ネガティブ方向にポジティブ!

このブログは詰まらないことを延々と書いているブログです。

【ロール・ロール・ロボ】

ロボットSF。

 

ヤクシ・マコ…チーフエンジニア

ミロク・ジュウゾウ…研究員

13号…ロボット

研究員A

研究員B

 

 

◯MMI研究所

 

舞台中央にR-13号、目を閉じて座っている。

プシュー、と音。

上手からヤクシ・マコ、入ってくる。

 

マコ、13号の肩に手を置く。

マコ、そっと離れて下手にあるコマンド操作ボタンの前へ行く。

 

マコ「11時00分、これよりR-13号の起動実験を行う」

マコ、ボタンを押す。

起動音、13号、目を開ける。

 

13号「ピポ、ピポパペ、ポポ……(顔だけマコに向ける)オハヨウゴザイマス」

マコ「起動確認…おはよう、13号。調子はどう?」

13号「ピパ……(首を傾げて、元に戻す)ヨイデス」

マコ「そう。ジュウゾウが来るまで待機(たいき)」

13号「ピボ、ピボバペ……ワカリマシタ……ボボ、ボボ、ボボ……タイキシマス」

 

13号、顔を正面に向け、目を閉じる。

マコ「動作良好、プログラム反応異常なし、と……」

マコ、書類に書いていく。

 

プシュー、と音。

上手からミロク・ジュウゾウ、入ってくる。

 

ジュウゾウ「おはようございます」

マコ「おはようございます」

ジュウゾウ「マコさん、今日も白衣が似合ってますね!」

マコ「ありがと、調子はどう?」

ジュウゾウ「(首を傾げ、元に戻す)絶好調(ぜっこうちょう)ですよ!あ、外は晴れてましたよ、絶好の釣り日和って感じです」

マコ「そう」

ジュウゾウ「いやー、今日が休日だったら堤防釣り(ていぼうつり)に行ったんだけどなー、残念」

 

マコ、計器を見ては、書類に書く。

 

ジュウゾウ「そんな根(こん)詰(つ)めなくて良くないですか?」

マコ「人員が少ないんだから仕方ないじゃない」

ジュウゾウ「いや、β版(べーたばん)の始動運転データは10日前に解析(かいせき)が終わったじゃないですか?今日だってAIの反復学習(はんぷくがくしゅう)だけでしょ?」

マコ「そうね」

ジュウゾウ「マコさん、R-13号が開発室に送られて来てから、研究所に籠もりっきり(こもりっきり)ですよね?」

マコ「そうだけど?」

ジュウゾウ「1年か、それ以上、マコさんが僕より先に帰ったところ、見たことないんですけど?」

マコ「当然よ、帰ってないんだもの」

ジュウゾウ「マコさん、裏で何て呼ばれているか知ってます?」

マコ「さあ?」

ジュウゾウ「カビ女、仮眠室の女給(じょきゅう)、ロール・ロール・マコとか散々ですよ?」

マコ「ロール・ロール・マコ?」

ジュウゾウ「ロール・ロール・ロボにかけて、ですよ。仕事をし続けていることを揶揄(やゆ)して」

マコ「良いじゃない。ロール・ロール・マコ。気に入ったわ」

ジュウゾウ「そりゃあ響きは良いですけど…普通に悪口ですよ?」

マコ「言いたい人には言わせておけば良いのよ」(書類を書き終わる)

ジュウゾウ「強いな……そういう所が、好きです!」

マコ「それでは、反復学習を始めてください」

ジュウゾウ「……はい」

 

ジュウゾウ、下手のコマンドを押す。

13号、目を開ける。

 

13号「ポポ、ポポ、ポポ……(顔だけジュウゾウに向ける)オハヨウゴザイマス、ジゾウ」

ジュウゾウ「はいはい、おはよう。ジゾウじゃなくて、ジュウゾウな?」

13号「ピペ、ピポパペ(首を傾げる)……ワカリマシタ、ジゾウ(首を元に戻す)」

ジュゾウ「はあ…これより反復学習を行う。今日は算数だ。この問題を解け(とけ)」

 

ジュウゾウ、13号に雑(ざつ)にテスト用紙を手渡す。

 

13号「ピパ、ピポパペ……ガクシュウモードニイコウチュウ(学習モードに移行中)……ポポ、ポポ、ポポ……ジュンビカンリョウ、コレヨリモンダイヲトキマス(準備完了、これより問題を解きます)」

 

