12番目。
中盤終わり、4000文字超え。
詰め込んでるな…
12、地蔵の小屋。(朝)
朝になった。
空は昨日の雨が嘘であったかのように晴れ渡っている。
でも地面にはしっかり水たまりが出来ていて、お天道様のイタズラは残ったままだ。
トゲ、小屋に差し込む日の光で眠りから目を覚ました。
トゲ んー……よく寝た。おー、晴れたな
地蔵 おう、ワニ。おはようさん。昨日は良く眠れたか?
トゲ おはようございます。あー、よっく眠れたよ。やっぱ安心して寝れるってのは良いね
地蔵 おいおい、普段からどんなとこで寝てんだよ?
トゲ ほとんど野外だよ。木の根っこの穴だとか土の上に葉っぱ敷き詰めるとかそんなんばっかだよ。ホント助かったよ、ありがとう
地蔵 へっ、気にすんな。俺も昨日は久方ぶりに話が出来て気分が良いんだ。こっちこそ礼を言わなくちゃな、ありがとな
トゲ、地蔵、顔を見合わせると豪快に笑い出す。
モクタン、トゲと地蔵の間に割り込んできた。
モクタン Huu……グッモーニング、お地蔵さん。今朝は良い天気になりましたね……おはよう、ワニっ子。また君の世界最高傑作のアホ面を見ることが出来て嬉しいよ
トゲ おはよう、炭っカス。朝から喧嘩を売ってくるとは元気だな。よし、安く買ってやる。まずはその頭を噛み砕かせろ
モクタン ハッ、その前に君の首を絞め落としてやりますよ!……の前に、私の勇姿をサンサンと輝く瞳で観てくれる美しきウサギはどこですか?
トゲ ああ?ウサギか?……そういや見てねーな……橋のとこにでもいるかや?
地蔵 あー、その嬢ちゃんから言付けを預かっている。『ケルトくんと先に月に行く乗り物の所に行っているね。』だそうだ
モクタン ……Why?意味が分かりませんよ?ケルトくん?それは昨日一緒に雨宿りした人形ですよね?え、そいつと月に行く?
地蔵 今し方小僧と連れ立って出て行ったよ。俺は嬢ちゃんから言付けを預かっただけだ。お前ら何も聞いちゃいねーのかよ?
モクタン し、知りませんよ!どう言うこと?!トゲ、この地蔵寂し過ぎて頭が可笑しくなっていますよ?
トゲ ……なー、俺は散々忠告したよな?失礼なことは言うなって。だからこれは仕方がないよな?ダラショ!(モクタンの顔を思いっきり引っぱたく)……ウサギは本当にケルトと一緒に出かけて行ったのか?
地蔵 ああ、そうだ
野鳩が高らかに鳴いている。
モクタン なんでウサギがケルトと一緒に出て行ったかは知りませんが、まだ走れば間に合います!トゲ、早く追いかけましょう!
地蔵 いやー、追いつけないんじゃねーかな
モクタン Ha?なんで追いつけないんです?ウサギは奥ゆかしいんです。ケルトだかケイトだか知りませんが、ウサギはそんなセカセカと歩く訳がないんです!今からなら十分に間に合いますよ!
地蔵 嬢ちゃんは奥ゆかしいかも知れんが、追いつけないよ
モクタン だから、なんでです!?一刻も早く追いかけなければ見失ってしまいます!
地蔵 車に乗っていったんだよ。人間が運転するトラックってーのかな?それの出っ張っている部分に身を寄せ合って乗っていったよ
モクタン クルマ?へ?またあなた不可解なことを言って私を騙そうと……
地蔵 嘘じゃねーよ。そのトラックの兄ちゃんはここを通るとき必ず俺にお供えをしてくんだよ?ほら、証拠に小屋の下を見な
モクタン、小屋の下を覗き込み、紅白まんじゅうと線香の束を見付ける。
モクタン ……まだです!次そのトラックが来るのは何時ですか!
地蔵 さあなー、多分半年後かな?今よりは涼しくなっている頃だな
モクタン は、半年……えー、一月が30日で、半年は12の半分だから6で、30の6倍?だから……180回日が昇るのを見る計算……そ、そんなに待てませんよ!他に来ないんですか!
地蔵 ここ3年はあのトラックの兄ちゃん以外、人も車もこの前を通っちゃいないよ
モクタン Oooh……なんてことだ……それではウサギに追いつけない…… どうすれば……(崩れ落ちる)
トゲ おい、炭っカス。自慢の脳みそはその程度か?ウサギを褒めちぎる為だけにしか回転しないのかよ?(モクタンを突く)
モクタン ……よく平気でいられますね。ウサギが私たちを置いてどこの馬の骨とも分からない奴と月へ向かってしまったんですよ? 見捨てられたんですよ……私たち……
トゲ だから、そこで考えを止めるなよ?まだウサギが見捨てたとは決まっちゃいねーぜ?まず、ウサギは何処に行ったか。言ってみ、 モクタン?
モクタン ……それはタネガシマだろう?
トゲ 残念ハズレだ。ウサギはタネガシマには向かっていない
モクタン 何を言っているんですか?ウサギは月に行く乗り物の所へ行くって言付けを残しているんですよ?
トゲ それだよ。今までウサギはタネガシマと言っていた。だけど言付けには月に行く乗り物と言った。月に行く乗り物がどこにあるか分からないからタネガシマに行くって言っていたのにだ。 ここに来てどうして月に行く乗り物なんだ?
モクタン ……月に行く乗り物の場所が分かったから?
