ネガティブ方向にポジティブ!

このブログは詰まらないことを延々と書いているブログです。

【月陽のそら】

女子高生3人組と幽霊の話。

 

井之鯉そら(いのこい そら)…女子高生1

亀井月子(かめい つきこ)…女子高生2

鶴見陽子(つるみ ようこ)…女子高生3

カズキ…幽霊

 

 

1、学校(放課後)

 

チャイムの音。

 

舞台中央、亀井月子(かめい つきこ)、鶴見陽子(つるみ ようこ)が座っている。

お互いにiPhoneを弄っている。

 

戸が開く音。

下手から井之鯉そら(いのこい そら)が入ってくる。

 

そら「ごめん、遅くなった」

月子「んー」

陽子「んー」

そら「教室出たらさ、久能山(くのやま)先生に捕まっちゃってさ。レポートの束を職員室まで運ぶの頼まれちゃって。それで遅れた」

月子「おつかれー」

陽子「おつかれー」

そら「呼び出しといて、呼び出した本人が遅れちゃうとかナイよね?ごめんね?」

月子「いいよー」

陽子「気にすんなー」

そら「ありがと!それでさ、早速本題なんだけど…ある幽霊(ゆうれい)を成仏(じょうぶつ)させたいんだ」

月子「そうなんだー」

陽子「へー」

そら「私、こう見えて霊感(れいかん)があってさ、小さい頃からよく見てたんだよね、幽霊」

月子「へー」

陽子「そら」

そら「うん?」

陽子「怖い話?」

そら「いや、全然!全然怖くないよ。今回のは怖い話じゃない」

陽子「怖いのもあるんだ」

そら「悪霊(あくりょう)?みたいな、イヤーなのもいるのはいるけど!今回は違うから!怖くないから!」

陽子「うーん…わかったー」

月子「つづけてー」

そら「うん。それで、つい最近、知り合った幽霊がいてさ。ほら、学校から直ぐの所にあるちっさい公園があるじゃん?」

月子「あるねー」

陽子「どこ?」

月子「あー…三枚橋の、反対?」

そら「そうそう。何か、斜向かい(はすむかい)が教会?だったはず」

陽子「ふーん…あ、つづけて」

そら「それでそれで、そこの公園にいるんだよ」

月子「ユーレーが?」

そら「幽霊が」

陽子「イケメン?」

そら「あー…目力(めぢから)は強い?沢村一樹を若くした感じ?」

月子「へー」

陽子「ふーん」

そら「んでんで、私はその公園でよく購買(こうばい)で買ったメロンパンを食べているんだけど。私が食べているのをじっと見てくる訳よ」

月子「え、キモい」

陽子「え、キショい」

そら「幽霊って大体、そんなもんよ?」

月子「私、霊感なくて良かったわ」

陽子「私もー」

そら「それでそれで、メロンパンはじっくり味わって食べたいんだよね。こう、一人でさ」

月子「わかるー」

陽子「あるあるー」

そら「毎度毎度、じっと見られたら、落ち着いて食べられないじゃん?だから、昨日こっちから話しかけたの、「こんにちは」って」

月子「カズキに?」

そら「ん?あ、そう、カズキに」

陽子「カズキは返事したの?」

そら「いや、最初はただただビックリしてたね。どうやら私が見えているとは思っていなかったみたい。「ふんぐあ!」とか言ってた」

月子「ふんぐあ」(笑う)

陽子「幽霊としてそのリアクションはどうなのよ、カズキ」

そら「落ち着いてからも「えー」とか「あー」とか言ったり、辺りをキョロキョロしてたね」

月子「陰キャかよ、カズキ」

陽子「挙動不審(きょどうふしん)だよ、カズキ」

そら「それでそれで、私が「私が食べている所をじっと見るの止めてくれません?」と言ったの」

月子「言ったれ、言ったれー」

陽子「いてこましたれー」

そら「そしたらカズキが「これには深い事情があって」と言い出すのよ。幽霊って大体話したがりなんだよね」

月子「その「深い事情」は長い?」

そら「長いし、別に今回の相談とは関係ないよ」

月子「じゃあ、端折って(はしょって)」

陽子「意義無ーし(いぎなし)」

そら「オッケー。そんで、カズキは成仏したいらしいのよ」

月子「なるほどー」

陽子「なるほどー」

そら「で、どうしたら成仏するかって聞いたら、「ロックが聞きたい」って」

月子「メロンパン関係ねぇ」

陽子「脈絡(みゃくらく)がないぞ、カズキ」

そら「それでそれで、私は膝(ひざ)をこう、パーンと叩いて言ってやったのよ、「よーし分かった、私がロックを聞かせてやる!」」

月子「ほれるわー」

陽子「カッコ良いー」

そら「それで、月子と陽子にお願いがあるんだけど」

月子「むりー」

陽子「むりー」

そら「まだお願いしてないのにっ!?」

月子「え、だって私ら霊感ないし?ね?」

陽子「何のお役も立てられませんよ?ね?」

そら「いや、除霊(じょれい)なんだけど、除霊じゃなくてだね!」

月子「よーし、帰るかー」(立つ)