13号、テスト用紙を解き始める。

マコ、下手にあるパソコンの前に座る。

ジュウゾウ、マコの近くに座る。

 

ジュウゾウ「今日も平常運転(へいじょううんてん)ですね」

マコ「……測定プロファイリング変換速度(へんかんそくど)が遅いわ」

ジュウゾウ「(パソコンを覗き込む(のぞきこむ))これくらいなら範囲内(はんいない)ですよ、それともパッチします?」

マコ「……いいえ、このまま続けて」

ジュウゾウ「はい」

 

ジュウゾウ「ああ、そう言えば」

マコ「何?」

ジュウゾウ「3日前の反復学習の時も算数のテストだったんですけどね?13号に1足す1の計算をさせてみたんです。そしたらいきなり顔を上げて「エガオ、ナカナオリ」なんて言いましてね。いやー、数学の問題に国語で返すなんて、信じられないですよねー」

 

マユ、驚愕(きょうがく)する。

 

ジュウゾウ「マコさん?」

マコ「何でもないわ……管制室(かんせいしつ)に行ってきます」

ジュウゾウ「あ、はい」

 

マコ、13号の肩に手を置く。

マコ、上手へハケる。

プシュー、と音。

 

ジュウゾウ、13号を厳しく見る。

 

ジュウゾウ「13号、学習中止」

13号「ピパ、ピポパペ……ガクシュウモードシュウリョウチュウ(学習モード終了中)……ポポ、ポポ、ポポ……ガクシュウモードヲシュウリョウシマシタ(学習モードを終了しました)」

ジュウゾウ「13号、お前、マントラ計画って知っているか?」

13号「ピペ、ピポパペ……(首を傾げて、元に戻す)イイエ、シリマセン(いいえ、知りません)(顔をジュウゾウに向ける)ケンサクシマスカ?(検索しますか?)」

ジュウゾウ「いや、良い。俺は知っているからな……知らないってなら、教えてやるよ」

ジュウゾウ「マントラ計画は、MMI研究所が極秘に進めている計画でな。不老不死の実現を目指しているんだよ」

13号「ピペ、ピポパペ……フロウフシ?」

ジュウゾウ「老いないし、死なないってことだ。老いるって分かるか?」

13号「ピペ、ピボパペ……ピポポ、オイル、ネンリョウ、ショクヨウ、キカイヨウナドノアブラ。セキユ。ジドウシャノジュンカツユ。マタハアブラエノグノコトデス(オイル、燃料、食用、機械用などの油。石油。自動車の潤滑油。または油絵の具のことです)」

ジュウゾウ「違う。油の方のオイルじゃない。青年から中高年、老年(ろうねん)と人間が年を経て(へて)、背が小ちゃくなったり、顔がしわくちゃになったり、頭がボケてきたり、そうして、昔できたことができなくなって、ジジイババアになっていくことを老いるっていうんだよ」

ジュウゾウ「不老不死になれば、色々なことが挑戦できる。昔できなかったこと、いや、人間ができなかったことが挑むことができる。古代から現代に至るまでそんな夢見た奴はごまんといた、が、誰一人としてその夢を叶える事ができなかった。何故だか分かるか?」

13号「ピペ、ピポパペ……ボボ、ボボ、ボボ……ワカリマセン(分かりません)」

ジュウゾウ「皆、不老不死に成る前に、老いて、死んじまうからだよ!」(嗤う(わらう))

ジュウゾウ「しかし、先人達は諦めなかった。何度でも挑戦し続けた。何度でもだ!ロマンだよなぁ…お前には分からんだろうがな」

ジュウゾウ「そして、先人達は遂に(ついに)!不老不死に成る方法を編み出した(あみだした)!」

ジュウゾウ「機械の身体に、脳を移植する、悪魔のような方法をな!」

ジュゾウ「脳内の神経信号を機械用パルス信号に変換、関節部分の駆動域は別のスーパーコンピューターで制御する。脳の劣化をiPS細胞(あいぴーえすさいぼう)で培養後、凍結保存(とうけつほぞん)する。結果!不老不死を実現させる!それが!マントラ計画だ!」

13号「ピポパペ、ピポ……マントラケイカク、トウロクシマシタ(マントラ計画、登録しました)」

 

ジュウゾウ、13号に背を向ける。

 

ジュウゾウ「移植する脳は誰のになるかは未定だが、機械の身体は97%、進捗(しんちょく)している。あとは脳と機械を接続するためのプラグとインフラが完成すれば、計画を実行できる状態にできる訳だ……さて、その機械の身体、何処の、誰だろうねぇ?」

