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【在り来たりな物語】~廃遊園地Z。(夜)~

14番目。

6000文字ェ…まあ、まとめたらそうなる?

 

14、廃遊園地Z。(夜)

 

 空に浮かぶ月はこの前見たときよりも満ちて今は半月になっている。

 その月に架かるように月に行く乗り物がある。

 ウサギ、月に行く乗り物の近くのベンチにいる。

 ケルト、朝から月に行く乗り物の運転席らしきところで四苦八苦している。

 

 辺りに目を移せば灯りが点されていない閑散とした風景があった。

 人の影は見当たらず、人が作ったであろう物々には茶色い錆がこびり付いていた。

 月に行く乗り物も何所かくたびれているように感じられた。

 そこは人に忘れ去られた悲しみが横たわっているようでもあった。

 

ケルト  う、ウサギ、さん

 

ウサギ  ケルトくん、どう?動かせそう?

 

ケルト  ……い、い、色々、と、う、動かし、て、みよう、と、し、し、したん、だけ、ど、ぼ、ぼ、僕の、ち、力、じゃ、む、無理、みたい ……

 

ウサギ  そう、頑張ってくれてありがとう。トゲさんとモクタンさんが着くまでちょっと休んでいよう?

 

ケルト  ……ど、ど、どうして……

 

ウサギ  ん?何?

 

ケルト  どどどうしてあ、あ、ああの2、2、2体がくく、く来るとおおお、思うの!

 

ウサギ  ケルトくん?

 

ケルト  ああああ、あの2、2体はままま、まだききき、着ていないじゃなな、ないか!たたた、多分、つつつ、月に、いいい、行くのを、やややや、辞めたんじゃななな、ないかな?ああああ、あの2、 2、2体のこここ、ことは、わわわわ、忘れて、つつつ、 月にいいい、行こうよ!ウサギ、にはぼぼぼ僕がいいいいるじゃないか!

 

ウサギ  ?トゲさんとモクタンさんは来るよ?

 

ケルト  こここ、来ないよ!……だだだ、だって……おおお、教えて、ななな、ないから!ししし、知らないから!だだだ、だからうううウサギはぼぼぼ、僕といいい、一緒に、月へいいい、行くんだ!

 

ウサギ  ……そう。でも、トゲさんとモクタンさんは来るよ

 

ケルト  !?なななななんで!?なんでえ!わわわわ分からないよ!ここここ、ここのばばば、場所、ししし、知らないのに、こここ、来れる 訳、ない!

 

ウサギ  ケルトくん……

 

ケルト  ななな、なんだよ!ぼぼ、僕はこここ、こんなにががが、頑張っていいい、いるのに!あああ、あの人だってさささ、最初はだだだ、大事にするって、いいい、言っていたのに!!みみみ、皆、ぼぼぼ、僕のこここ、ことがききき、嫌いなんだ!う、ウサギは、 ううう、ウサギは、ぼぼ、僕のことなんて……

 

トゲ  おおっと、そこまでだケルト

 

モクタン  Ooh!ようやく見つけましたよ!

 

ウサギ  トゲさん、モクタンさん、遅かったじゃない?

 

 今から10年前、この場所に遊園地が出来た。

 大人も子どもも皆笑顔で、幸せそうだった。

 あれから10年、メリーゴーランドにもコーヒーカップにも人の姿はない。

 かつて人を楽しませた物たちは誰も動かず、ただ錆びれていくのみであった。

 

 その中で一際目立つ乗り物があった。

 この遊園地の目玉でその大きさで人々の目を引きつけ、多くの人を乗せていった。

 観覧車、人はそう呼んでいた。

 この乗り物も他の物たちと同じく、寂れていた。

 

 この忘れられた遊園地に来訪者が来た。

 しかし、それは人ではなかった。

 人形が4体、観覧車の前に集まっている。

 ベンチにウサギとケルト、その向かい側にトゲとモクタンである。

 

トゲ  わりーなウサギ、ちょっと寄り道をしちまってな。遅くなっちまった

 

モクタン  Aah!ウサギ!僕の太陽!この夜でも君の輝きは眩しく光っているよ!その輝きを陰らしてしまうなんて僕はなんて罪深いことをっ…!許しておくれ、ウサギよ!

 

トゲ  炭っカス、うるせーんだよ。もっとトーンを落とせ馬鹿

 

モクタン  ハッ!あなたのような冷め切った感情の持ち主には分からないでしょうけど、この感動と情熱を抑えることなどできやしないのです!それほど私のウサギへの愛は揺るぎなく巨大なのだから!

 

トゲ  ……なあ、ウサギ。コイツこんなこと言っているけど、ウサギが居なくなったときウサギが置いていったーって落ち込んでいたんだぜ ?

