ。

 


ハジメ  ……おばあちゃん?ここだよ?

 


おばあちゃん  宿題はしているね、えらいね

 


ハジメ  おばあちゃん、神様は何でいると思う?

 


おばあちゃん  そうだねぇ……神様はじっとそこにいて、 私たちを見守ってくださる。私たちが危ない目に遭わないように、 じっとね。ずっと昔からそうして見守ってくださるから、 私たちはこうして生活ができる。 私たちが安心して生きられるように、神様はいるんじゃないかい?

 


ハジメ  じっと見守る……安心して生きられるように、か……

 


 雨が降り始める。

 


おばあちゃん  今日は唐揚げだよ

 


ハジメ  ……うん、食べたい

 


 オワリ、影の中で立っている。

 


・8月21日。

 


ハジメ  8月21日、土曜日、だろう。空は、晴れ、だろう。もう一度。

 


 祭り囃子が聞こえる。

 仮面を着けた行列が通り過ぎて行く。

 オワリ、戯けて踊る。

 


オワリ  今日はお祭りね!私、お祭りが好き。わたあめに、りんご飴に、 たこ焼き、輪投げに射的に、金魚すくい、 賑やかに笛に太鼓が鳴り響いて。ああ、みんな、騒いでくれる

 


ハジメ  オワリ

 


オワリ  何を悩んでいるの?

 


ハジメ  寂しかったのか?ずっと長い間、 見守り続けているだけの毎日が嫌になったのか?不安だったのか? オワリは独りでいるのが辛くなったのか?

 


オワリ  ……そんなつまらない話は止しましょう

 


ハジメ  大事なことだろ?

 


オワリ  ……小さなことよ

 


 オワリ、手を叩く。

 祭り囃子がピタッと止まる。

 


オワリ  ハジメくん、覚えている?あなたが初めてここに来た時のこと。 長い間、放っておかれた、小さな祠に、 ハジメくんはあめ玉を置いて、それで手を合わせたの。 何をお願いするのかな?って思っていたら、「 僕と友達になってください」って言ったのよ?私、 びっくりしちゃった。ずっと、独りだったから、 友達ってどうやったら成れるのか、分からなくて。でも、 この小さな子のお願いを聞いてあげないとって。考えて、 うんと考えて。こっちに呼んじゃえば良いかー、って。別に、 寂しかったり、不安だったりなんて、なかった。なかったのよ

 


ハジメ  僕が、お願いしたから?

 


オワリ  そう。それがこのあめ玉(あめ玉が一つ)

 


ハジメ  こんなやり方じゃなくても、友達になれるよ

 


長山  よう?青っちろいの?

 


 オワリ、影に戻る。

 


ハジメ  ああ、長山くん

 


長山  ……誰と話してたんだ?

 


ハジメ  友達だよ、不器用なね……

 


長山  なあ?俺が焼きそばを買うからさ、お前がお好み焼きを買ってさ、 半分こしようぜ?

 


ハジメ  良いね、そうしよう

 


 長山、ニヤニヤと屋台へ。

 


ハジメ  ……オワリ、そろそろ終わりにしよう

 


 オワリ、顔を覆う。

 


・8月22日。

 


ハジメ  8月22日、多分、日曜日、空は、曇り、かな。

 


おばあちゃん  ハジメ、宿題は終わったかい?

 


ハジメ  うん、おばあちゃん

 


おばあちゃん  何だい?

 


ハジメ  僕が、未来から来たって言ったら、信じる?

 


おばあちゃん  ……ハジメの言うことを疑う訳ないじゃないか

 


ハジメ  ありがとう。あのね、明日、友達の家に行くんだ。それで、 ちゃんと、お話しなくちゃいけないんだ。だから、その。 明日は帰らない。

 


おばあちゃん  ……分かったよ

 


 遠雷が聞こえて来る。

 風に紛れて笑い声?

 


ハジメ  変なこと言ったね?心配しなくても良いからね?

 


おばあちゃん  ……ハジメ

 


ハジメ  はい

 


おばあちゃん  これ、持っていなさい(お守りを握らせる)

 


ハジメ  ……うん

 


おばあちゃん  いいね、ちゃんと持っているんだよ?

 


ハジメ  ありがとう。行ってきます

 


・8月23日。

 


オワリ  8月23日、月曜日?火曜日?何でも良いか。天気は、晴れ?雨? 良いや、雪にしちゃえ

 


 オワリ、手を叩く。

 雪が降る。

 ハジメ、影から出てくる。

 


オワリ  ハジメくん、ハジメくん。今日はカマクラでも作ろうか? 夏なのに雪だよ?ほらほら、雪が降ってる

 


ハジメ  雪は冬が良いよ

 


オワリ  そう。それもそうだね

 


 オワリ、手を叩く。

 雪が融けて消える。

ハジメ  ……オワリお姉ちゃん?