13号「ピペ、ピポパペ(首を傾げ、元に戻す)……ワカリマセン(分かりません)。ダレデスカ?(誰ですか?)」

ジュウゾウ「お前だよ!R-13号!」(13号に詰め寄る)

(プシュー、と音)

ジュウゾウ「ひひひひ…お前がせっせと下らないお勉強をしていたのも全部無駄だったんだよ。いやあ、無駄になると分かっていてテスト用紙を渡す。辛かったね、ホント。ああ、でも、問題ない。お前の身体は人類の輝かしい未来に有効活用される!誇って良いぞ、13号!」

13号「ピペ、ピポパペ……ボボ、ボボ、ボボ(首をぐるぐると回す)……(ピタッと止まる)マコサンハ?(マコさんは?)」

ジュウゾウ「は?」

13号「マコサンハ、カナシミマセンカ?(マコさんは、悲しみませんか?)」

ジュウゾウ「……いやあ、喜ぶんじゃね?お前に、お前にかかりっきりだったし、な」

13号「マコサン、キットカナシム。ワタシガイナクナルト、カナシム(マコさん、きっと悲しむ。私がいなくなると、悲しむ)」

ジュウゾウ「はあ?そんな訳ねえだろ?マコさんはマントラ・プロジェクトのチーフエンジニアだぞ?計画の成功は喜んでも、お前が居なくなって悲しむ訳ないじゃん」

13号「マコサンヲカナシマセナイ、カナシマセテハイケナイ(マコさんを悲しませない、悲しませてはいけない)」

ジュウゾウ「だから、悲しまないって」(苛つく)

13号「マコを悲しませない、絶対」

ジュウゾウ「マコさんを気安く呼び捨てにするんじゃねぇ!ポンコツがぁ!」(13号にコマンドで殴りかかる)

 

ガン、と殴られた音。

床に何かが落ちる音。

 

ジュウゾウ「いけね、カッとなっちまった……お前があんまり変なことを言うから……あ?」(落ちた物を拾い、見る)

ジュウゾウ「これ……プラグ?試作品か?いや、そんな話、聞いてないぞ?」

ジュウゾウ「何で、プラグがあるんだ?」

 

マコ、上手からゆっくりと入る。

 

マコ「何をしているの?」

ジュウゾウ「あ、マコさん。お早いお帰りで」(咄嗟(とっさ)に隠す)

マコ「ジュウゾウ、何をしていたの?」(ジュウゾウと13号の間に入る)

ジュウゾウ「いや!違うんですよ!ちょっとデータ情報の変換エラーがあったみたいでしてね?それを直そうとしていたところなんですよ?」

マコ「……今、隠した物を見せなさい」

ジュウゾウ「え?何の事です?」

マコ「……モニターで今までのこと見ていたわ」

ジュウゾウ「へあ?」

マコ「あなたが13号に反復学習をさせていなかったこと、その後の改ざん、すべてモニターで見ていた」

ジュウゾウ「モニターって……そんな、カメラなんてどこにも……」

 

マコ、下手のコマンドの置いてあった机の下から、隠しカメラを出す。

ジュウゾウ、驚く。

 

ジュウゾウ「ち、違うんですよ!だって、こんな紙っぺらで何が分かるって言うんですか?!ロボの実稼働するのに何の役にも立たないじゃないですか!」

マコ「いいえ、分かったわ。十分に稼働できる、そう信用できるだけのデータが取れた」

ジュウゾウ「あんな紙っぺらで?」

マコ「ええ」

ジュウゾウ「何にも分かりはしませんよ!あ、こんなポンコツ止めて、別のを作りましょうよ、その方が絶対に良いです!」

マコ「……そろそろ潮時(しおどき)ね。停止させるわ」

ジュウゾウ「え?何を…」

 

マコ、ポケットからボタンを出して、押す。

ジュウゾウ、その場で止まる。

 

ジュウゾウ「ピポ、ピポパペ、ポポ……」(三角座りになって、目を閉じる)

マコ、ジュウゾウからプラグを取る。

マコ、13号にさっと近付く。

 

マコ「アキラ、大丈夫?痛くなかった?」

13号「ポポ、ポポ……マコ、大丈夫だよ」

マコ「表面部分に亀裂あり。接続部分は……見た所、異常はなさそうだけど、検査するわ」

13号「マコ、大丈夫だよ」

マコ「直ぐに直すからね、待ってて」

13号「マコ、怒っている?」

マコ「怒ってないわ」

13号「マコ」

マコ「少し静かにしてっ!」

13号「ポポ、ポポ、ポポ……1足す1は?」

マコ、黙る。

13号「マコ、1足す1は?」

マコ「にぃ、よ」

13号「ピポ、ピポパペ、ポポ……笑顔、仲直り」(笑う)