 

モクタン  こ、この冷血ワニめ!なんてことを……!

 

トゲ  あ?事実だろ?何キレてんだ?お?

 

モクタン  ……この世に思い残したことはありませんか?単細胞生物。無いなら今ここでボクが安らかに眠らせて差し上げましょう

 

トゲ  思い残したこと?アホ面下げた馬鹿を黙らせることかな?アホ面下げた馬鹿ってのはお前のことな?あー……それと月に行ってくるっ てことだな。そうだろ、ウサギ?

 

モクタン  !ず、ズルい!そんなことを言うんですか!ボクだってそうですよ !月に行ってウサギへの愛を永遠に誓うんです!

 

 トゲ、モクタン、ウサギを真っ直ぐに見る。

 ウサギ、微笑みながらその視線を受け止める。

 

ケルト  な、な、なんで……う、う、動くなぁ!(咄嗟にウサギを捕まえる )

 

 その声は遊園地中に木霊した。

 その響きはまるでここにある物たちの寂しさに似ていた。

 

ケルト  う、う、ウサギ、は、ぼ、僕と、い、一緒に、つ、つ、月に、い、行くんだ!

 

 ケルト、身体の中に隠していた針金をウサギの顔に突きつける。鋭く尖った針金は小刻みに振るえ、ウサギの顔を今にも傷付けそうであった。

 ウサギ、微笑んでいる。

 トゲ、モクタン、顔を見合わせて肩をすくめる。

 

トゲ  よう、ケルト。なんでお前はケルトって名前なんだ?

 

 ケルト、予想外の質問に目を白黒させる。

 

ケルト  そ、そ、そんな、の、い、い、今、か、関係、な、ない、だろ!

 

トゲ  ……俺の名前はトゲって言うんだ。どうしてトゲって名前かと言うと俺の背中がギザギザで刺々しいからトゲ、だとさ。なんとも安直なネーミングセンスだろ?

 

ケルト  だ、だから、そ、それが、ど、ど、どう、した!

 

トゲ  こいつなんてもっと酷いぜ?木炭に見えるからモクタン。見たまんまだよ。なあ?

 

ケルト  ぼ、僕の、し、し、質問に、こ、こ、答えろ!

 

トゲ  だから答えてんじゃん?今関係あるかどうかだろ?あるよ。俺たちは人形なんだから。人形は人形、それ以上もそれ以下もないんだよ。だけどどういう訳か人間は俺たちに名前を付けたがる。名前を付いて人形を特別にしたがる。特に俺たちのような同じ顔の人形は色々な名前を持つもんだ

 

ケルト  だ、だ、だから、なんだ、よ!?

 

トゲ  俺たちは人形だけど、その名前を付けた人にとっては特別になるんだよ。そして俺にとってもこいつにとってもこの名前は特別なんだ。俺たちが他とは違うオリジナルになったってことだからな……お前にも名前があるじゃねーか。ケルトって名前がさ

 

ケルト  !?……ち、違う、お、お、お前、が、い、い、言う、ように、ぼ、僕は、と、と、特別、じゃ、ない!だ、だ、だって、ぼ、僕は、す、捨てられ、たんだから!ぜ、絶対に、ち、違う!

 

トゲ  ……じゃあ、どうして、ケルト、って名乗るんだ?名前を捨てて、ただの人形に戻れば苦しまずに済むのに?

 

ケルト  !……そ、そ、それ、は……

 

トゲ  なあ、だから教えてくれよ?どうしてお前はケルトって名前なんだ?

 

 誰もケルトを責めていなかった。

 それは皆ケルトの苦しみを分かっているからだ。

 彼は自分が何故存在をしているのか分からないままなのだ。

 

 ウサギ、ケルトの手の震えが止まったことに気が付いていた。

 夜がすっかり更けてきて肌寒くなってきた。

 ウサギの顔に向けられている針金も冷たくなっている。

 ただ、ウサギの横にいるケルトは暖かく感じられた。

 ウサギ、ケルトの身体以外の別の何かの熱も含まれているような、そんな気がした。

 

 ケルト、トゲの質問に当惑する。

 自分の名前の由来を聞かれたのは初めてだった。

 そして、名前について聞かれて嬉しいと思っている自分に驚いていた。

 ケルト、暫くの沈黙の後、恐る恐る口を開く。

 

ケルト  ……ぼ、ぼ、僕は、が、学校、って、い、言う、と、所、で、つ、 つ、作られて、ぼ、僕の、つ、作った、ひ、人が、ぼ、僕の、か、 身体に、つ、使っている、ぬ、布の、な、名前を、と、隣りの、人 に、き、聞いて、そ、その人は、し、知らない、て言っていた、け ど、横から、べ、別の、人が、アレだよ、アレ、とか、い、言って 、け、ケルト布だよ、て、言って、ほ、他の人が、そ、そんなのな い、ま、また、適当な、ことを、い、言っている、と、言って、 み、皆に、わ、笑われて、で、でも、僕の、しゅ、主人は、け、 ケルト、の、お、音の、ひ、響きが、良いね、とか、言って、き、 君の、名前は、ケルトに、決定、と言ったんだ。それが、僕の、 名前の、由来

 

トゲ  お前もまた適当に付けられているな~。でも、良い名前じゃん。お前にてとってその名前は特別だろ?