トゲ そんでそこのタイヤの跡、橋の方へ折り返しているだろ?車の行った方向は北、タネガシマは南だ。行き先が真逆だ
モクタン 月に乗る乗り物は北にあるってこと、ですか……
トゲ ああ。で、ここ肝心。ウサギは言付けを残した。意味分かるか?ウサギは車に乗って行った。車に乗って行ったら俺らと距離が開いちまうのにだ。言付けを残していて車に乗ったってことは?
モクタン ……そうか!ウサギは私たちが月に行く乗り物がある場所を知っていて、すぐに追いついてくれると思ったってことか!
トゲ そういう事。タネガシマに行くんだったら、いつものように歩くってもんだろ?それで今まで旅して来たんだからさ。逆に俺らを置いて行くなら、言付けなんて残さないだろ普通?
モクタン ウサギは私たちを見捨てた訳ではないんですね……
トゲ ま、まだ憶測の域を出ないけどな。ウサギは奥ゆかしい良い女、だろ?ウサギは俺らを見捨てるような薄情な奴じゃねーことくらい、お前だって知っているよな?(モクタンを軽く殴る)
モクタン、身体から力が沸き起こってくるのが感じる。
モクタン ……何故、ウサギは月に行く乗り物の場所を知っていると思ったんでしょうね?
トゲ そりゃあお前、ケルトがそう言ったからじゃねーの?
モクタン !奴か!己ぇ綿っ小僧がっ!純粋無垢なウサギをたぶらかすとは許しまじ!追いつき次第とっちめてやる!
トゲ さっきまでとは随分違うな、おい……追いかける前にまずはデカイ建物を探すってもんだな
モクタン ?なんでデカイ建物なんです?
トゲ そりゃあ月に行く乗り物なんだから、デカイだろ?人間が作った乗り物は確かめっちゃデカかったからな。それを置いとく場所も広か なきゃいかんだろ……しっかしそんなデカイ建物なんてあったか?
モクタン んー……ここに来る前に寄った町は建物はたくさんありましたが……人間の大きさで言えばそんなに大きいのはなかったと思うんですけど……
トゲ んー……当りをつけるにはまだ足りねーなー……
地蔵 おい、オメーら。俺に見当があるが、聞きてーか?
モクタン 本当ですかっ!
地蔵 ああ。北の方角で、月まで行けそうなデカイ乗り物がある広い場所だろ?
モクタン そうです、それはどこですか!教えて下さい!
地蔵 10年くらい前にここでお供えをしてった奴が、この町にカンランシャが出来てそりゃあデカイと自慢をしていたよ。ここからだと見えないけどそんなに離れてちゃいなかったと思うぜ?
トゲ カンランシャ……なるほど、確かに月に行けそうだ……よし、まずはそのカンランシャに行くか。お地蔵さん、ありがとう!世話になりました。モクタン行くぞ!
地蔵 待ちな。オメーら本当に行くんかい?そこに嬢ちゃんがいるとは限らねーんだぜ?こんだけ広い世の中だ。もう会えねーかもしれないとは思わないのかよ?
トゲ お地蔵さんよ、俺は別にそんなに月に行きたい訳ではねーんだ。俺の主人がよ、ウサギと月に行ったら、月にいるうさぎと一緒に餅をつきたいなんて言ったんだよ。そんな、月にうさぎなんている訳ないのによ……でも本当は違うんだ、 あいつは遠いどこかへ行きたいんだよ。それはどこでも良くて、とにかく遠い所へ行きたいんだ
地蔵 遠いどこか、ね……
トゲ そう、遠いどこか……昔は馬鹿みたいに色んなとこへ行ってさ。怖い物無しでね、よくウサギとモクタンと俺はあいつに連れ回されたもんさ。でもあいつ、身体が衰えちまってさ……昔みたいに遠くへは行かなくなったんだよ……だからウサギは行きたいんだ、 あいつが行きたがった、馬鹿みたいに遠い、月へ
地蔵 月に行ってどうするのさ?
トゲ さあ?ただウサギはあいつが行けなかった途轍もなく遠い所へ行って、あいつが見れなかった何かを見ようとしているんだよ。 それでさ、旅に出るちょっと前かな?あいつは俺に頼んだ訳よ、ウサギとモクタンをよろしくって。だから俺は追いかけるんだ
地蔵 それがお前が旅を続ける理由か
トゲ んな大層な理由でもないけどな。ウサギとこいつをあいつの家に連れて帰る、それだけだよ。俺はあいつの棺の中で一生を終えたいしね。死んでなければだけどな
地蔵 そうか……お前はどうしてだ?会えないかもしれないのに、何故行く?
モクタン 私はただウサギと一緒に居たいだけです!いつまでもどこまでもずっと……彼女の側に居たいんです!それに、私たちもウサギも目指す目的地は同じです!会えないなんてことは絶対に、ぜっっったいにあり得ないのですっ!!
トゲ お、良いこと言うな。そうだ、俺らは月へ行こうとしているんだ。道を違えるなんて心配、しちゃいねーよ?……ま、さっきまでオロオロしていた奴の台詞とは思えないけどな
モクタン ……あなたはどうしてそう水を差して……事実なのが余計に腹立たしい……もう良いですか?私たちは先を急いでいるんです!
トゲ お地蔵さん、答えになったかい?
地蔵 ……俺はただ聞きたかっただけさ。済まねぇな、呼び止めちまって。ありがとよ、楽しかったぜ。達者でな
トゲ、モクタン、頭を下げる。 そして顔を上げて地蔵の顔を見た後、颯爽と飛び出していく。
地蔵、高らかに笑いながらそんな2体を見送る。