陽子「意義無ーし」(立つ)

そら「待って待って!お願いだから!最後まで聞いてよぉ!私の至福(しふく)の時間のために、協力(きょうりょく)してくれよぉ!」

月子「こやつ、自分の欲を隠そうともせぬわ」

陽子「だが、自分に正直なのは好感(こうかん)が持てる」

月子「どうする?」

陽子「んー……月子はこの後用事ある?」

月子「ないよ」

陽子「じゃあ、もう少しだけ付き合うかな」(座る)

月子「じゃあ、私も付き合おうかな」(座る)

そら「ありがと!えーと、それで、そうだ!私はカズキにロックを聞かせると約束したんだ」

月子「ロックねー」

陽子「ロックかー」

そら「それで、月子、陽子。私とスリーピースバンドを結成しよう!」

月子「むりー」

陽子「むりー」

そら「そんな!どうして!」

月子「だって、私ら、ギター弾けない(ひけない)よ?」

陽子「ドラムも叩けない(たたけない)よ?」

そら「そこは、ほら、ロックだから」

月子「ロックだから?」

陽子「ロックだから?」

そら「こう、枠(わく)にハマらないのが、ロック!みたいな?何か、ギターとかドラムじゃない楽器で演奏(えんそう)しても「これが、ロックだ!」と言えば、ロックだよ、多分」

月子「破天荒ー(はてんこう)」

陽子「発言がロックだー」

そら「そうでしょ、そうでしょ!だから、バンドを結成(けっせい)しよ!」

月子「むりー」

陽子「むりー」

そら「え、何で。逆に聞くけど、何が無理なのさ」

月子「面倒ー(めんどう)」

陽子「こわいー」

そら「なるほど!まずは、えっと、陽子!怖くないって!」

陽子「カズキ、こわいー」

そら「カズキ、怖くない!」

陽子「えー、だって、幽霊でしょ。こわいじゃん」

そら「幽霊だけど、怖くないって!」

陽子「えー、でも、幽霊じゃん」

そら「でも、カズキだよ?「ふんぐあ!」とか言っちゃうような奴だよ?私と最後まで視線(しせん)が合わなかったような奴だよ?」

陽子「視線合わなかったんだー」

そら「合わなかった。最後ら辺は私、目を合わせようとしたけど、こう、高速で首を動かして、全く合わせてくれなかった」

月子「コミュ症かよ、カズキ」

陽子「落ち着けよ、カズキ」

そら「陽子、想像してみて?カズキがそこにいるとするじゃん?で、陽子が「こわいー」と言っているのをカズキは見ているとするじゃん?カズキは、こう、ニヤニヤして陽子を見ているとするじゃん?「え、俺のこと、怖いんですか(笑)」とかイキっているとするじゃん?陽子はどう思う」

陽子「うーん……めっさ腹立つ」

そら「でしょう!カズキをのさばらしておいて良いの!?」

陽子「良くなーい」

そら「でしょでしょ!逆にカズキを「ギャフン」と言わせたくない?」

陽子「言わせたーい」

そら「じゃあ、ロックをやろう!」

陽子「うん、良いよ」

そら「よし!それで!月子!面倒と言わずに!どうか!どうか!」

月子「えー……つーか、ロックを聞かせたいなら、軽音(けいおん)の人らに頼めば(たのめば)良いじゃん?」

そら「いや、最初に行ったよ」

月子「あ、行ったんだ」

そら「そもそも相手にされなかったよ……」

月子「そうなんだー」

そら「……周りはさ、月子と陽子のことやる気のない冷たい奴って言うけどさ。でも、私の話を疑わないじゃん?「幽霊が見える」って言って、引かなかったの、月子と陽子だけだよ」

月子「そらがウソつくわけないじゃん。ね?」

陽子「そらは良い子だもん。ね?」

そら「ありがと!……こんな私の言うこと信じてくれる、二人だから。そんな二人だからこそ、お願いしたいんだ!私とバンドを組んでください!お願いします!」

月子「その心は?」

そら「メロンパンをじっくり味わいたい!」

月子「そらは正直者だなー」

陽子「愛い奴(ういやつ)め、このこの」(そらをつつく)