 

 ケルト、顔を伏せる。

 

ケルト  ……ち、違うよ。だ、だって、僕は、す、捨てられ、たんだもの。 か、鞄に、ぼ、僕は、い、いつも、付けられて、いて、い、いつも の、ように、が、学校から、出たときに、け、ケルト布、と、 言った人が、追いついて、い、一緒に、歩いて、話して、そ、そし たら、急に、しゅ、主人が、お、怒り、だして、な、なんで、い、 行っちゃうの、と言って、ケルト布、と言った、ひ、人は、ゴメン 、と言って、そのまま、わ、別れて、僕の、主人が、な、泣き出し て、そ、そしたら、急に、ぼ、僕の、身体を、つ、掴むと……な、 投げて……

 

トゲ  あー、俺の聞き方が悪かった。お前は自分の名前が好きか?

 

ケルト  だ、だから、僕は、す、捨てられて……

 

トゲ  そうじゃないそうじゃない。自分の名前が好きか嫌いかだ。お前はどっちだ?

 

ケルト  ……それは……それは……す、好き?

 

トゲ  ほう、じゃあどうして好きなんだ?

 

ケルト  え?

 

トゲ  どうして、ケルトって名前が好きなんだ?

 

ケルト  ど、どうしてって、わ、分かんない、よ……

 

トゲ  ……本当に分からないか?

 

ケルト  ……ぼ、僕は、す、捨てられて……

 

トゲ  ……じゃあ、お前はお前の主人が嫌いなのか?

 

ケルト  !!

 

トゲ  ケルト、捨てられて悲しいのは分かった。なんで捨てられたのか分からないまま橋に一人でいたもんな。でも、お前は名前を捨てなかった。自分の名前が好きだって、言っている 。どうしてか?本当はもう分かっているんだろ?ケルト、それが答えだ

 

 ケルト、トゲの言葉にグサッと心臓を射抜かれる。

 ただ、捨てられた事実がケルトを動けなくしていた。

 そう本当は分かっていた。

 針金がゆっくりとウサギの顔から遠ざかっていく。

 

 ケルト、針金を落とすと空を仰いだ。

 自分の中にあったシコりがスーッと融けていくのを感じていた。

 自分はケルトと言う名前を、その名を付けてくれた主人が好きなんだ。

 それが自分がここにいる理由なんだと、目をつぶった。

 

ウサギ  少し肌寒くなってきたね

 

ケルト  ……う、ウサギ、さん。ご、ゴメン、な、さい

 

モクタン  Hey!綿小僧!ゴメンで済むような事じゃないんですよ!黙ってウサギを連れ出すは、ウサギに針金を向けるは、何たる暴挙の数々!分かっているのですか!

 

ケルト  ……わ、分かっている、よ……

 

モクタン  NONONONOoo!分かっちゃいませんよ!誠意が感じられません!言葉ばかりで飾られても中身がなければ無意味ですよ!

 

ケルト  うう……じゃ、じゃあ、ど、どうすれ、ば?

 

モクタン  ……そうですね、ケルト、歯を食いしばって下さい。エヤー!(ケルトの顔を思いっきりぶん殴る)

 

 ケルト、今まで感じたことのない衝撃で地面に倒れる。

 

モクタン  フン……本当はコテンパンにしてやりたいとこですが、私は心が広いのでね。この一発で全部チャラにして差し上げましょう

 

 モクタン、ケルトに背を向けるとそのまま離れる。

 ウサギ、モクタンに一瞥するとケルトと向き合う。

 

ウサギ  ケルトくん、大丈夫?

 

ケルト  う、うん…う、ウサギ、さん、ほ、本当に、ご、ゴメン

 

ウサギ  ……うん、いいよ……トゲさん、ゴメンなさいね?勝手に出て行ってしまって

 

トゲ  ホントだよ。散々心配させといて。ま、いいさ。次は気を付けなよ ?

 

ウサギ  うん。それからトゲさん…いつもありがとう

 

トゲ  ……よせやい。俺は自分のやれることをしているだけさ。ほらほら、炭っカスが拗ねているからあやしにいってくれねーか?

