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【呉越同舟地獄録】

コントができたらいいなー、という脚本。

登場人物3人。

おおよそ10分程度。

 

【呉越同舟地獄録】

 


・登場人物

 


 那須 半兵衛(なす はんべえ)

 作家だった。

 九里 長之助(くり ちょうのすけ)

 物乞いだった。

 六文奴(ろくもんめ)

 奪衣婆と縣衣翁の孫。

 


1、三途の川。

 


六文奴  ……もし?もし?……もし?あ、気が付かれましたね? おはようございます。お名前は言えますか?(書類に書く)はい、 では、ここがどこか分かりますか?分かりませんか?そうでうか。 では、落ち着いて聞いてください。良いですか。ここは、地獄、 三途の川です。もう一度言いますね?ここは、地獄、 三途の川です。驚かれるのも無理からぬことです。 落ち着いてください。大きく深呼吸をしてください。そうです。 良いですよ。それでは、目を閉じて、ゆっくり、 思い出してください。何を?まあまあ、落ち着いて。 大きく深呼吸をしてください。思い出しましたか。そうです、 あなたは、死にました。ご愁傷様です。落ち着いて、あ、 失礼しました。そうです、ここは地獄、三途の川です。 ご納得頂けましたか?あー良かった!え、私?あ、 申し遅れました。私は六文奴、 三途の川の渡し船の係員でございます。ええ、渡し船の。 川を渡るのに船に乗るのはご存知で?はい、そうです。 三途の川の渡し船に乗って、あの世へ行きます。 船の発着場にご案内しますね?列に並んでお待ちください。 順番にお声かけしますので。あ、それまでに、 渡し賃の六文を渡せるようにしてください。では、こちらです。

 


 六文奴、スッと居なくなる。

 那須半兵衛(以下、半兵衛)、亡者の列に並び、 船が来るのを待つ。

 九里長之助(以下、長之助)、半兵衛の後ろに並ぶ。

 


半兵衛  まだ来ないのか……

 


長之助  もし?

 


半兵衛  ん?

 


長之助  渡し船はまだ来ていないのですか?

 


半兵衛  この長蛇の列を見れば分かるだろ?俺が並んで、もう、 3時間は経とうとしている

 


長之助  はあ、それは長いですね

 


半兵衛  長い……こんなことなら、 本の1冊でも一緒にお焚き上げして貰えば良かった

 


長之助  本を読むのですね?

 


半兵衛  まあな

 


長之助  学者さんですか?

 


半兵衛  いや、物書きだ。と言っても頭に「売れない」が付くがな

 


長之助  へえ、小説家さんで!先生だ

 


半兵衛  止してくれ。先生だなんて

 


長之助  何て言うお名前で?

 


半兵衛  聞いても分からないだろう、世間じゃあ泡沫(ほうまつ)だ

 


長之助  いやー、もしかしたら、知っているかもしれません

 


半兵衛  いいや、恥をかきたくない

 


長之助  そこをどうにか!教えてください

 


半兵衛  ……那須半兵衛だ

 


長之助  な、那須……

 


半兵衛  ほら、知らないだろう……いや、待て。お前の声、 どこかで聞いたことがあるぞ?

 


長之助  き、気のせいでしょう、ええ……

 


半兵衛  気のせいか……いや、しかし、似ている……

 


 半兵衛、振り返る。

 長之助、慌てて後ろを見る。

 


半兵衛  もし?

 


長之助  何でしょう?

 


半兵衛  こちらに顔を見せてくれないか?

 


長之助  ご勘弁を。あっし、崖から突き落とされて顔が潰れてまして。 ええ、とても人様に見せられる顔じゃあないので。ええ、 それは酷い顔なので

 


半兵衛  ……もし

 


長之助  な、何でしょう?

 


半兵衛  この世で、お会いしていませんか?

 


長之助  い、いやー、そんなことは、ええ、全く、その、 先生のようなご高潔な方とあっしのような下賎じゃあ、 接点なぞありはしませんよ、ええ

 


半兵衛  もし

 


長之助  ……

 


半兵衛  こちらに顔を見せてくれ

 


長之助  あ、イタタタタ……ちょ、ちょっと、お腹が痛く、と、トイレに。 いや、あっしのことはお気にならさずに

 


半兵衛  あ、当たり馬券だ

 


長之助  え、どこです?(バッと振り返る)……あ

 


半兵衛  ……九里長之助!

 


長之助  ひ、人違いです

 


半兵衛  何が人違いだ馬鹿野郎!

 


長之助  ……いやー、お元気でしたか?半兵衛さん?

 


半兵衛  何が「お元気でしたか?」だ!阿呆! よくも抜け抜けと俺の前に出られたな!

 


長之助  いやー、まさか三途の川で会うとは思いませんでした。 これもご縁ってやつですかね?仲良くしましょ?

 


半兵衛  返せ

 


長之助  ……何をです?

 


半兵衛  金だよ!お前に貸したカ・ネ!累計30万とんで2081円だ!

 


長之助  細かいな、ここは地獄ですよ?生前の貸し借りは忘れましょうよ?

 


半兵衛  お前が言う台詞じゃないだろ!返せ、今直ぐ返せ!

 


長之助  半兵衛さん

 


半兵衛  何だ

 


長之助  あっしが裕福そうに見えます?宵越しの金は持たない、ええ、 もちろん、すっからかん!返せるものがありません

 


半兵衛  ふざけるな!畜生め、この野郎!この野郎、畜生め!

 


長之助  暴力は止めましょうよ、罪が重くなりますよ?

 


半兵衛  構わぬ!針地獄、釜地獄に落とされようが、今、 ここで貴様を殴れるなら、安いものだ!

 


長之助  ちょ、ちょっと!誰かー!助けてー!ヘルプミー!!