月子「もう、しょうがないなー。やろうか、バンド」

そら「月子!ありがと!」(月子をハグする)

月子「暑苦しい……」

陽子「そらは熱いなー」

そら「で!ボーカルは私がやります!」

月子「さらっと花形ポジションを取っていったよ、この子」

陽子「まあ、歌えって言われても困るじゃん?」

月子「そうだねー」

そら「で、二人には何か、こう、演奏してもらいたいんだけど……」

月子「さっきも言ったけど、私ら、ギターもドラムもできないよ?」

そら「だから!そこは、別の楽器で!」

月子「別ねぇ……」

そら「月子は何の楽器だったらできる?!」

月子「私?そーだねー……タンバリン?」

そら「タンバリン……!良いじゃん、タンバリン!」

月子「え、そう?」

そら「私が歌っている後ろでシャンシャン鳴らす月子……!最高だよ!」

月子「シュールだと思うけど……そらがそれで良いなら」

陽子「はーい」(手を挙げる)

そら「はい、陽子さん!」

陽子「私、リコーダーを吹きまーす」

そら「リコーダー……!良いよ、良いよ!陽子!」

陽子「えへへ」

そら「月子のタンバリンのビートと陽子のエキサイティングなリコーダー、そこに私の歌が合わされば……これはもう、ロックだよ!」

月子「タンバリンとリコーダーの演奏で歌うのが?」

そら「何の楽器で演奏しているかが重要じゃない!そこに魂の共鳴があるかどうか!私には聞こえるよ、満員御礼(まんいんおんれい)のアリーナから万雷の拍手(ばんらいのはくしゅ)が!」

月子「アリーナ、一杯にしちゃったかー」

陽子「私ら、すごいねー」

そら「イケル!これなら間違いなく、成仏してくれるっ!」

月子「イケるかー」

陽子「はーい」(手を挙げる)

そら「はい、陽子さん!」

陽子「カズキ、「ギャフン」と言う?」

そら「言うね!「ふんぐあ!」と言った後に、「ギャフン!」と言うね!」

月子「「ふんぐあ!」と言った後に「ギャフン」と言ったら、それはもう言わせているよねー」

陽子「言ってくれるなら、何でも良いやー」

月子「そっかー、なら、いっかー」

そら「よおし!じゃあ、練習して、カズキを「ギャフン」と言わせるぞ!」

月子「おー」

陽子「おー」

 

照明、全体を青。

舞台中央を中心に月子、陽子、そらが時計回りする。

月子、ぐるぐる回りながら、タンバリンを持つ。

陽子、ぐるぐる回りながら、リコーダーを持つ。

そら、ぐるぐる回りながら、マイクを持つ。

 

(時計回り中)そらN「それから私たちは、練習した。カズキを成仏させるために時にぶつかり……合うことはなかったけど。月子も陽子も……そこそこ頑張ってくれた。うん、私は良い友達を持った!そう!私は良い友達を持った!そして、いよいよ、決戦の時……!」

 

 

2、公園

 

照明、地明かり。

 

そら「今日は集まってくれてありがと!ハトさん!えっと……6羽!こんなに集まってくれて嬉しいよ!あと、そこの子どもたち!ありがと!(手を振る)、そして、カズキ……目を見て下さい……ん?あ、カズキは君のことだよ!何か、沢村一樹の若い頃に似ているから。なので、君はカズキです!」

月子「そらー、周り見てー」

陽子「周り見ろー」

そら「あ!んん!では、私たち、「月陽のそら」の曲、聞いて下さい!」

 

そら:歌

_____

南無阿弥陀仏(なむあみだぶつ)、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏!

南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏!

南無阿弥陀仏!なーむーあみだーぶーつー

 

私はただー、じっくりー、食ーべーたいーだけー

(月子)メロンパン!

私はただー、美味しくー、いーたーだきーたいーだけー

(月子)メロンパン!

 

だから!はやく!成仏!し・ろ!

 

(月子、タンバリンソロパート)

 

極楽浄土(ごくらくじょうど)、極楽浄土、極楽浄土、極楽浄土!

極楽浄土、極楽浄土、極楽浄土、極楽浄土!

極楽浄土!ごーくーらくーじょーどー

 

そこのお前ー、私とー、目ーをー合わーせろー

(月子)ハト6羽!

そこのお前ー、しっかりー、わーたーしのー目をー見ろー

(月子)子が逃げた!

 

そして!はやく!成仏!し・ろ!