マコ「アキラ、ごめん……ごめんね……」(13号に抱きつく)

 

プシュー、と音。

研究員A、B、入ってくる。

 

研究員A「ジュウゾウの回収に来ました」

マコ「……ありがとう。お願いします」(13号から離れる)

研究員B「β版13号はどうですか?」

マコ「頭部の表面部分に亀裂を目視しました。接続部分には異常なし。集積回路が集中している部分に強い衝撃を与えられたため「アキラ・フドウ」のデータに損傷が出る可能性がある。直ぐに検査を要請(ようせい)したい」

研究員B「手配は済んでます。主任がヤクシチーフを呼んでいます。こちらの処理は私たちが引き継ぎます」

マコ「分かりました。よろしくお願いします。失礼します……13号、移動するわよ」

13号「ピポ、ピポパペ、ポポ……(カクカクと立ち上がる)コウドウモードニイコウチュウ(行動モードに移行中)ポポ、ポポ、ポポ……ジュンビカンリョウ、コレヨリイドウシマス(準備完了、これより移動します)」

 

マコ、13号に寄り添うように上手にハケる。

プシュー、という音。

 

研究員A「カビ女、取り乱し過ぎなんだよ」

研究員B「おい」

研究員A「そんな騒ぐことじゃねーだろ?「アキラ・フドウ」の脳本体は別にあるんだから、R-13号が壊れたって問題ねーだろうが」(ジュウゾウを後ろに周り、抱え込むように掴む)

研究員B「そうかもしれねーけどさ……「アキラ・フドウ」ってチーフの彼氏なんだろ?」(ジュウゾウの足を持つ)

研究員A「それがどうしたってんだよ?国に売ったのはカビ女だろう?」

研究員A、B「せーの」(ジュウゾウを持ち上げる)

照明、青白くなる。(◯通路から収容室)

研究員A「かっー!重いんだよ!……計画は何時だっけ?」

研究員B「確か、2ヶ月後の6月に最終テストが行われて…その3ヶ月後に予算組んで…諸々考えると、1年後の今頃じゃね?」

研究員A「あー、まだまだ先だな……」

研究員B「……チーフ、どうして自分の彼氏の脳を売ったんだろうな?」

研究員A「ああ?そんなの金が欲しいからじゃね?」

研究員B「それなら、あんな顔して管制室から飛び出すかね?」

研究員A「鬼のような形相(ぎょうそう)だったよな」

研究員B「……まさか、だと思うんだけど」

研究員A「おう…」

研究員A、B「せーの」(ジュウゾウを中央奥目に降ろす)

研究員A「何だ?」

研究員B「「アキラ・フドウ」の脳をジュウゾウに実装(じっそう)した後、アメリカに持ち出すんじゃね?」

研究員A「……いや、いやいやいや、ねーだろ?」(中央前目へ)

研究員B「だよな?流石にないよな?」

 

研究員A、B、後ろを振り返る。

研究員A、B、顔を見合わせ、笑う。

 

研究員A「この話は忘れよう」

研究員B「そうしよう」

 

研究員A、B、下手にハケる。

 

照明、赤くなる。

ジュウゾウ、顔を下に向けたまま立ち上がる。

ジュウゾウ、がくがくと動く。

 

 

ジュウゾウ「ア・キ・ラ?」

ジュウゾウ、首を傾げて、元に戻す。

ピアノ音が一音、ポーンと鳴る。

ジュウゾウ「ア・キ・ラ……ア・キ・ラ……」

ジュウゾウ、カクカクと回り始める。

ピアノ音が一音、また一音と鳴る。

ジュウゾウ「ア。キ。ラ。ア。キ。ラ。ア。キ。ラ。ア。キ。ラ。ア、キ、ラ、ア、キ、ラ、ア、キ、ラ、ア、キ、ラ、アキラ、アキラ、アキラ、アキラ、アキラアキラアキラアキラアキラアキラアキラアキラ…」

ジュウゾウ、狂い回る。

ピアノ音、段々とテンポが上がっていく。

 

そして、ぶつんとピアノ音が切れる。

 

ジュウゾウ「マコハオレノモノダ(マコは俺の物だ)」

 

暗転。