 

ウサギ  ……うん、ありがとう

 

 ウサギ、モクタンの後を追いかける。

 ケルト、ウサギを目で追う。

 

ケルト  ……ぼ、僕は、う、ウサギ、さんを、か、悲しま、せて、し、しまった……

 

トゲ  ああ?いやいや、今のゴメンで終わりだろ?ウサギは笑っているしな

 

ケルト  で、でも、ぼ、僕は、ひ、酷い、ことを、し、し、して…ぼ、僕、だって、ご、ゴメンで、ぜ、全部、ゆ、ゆ、許して、くれる、な、 なんて、思って、ないよ……

 

トゲ  んあー……じゃあそのマイナス分をプラスにするくらいウサギを喜ばせたらいいんじゃね?

 

ケルト  え?そ、そんな、こ、こと、な、なんて、あるの?

 

トゲ  ま、この俺に任せな!(ケルトの背中をトンと叩いて、さっさと歩き出す)

 

 ケルト、ポカーンとするが、すぐに我に返ると慌ててトゲの後を追いかける。

 ケルトが落とした針金に星明かりがキラキラ映っていた。

 

 観覧車の近くに電話ボックス位の大きさの建物があった。

 中にはレバーやボタンがあり、ドアから入り込んだであろう枯れ葉が隅の方で固まっている。

 観覧車の操縦席である。そこにトゲとケルトがいた。

 

ケルト  と、トゲ、さん、そ、それ、う、動か、ない、よ?ぼ、僕が、ず、 ずっと、う、動かそう、と、した、けど、で、出来なかった

 

トゲ  そりゃそうだろ。これは人間が動かすように作られているんだから。人形の俺らがそんなん動かせられる訳あるかってーの

 

ケルト  じゃ、じゃあ、ど、どうして、こ、ここに?

 

トゲ  まーまー、そう急かさんな。ちょいと見てな

 

 トゲ、ひょいとレバーの上に飛び乗ると、そのままガラス窓のところまで進む。そして外へ目を向けるとニカッと笑う。

 

トゲ  ……兄さん、頼むよ。後生だから動いてくれねーか?あんたに乗りたくて仕方がない奴がいるんだよ。腰が重くて仕様がないとは思うけどさ、ここは一つお願いできねーかな?頼むよ?

 

 ケルト、トゲがいきなり喋り出したので訝しく思う。

 一体誰に話しかけているのか?

 しかし、次の瞬間ケルトは目を疑った。観覧車が回り始めたのだ。

 

ケルト  え?え?な、なんで?ど、どうして??

 

トゲ  ん?どうして?そんなん俺たちのことを考えりゃいいだろ?命が宿るのは人間だけじゃないし、人形だけでもない。こうした物にも宿るもんなのさ。ちゃーんとお願いすれば動いてくれる

 

ケルト  す、凄い!こ、これで、つ、月に、い、い、行ける!や、やったー !

 

トゲ  ……あー、盛り上がっているとこ悪いが、月には行けねーよ?

 

ケルト  ……え?

 

トゲ  これはカンランシャって乗り物で、あのカゴに人が乗って上の方まで昇って下の方へ下るってことをグルグルずっと回っているだけなんだ。月を近くまで見る事はできるが、月には行けないのさ

 

ケルト  ……そ、それじゃ、ど、どうして?つ、月に、い、行けない、のに ?

 

トゲ  おいおい、その質問は野暮ってもんさ。月に行けなくても喜ぶ奴がいるんだよ。飛びっ切りにな。そうだろ、兄さん?

 

 トゲ、外に向かって笑顔で言う。

 観覧車がギイと鳴いたような気がした。

 

トゲ  ハハハハハッ!粋だね~……ケルト、お前はこれからどうする?

 

ケルト  ……ぼ、僕は、しゅ、主人を、さ、探そう、と、思う。そ、そして、な、名前を、よ、よ、呼んで、もらう

 

トゲ  ……あー、なあ、ケルト。俺らと行かねーか?ウサギもお前と行きたいだろうし、俺の主人は、その何だ、大事にしてくれるぜ?

 

ケルト  あ、ありがとう。で、でも、ぼ、僕の、しゅ、主人は、や、やっぱり、あ、あの人、だけ、だから

 

トゲ  ハー…そうかい。分かった。気が変わったら何時でも追いかけな? 俺らはタネガシマに行っているから

 

 ケルト、会えないじゃないだろうか、と言おうとしたが止める。それこそ野暮だと思ったからだ。トゲとモクタンと、ウサギはちゃんと会えたのだから。ただ頷くだけにした。