 


六文奴  どうされました?喧嘩をなさらないでください

 


長之助  この人!暴漢魔です!

 


半兵衛  こいつ!人の貸した金を返さない不届き者です!

 


長之助  ちょっと。 まるであっしが一銭も返していないようじゃないですか? 幾度か半兵衛さんの食事代、立て替えてるじゃないですか!

 


半兵衛  そのことを考慮しても、俺の方がお前に金を貸しているから、 プラスマイナスで言えば、マイナスだ!

 


長之助  おお、嫌だ嫌だ。半兵衛さんのそういう細かいところ、 直した方が良いですよ?

 


半兵衛  お前のそういうへらへらした態度が、 前々から気に入らなかったんだ!返せ、俺の金を返せぇ!

 


長之助  だから、無いものは返せませんよ!

 


六文奴  お二方?お静かに

 


半兵衛  だって!こいつが!

 


長之助  いやいや!この人が!

 


六文奴  お静かに

 


半兵衛  あ、はい

 


長之助  あ、済みません

 


六文奴  (咳払い)そろそろ船が来るので(手を出す)

 


長之助  ……何です?この手は?

 


六文奴  渡し船の渡し賃です。お一人様、六文になります

 


長之助  え!?地獄に行くのに、金を取るのですか?!

 


六文奴  慈善事業でやっている訳ではないので。地獄の沙汰も金次第、 です♪

 


長之助  ……ふひひ、半兵衛さーん、ちょーっとお願いがあるのですけど

 


半兵衛  貸さないぞ?

 


長之助  そこを何とか!じゃないと、あっし、 この川を泳いで渡らないといけなくなっちゃうじゃないですか!

 


半兵衛  ……

 


長之助  ほら、あの、大岩見えます? あんなんがごろごろ川にどっぷんどっぷん落ちているんですよ! それに!ほら!鬼! 川を渡ろうとしている亡者に弓を引いて矢を放っているじゃないで すか!笑いながら!何か、 遠くででかいヘビみたいのが川から頭出しているし! あんな気が狂ったところから泳いで渡れと?

 


半兵衛  いや、まあ、確かに、流石に、あそこを泳げ、というのは、 そうだな、うん

 


長之助  でしょう!だから、これが、最後、情けをかけると思って! 頼みます!

 


半兵衛  ……長之助

 


長之助  はい、何でしょう?

 


半兵衛  お前、俺がどうして地獄の渡し船にいるのか、考えてみろ? 生前の俺がどんな人間だったか。そう、宵越しの金は持たない、 ああ、もちろん、すっからかん!貸せる金がない

 


長之助  ……やっぱり。あ、だから、 あんなに金を返せと言っていたのですね

 


半兵衛  いや、金は持っている。4文ほど

 


長之助  2文はどこへ?

 


半兵衛  ロウソク代をケチったら、嫌われたようでな?坊主に抜き取られた

 


長之助  うわ、とんだ生臭坊主がいたものだ

 


半兵衛  本当だ。お陰で、金が足りない

 


長之助  いやー、困りましたね?

 


半兵衛  いやー、困ったな?

 


 半兵衛、長之助、笑い合う

 


六文奴  渡し賃がないのですね?では、船には乗れないので、 あちらから泳いでください

 


 半兵衛、長之助、同時に土下座をする。

 


半兵衛  そこを何とか!

 


長之助  どうか!ご慈悲を!

 


六文奴  あの、困ります。そういうことされても、規則ですし……

 


半兵衛  何でもしますから!

 


長之助  ええ、何でもしますから!船に乗せてください!

 


半兵衛  お願いします!

 


長之助  頼みます!

 


六文奴  ちょっと、周りの目を……どうしましょう? 渡し賃がなければ船には乗せられませんし……あ

 


半兵衛  何です!?肩を揉めば良いですか!

 


長之助  あ、お靴!良い靴を履いてますね!磨きましょうか?

 


六文奴  落ち着いてください。肩を揉まなくても良いです。 靴も磨かなくても良いです。何でもしてくれるのですよね?

 


半兵衛  ……いや、何でもと言ったが、何でもじゃないと言うか? なるべく楽なことが良い

 


長之助  そうですね、何でもと言いましたが、 あっしらはそんな器用じゃないですし、 なるべく簡単なことが良いですね?

 


六文奴  誰か、この二人をあちらまでお連れして

 


半兵衛  何でもします!天地身命に誓って!

 


長之助  あ、埃がついてますよ!やだなー、もう!冗談ですよ!

 


六文奴  (咳払い)実は、人手が足りないのです

 


半兵衛  人手が足りない?

 


六文奴  ええ、渡し船の。船はあるのですけど、 亡者を乗せるのに漕ぎ手が足りなくて。

 


長之助  あー、すごい並んでいますものね?

 


六文奴  船の操作は川に竿を差して船をコントロールするだけで、 そんな難しくはないです。六文、一先ず、稼いでもらってから、 渡し船に乗るのはどうでしょうか?

 


半兵衛  生憎、物書き故、体力はなく……

 


長之助  それって、働けってこと?地獄に落ちてまで労働せにゃならんの? ええ……

 


六文奴  誰か、この二人をあちらまで

 


半兵衛  粉骨砕身で勤めさせて頂きます!

 


長之助  よーし、頑張っちゃうぞー?

 


六文奴  では、よろしくお願いしますね?

 


 六文奴、半兵衛と長之助に笠と竿を手渡す。

 半兵衛、長之助、笠と竿を身に付け、船に乗る。

 


六文奴  行ってらっしゃーい

 


 半兵衛、長之助、船を漕ぎ出す。

 


六文奴  あ、もし?もし?……お気付きですか?ここは地獄、三途の川、 次の船は、半時ほど、お待ちください(一礼)

 


了。