 

(陽子、リコーダーソロパート)

 

この2ヶ月ー、練習したよー

週に2回ー、練習したよー

2人にはー、感謝だよー

(月子、陽子)どういたしましてー

 

さあー、聞けー!

わーたーしーの声をー!

さあー、聞けー!

わーたーしーの歌をー!

 

いいか、カズキ、これが、ロックだ!

 

南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏!(月子)メロンパン!

極楽浄土、極楽浄土、極楽浄土!(月子)メロンパン!

南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏!(月子)メロンパン!

極楽浄土、極楽浄土、極楽浄土!(月子)メロンパン!

南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏!(月子)メロンパン!

極楽浄土、極楽浄土、極楽浄土!(月子)メロンパン!

南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏!(月子)メロンパン!

極楽浄土、極楽浄土、極楽浄土!(月子)メロンパン!

南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏!(月子)メロンパン!

極楽浄土、極楽浄土、極楽浄土!(月子)メロンパン!

南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏!(月子)メロンパン!

極楽浄土、極楽浄土、極楽浄土!(月子)メロンパン!

南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏!(月子)メロンパン!

極楽浄土、極楽浄土、極楽浄土!(月子)メロンパン!

南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏!(月子)メロンパン!

極楽浄土、極楽浄土、極楽浄土!(月子)メロンパン!

 

メロンパン!

 

だから!はやく!成仏!し・て・ネ!

_____

 

客席から、幽霊が立つ。

 

幽霊「えっと、すごく良かったです」(目線は下)

そら「そうでしょそうでしょ!」

幽霊「何か、とっても、ロックでした」

そら「そうでしょそうでしょ!」

幽霊「あの、ありがとうございました」

そら「良いよ、好きでやったことだし」

幽霊「……」

そら「あ」

幽霊「え?」

そら「「ギャフン」と言って!」

幽霊「え?え?」

そら「言って!」

幽霊「え、あ、え……ぎゃ、ぎゃふん……」

そら「陽子!「ギャフン」と言いましたよ!」

陽子「ドヤ」

月子「見事はドヤ顔だ」

そら「ふふふ。これで成仏できそう?」

幽霊「あ、はい。お手数おかけしました……」

そら「良かった」

幽霊「えっと……じゃあ……」(立ち去ろうとする)

そら「あ、待って!」

幽霊「え?」

そら「名前!教えて!」

幽霊「え?名前……?」

そら「教えて!」

幽霊「あの、その……桃李(とうり)です」

そら「ん?」

幽霊「あの、だから、鈴木桃李です……」

そら「そっか。桃李!」

幽霊「へ?」

そら「またね!」

幽霊「……ふ、ふふ」

そら「あ!笑ったな!」

幽霊「いえ、済みません。これから成仏する相手に「またな」って言うのが、何か……」

そら「そう?また会えるよ。多分ね」

幽霊「適当ですね……」

そら「テキトーで良いの!じゃあ、桃李、またね!」

幽霊改め桃李「……はい、また」(目が合う)

 

桃李、客席から退場する。

 

月子「成仏したー?」

そら「うん!成仏した!」

陽子「はーい」(手を挙げる)

そら「はい、陽子さん」

陽子「トーリって誰?」

そら「カズキのことだよ?」

月子「ん?トーリって松坂桃李の桃李」

そら「ぽい」

陽子「カズキはトーリだった?」

そら「だった」

陽子「そっかー」

月子「何でも良いけどさ、疲れたよ」

陽子「そうだねー」

そら「二人ともありがとね!「月陽のそら」はこれで解散します!」

月子「短い活動だったねー」

陽子「解散理由は?」

そら「男の好みの違い」

月子「生々しいー」

陽子「そらはどんなのがタイプ?」

そら「えー、そうだなー、坂口憲二とか阿部寛とか?」

月子「顔が濃いのが好みかー」

陽子「私、顔のタイプで言ったら、星野源が好きー」

月子「あー、さっぱりしてるねー」

そら「月子は?」

月子「山崎賢人」

陽子「これは、解散待ったなしですなー」

そら「解散しても、二人とは友達だよ!」

月子「当然ー(とうぜん)」

陽子「当たり前ー」

そら「よし!ファミレス行こう!ファミレス!」

月子「えー、今から?」

そら「良いじゃん。おごるよ?」

陽子「わあ、そら、太っ腹(ふとっぱら)」

そら「今日だけね!解散記念に!」

月子「解散記念ねー」

陽子「どうするー?」

月子「んー……じゃあ、おごられちゃうかな?」

そら「おごっちゃうよ!じゃあ、行こう!」

 

月子、陽子、そら、下手側にハケる。

 

チャイムの音。

 

了。