ネガティブ方向にポジティブ!

このブログは詰まらないことを延々と書いているブログです。

【在り来たりな物語】~地蔵の小屋。(夜)~

11番目。

中盤、劇中時間で区切ってるためか、長い。

 

11、地蔵の小屋。(夜)

 

 道と橋が交わる所から少し進むとコンクリートがぶつりと切れている。

 草が伸び放題で最早ケモノ道と化したその入り口に地蔵の小屋が立てられている。

 小屋は木造で造られていて、屋根にはネズミ色の塗装がされている。

 そこだけ妙に真新しくて余計に小屋の傷みが目に着く。

 

 ウサギ達一行はその小屋に向かってコンクリートの道をひた進んでいる。

 モクタン、眼前に迫るその小屋に思わず声が漏れる。

 

モクタン  Aah……ノスタルジーな雰囲気が漂っていますね……ホント寂しいと言うか、なんでこんな所でいるんでしょうね?

 

トゲ  もう一度言うぞ?それ本人の前で言うなよ?分かったか?……着いたぞ。今晩は

 

 トゲ、目の前にいる地蔵に声をかける。

 地蔵、すーっと息を吸うと眼下にいるトゲに返事する。

 

地蔵  なんでぇ、さっきのワニか。そいつらがお前の連れか?

 

トゲ  おう。俺の背中に乗っているのがウサギ、黒いのがモクタンだ

 

地蔵  俺は地蔵だ。名前はねぇ。この宿の主だ。よろしくな嬢ちゃん、黒いの

 

 地蔵、豪快に笑い出す。

 ウサギ、フフッと笑うとそのまま地蔵の前へ。

 

ウサギ  今晩は、お地蔵さん。今日一夜の宿を貸して頂きありがとうございます

 

地蔵  へっ、困ったときはお互い様よ。気にすんな。さ、中に上がんな

 

 ウサギ、地蔵の言葉にウサギは頷くと小屋の中へ。

 トゲ、モクタン、ウサギの後を続く。

 中は思いの外広く上を見上げれば天上が遥か上で雨を凌いでいる。

 と、奥の方で誰かが動く。

 

地蔵  おっと、先客がいるんだ。仲良くな?

 

 地蔵、ガッハッハと笑う。

 

ウサギ  今晩は。私はウサギと言います。今日一夜は宜しくお願いします

 

ケルト  ……こ、こ、今晩、は……(消え入りそうなほど弱々しく)

 

 ウサギ、ケルトの目を覗き込む。

 

ウサギ  お名前はなんて言うんですか?

 

ケルト  ……え、えと……ケ、ケルトと言います……

 

ウサギ  そう。よろしく

 

 ウサギ、にっこりと笑いかける。

 日はすっかり沈み、暗闇が昼のいた場所を我が物顔でのさばっている。

 雨は相変わらず降り続き、小屋の屋根にポトンポトンと落ちている 。

 小屋の中にはその暗闇を少しでも追い出そうとどこかからか電気の光が弱々しく入ってきている。

 ウサギ、近くに外灯があるのかな?とぼんやりと思う。

 

地蔵  おい。嬢ちゃんはどこから旅をしているんだい?

 

 地蔵、目の前にある道と道との境目を見ながら尋ねる。

 ウサギ、遥か上にあるこの小屋の主の顔を思い浮かべながら答える 。

 

ウサギ  北の方へ、ずっと向こうの山のまた山の向こうにある家から来ました

 

地蔵  ほう。それでどれくらい旅をしている?

 

ウサギ  日が昇り、また沈むのを幾千回と見たくらいの時間は流れました

 

地蔵  どこへ行くんだい?

 

ウサギ  タネガシマと言う所へ

 

地蔵  タネガシマ?聞いたことねーな。なんで其処に行きてぇーんだ?

 

ウサギ  月に行きたいんです

 

地蔵  ツキぃ?ツキってあの空に浮かんでいるまん丸お月さんのことかい?

 

ウサギ  はい、そうです。タネガシマに月へと飛べる乗り物があると聞きましたので

 

地蔵  はぁ月ねぇ……で、なんでそんなとこへ行きたいんだい?

 

ウサギ  それは…月には餅をつくうさぎがいると聞きましたから、会ってみたくて

 

地蔵  あーそれは俺も聞いたことがあるな。私の名前もウサギよ、と言ったらどうなるだろうね?

 

ウサギ  そうか君もうさぎかと、杵柄寄越して餅をつかせてくれると思います

 

地蔵  ガッハッハッ!随分と夢のある話だね、ええおい

 

 地蔵、豪快に笑う。

 ウサギ、フフフと笑う。

 モクタン、話を聞きながら横になっている。思いの外身体の疲れが残っていて、なるべく休もうとしている。

 トゲ、その横で地蔵とウサギに目を向けていた。

 トゲ、モクタン、ウサギの話に今日までの旅路を思い返す。

 ケルト、ウサギに釘付けになっている。

 

 誰も通らない橋の上に雨音が静かに降り注ぐ。

 でも、今日この日は寂しさとは無縁のところにあった。

 地蔵の小屋でウサギと地蔵が和気あいあいと話していたからだ。

 小屋の周りを笑い声が優しく包み込んでいた。

 

 暫くすると、地蔵はウサギとの会話に満足してそのまま寝てしまった。

 ウサギ、トゲとモクタンがどうしているのか見る。

 トゲ、モクタン、何故か阿吽の呼吸のように、交互に吸って吐いてをしていた。

 ウサギ、交互に寝息を合わせているのに気付くと思わず笑ってしまう。

 

ケルト  あ、あ、あの、う、ウサギ、さん……

 

ウサギ  呼んだ、ケルトくん?

 

ケルト  え、えと、あの……あ、雨が、振って、い、います、ね……

 

ウサギ  そうね、降っているね……朝は良い天気だったのに急に曇り出して、私たちはまだ橋まで随分あったからここまで走ってきたの。橋に着くくらいに雨が降り出してきてね、ちょっと焦っちゃった。ケルトくんは大丈夫だった?

 

ケルト  ぼ、僕は、あ、あ、雨が降る前、に、は、もう、ここに、つ、着いて、いた、よ

 

ウサギ  そう、それは良かったね。ケルトくんは何処から来たの?

 

ケルト  ……わ、分から、ない…き、き、気付い、たら、は、橋のち、ち、近くに、す、す、捨てられ、て、いた、から……

 

ウサギ  ……ゴメンナサイね。私、そうとは知らずに聞いちゃって

 

ケルト  き、き、気に、気にしないで……そ、それより、つ、月に、行きた、い、の?

 

ウサギ  ええ、行きたいわ。可笑しい?

 

ケルト  う、う、う、うん!そ、そ、そんなこと!そんなこと、ない、お、お、可笑しく、ない!

 

ウサギ  フフフッ。ありがと、ケルトくん……私ね、どうしても月に行きたいの

 

ケルト  ど、ど、どうして、も?

 

ウサギ  どうしても

 

ケルト  ウ、ウサギ、さん……

 

ウサギ  何、ケルトくん?

 

ケルト  ぼ、ぼ、僕、つ、月へ、行ける、の、乗り物し、し、知っている

 

 静かに雨の音が消えていく。