 


オワリ  ねえ、神社に行かない?

 


ハジメ  オワリの家か?

 


オワリ  そう。綺麗なものが見れるよ?

 


ハジメ  綺麗なもの?

 


オワリ  すごく綺麗だから、ハジメくんに見せたいな?

 


ハジメ  うん、分かった……

 


 オワリ、手を叩く。

 提灯の灯りが点々と点く。

 静かに鈴の音が響く。

 


オワリ  もうすぐ、もうすぐ……

 


ハジメ  待ってよ、オワリ

 


オワリ  なぁに、ハジメくん?

 


ハジメ  やっぱり、僕、帰るよ

 


オワリ  ……何で?何で何で何で? まだまだまだまだまだ楽しいことあるよ?ほぁらほら、 こっちに来てよ?どうしてどうして、何で何で何で?

 


 オワリ、ハジメ、影にすっぽり入る。

 


オワリ  帰らないでよ

 


ハジメ  帰る、僕には待っている人がいる。それに、また、遊べるよ、 呼んでくれたら

 


長山  ハジメ!

 


ハジメ  !長山、くん?

 


オワリ  ええい、忌々しい忌々しい忌々しい!

 


 ハジメ、倒れる。

 


オワリ  まだ、終わりじゃない!

 

・8月24日。

 


 オワリ、手鞠をつく。

 


オワリ  (手鞠歌)とんとんとん。あずきまんま食べた。 あずきまんな食べた。おらんちじゃ、 美味しいあずきまんま食べたでなぁ

 


 オワリ、手鞠を手に持つ。

 


オワリ  また食べたいなぁ

 

・8月25日。

 


長山  おい、青っちろいの?どうした?狐につままれたような顔をして?

 


ハジメ  ……長山くん、だよね?

 


長山  よお、青っちろいの?しばらく見ない間にでかくなったな?まあ、 細っこいのは変わってないけどな?

 


ハジメ  これでも食べる方だよ?

 


長山  ホントかよ、青っちろいの? 食べてるのに何でそんなにひょろひょろなんだよ? ちゃんとメシ食っているのかよ?

 


ハジメ  食べてるよ……僕にはハジメって名前があるんだ、忘れたかい?

 


長山  覚えてるよハジメ。まだ歩けるか?

 


ハジメ  ああ、歩ける

 


長山  じゃあ、ここから出ようぜ?あ、ひょろひょろには難しいか?

 


ハジメ  心配しなくてもへっちゃらだ!

 


長山  へえ?そう?じゃあ、行こうか?じっちゃが言ってた、 オワリ様の祠ってのを見付ける所からだ、良いか?

 


ハジメ  分かった

 


長山、片手を上げる。

ハジメ、ハイタッチしようと長山の手を叩こうとする。

長山、手を下げる。

ハジメ、長山、笑い合う。

 

・8月26日。

 


 雫が落ちる。

 オワリ、影から出てくる。

 


オワリ  今日は何日だろうか?今日は何年だろうか?

 


 雫が落ちる。

 


オワリ  寂しくなんかなかった。悲しくなんかなかった。私は神様で。 神様だから、寂しくなかった。神様だから、悲しくなかった

 


 遠くで「ハジメです!」の声が聞こえる。

 


オワリ  ああ、ハジメくん。私はずっと一人だったから、 ずっと神様だったから。寂しくなかった、悲しくなかった

 


 遠くで「うん!すっごく楽しい!」の声が聞こえる。

 


オワリ  もっと面白いもの、もっと楽しいものを、そうしたら、 私がずっと独りだったのに気付いちゃった、気付いちゃった

 


 雫が落ちる。

 


オワリ  私は、神様なのに。みんなの神様なのに……ごめんねハジメくん、 迎えに行くから。私は神様だから、ちゃんとしなくちゃ、 終わりにしなくちゃ

 


 雫が落ちる音が響く。

 


オワリ 私は、神様なのだから

 

・8月27日。

 


 雨が降りしきる。

 ハジメ、長山、長い長い道を歩く。

 オワリ、迎えに出る。

 


オワリ  こんにちは

 


ハジメ  オワリ

 


オワリ  迎えに来たよ

 


ハジメ  迎え?僕たちを、どこに連れて行こうっていうんだ?

 


オワリ  大丈夫

 


 オワリ、手を叩く。

 影が沸き立つ。

 


オワリ  一緒に行きましょう

 


ハジメ  僕たちは、帰りたいんだ。オワリとは行けないんだ

 


オワリ  こっちにおいで。ハジメ、こちらにおいで

 


ハジメ  オワリ、僕は、まだ生きたいんだ

 


長山  ハジメ、耳を傾けるな

 


 オワリ、影の中へ。

 


ハジメ  長山くん、大丈夫

 


長山  なら良いんだが?

 


ハジメ  オワリは僕をあちら側に連れて行きたいのか?

 


長山  さあね?神様の考えることは分からんよ?

 


ハジメ  僕には待っている人がいる、やりたいこともある、だから、 オワリ。ごめん

 


長山  ほぉら、鳥居が見えてきたぞ?また随分と長いなぁ?ええ、おい?

 


ハジメ  鳥居、ああ、あれをくぐるのか

 


 オワリ、影の中で笑う。

 

・8月28日。

 


 どこまでも続く鳥居。

 幾つものくすくすと笑う声。

 砂糖を焦がしたような甘く苦い匂い。

 粘つくような暑さ。

 時折吹き抜ける風は冷たい。

 ハジメ、長山、無言で歩き続ける。

 オワリ、手を叩く。

 ハジメ、長山、空に投げ出され、落ちていく。

 


オワリ  これで、終わり、終わりだよ

 


 オワリ、思わず顔を覆う。

 

・8月29日。

 


 セミの鳴いている。

 長い間、放っておかれた小さな祠。

 ハジメ、あめ玉を置いて、手を合わせる。

 オワリ、興味深そうに覗く。

 


ハジメ  かみさま、ぼくと、ともだちになってください!

 


 セミが鳴いている。

 ハジメ、首を傾げて、もう一度、手を合わせる。

 


ハジメ  かみさま、ぼくと、ともだちになってください!

 


オワリ  えっと……友達になり、ましょう?

 


 ハジメ、晴れやかに笑って、駆け出す。

 オワリ、あめ玉を手に取る。

 


オワリ  本当に、寂しくなるわね、ハジメくん?

 

・8月30日。

 


 ハジメ、オワリの祠の前で目が覚める。

 オワリ、祠からするりと出てくる。

 


オワリ  ハジメくん、ようこそ、こちら側へ

 


ハジメ  オワリ

 


オワリ  ハジメくん、ここで一緒に遊びましょ?退屈なんかさせないから。 100年でも1000年でも遊びましょ?

 


ハジメ  ……オワリ、僕は、人間なんだ

 


オワリ  知ってる

 


ハジメ  オワリのお願いは、聞けないんだ

 


オワリ  分かってる

 


ハジメ  だから、だから、ごめん、ごめんなさい

 


オワリ  どうしても、こちら側には来てくれないの?

 


ハジメ  ごめんなさい

 


 オワリ、じっとハジメの顔を見て、手を叩く。

 提灯の灯りが点々と点く。

 


オワリ  どうしても、どうしても?

 


ハジメ  ごめんなさい、許してください

 


オワリ  私がこんなにお願いしているのに?

 


 静かに鈴の音が響く。

 


ハジメ  オワリとは、友達になれないんだ

 


 沈黙。

 オワリ、影の中へ。

 ハジメ、祈るようにうずくまる。

 


オワリ  あーあ、私、頑張ったんだけどなぁ

 


ハジメ  ごめんなさい

 


オワリ  あーあ、私、頑張ったのになぁ

 


ハジメ  ごめんなさい、帰してください

 


オワリ  あーあ、あーあ

 


 ハジメ、倒れる。

 

・8月31日。

 


ハジメ  8月31日、火曜日、晴れ。今日は、家に帰る

 


 遠くでセミの声。

 


おばあちゃん  また、遊びにおいで

 


ハジメ  うん、また来るよ。長山くんにもお礼を言わないと

 


おばあちゃん  長山くんにはおばあちゃんから言っておくから

 


ハジメ  今度、美味しいお酒でも送るよ

 


おばあちゃん  ハジメ

 


ハジメ  何?

 


おばあちゃん  ……いや、何でもない。元気でね?

 


ハジメ  うん、じゃあ、またね。

 


 ハジメ、歩き出す。

 小さな祠の前で止まる。

 ハジメ、躊躇するが、祠に手を合わせ、再び歩き出す。

 オワリ、影から出て、背中を見送り、祈る。

 


オワリ  どうかに人間に、ハジメに何事もありませんように……

 


 セミの声が一際大きくなる。

 


了。