ネガティブ方向にポジティブ!

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【オフィーリアの戀】

2023年4月29日(土)、松本市女鳥羽川にて一人芝居を録画した。
『ハムレット』よりオフィーリアの台詞部分の抜粋をアルプス乙女ユニオンズのコタさんに監修してもらった。
そのときの戯曲を載せる。
 

 

【オフィーリアの戀】
 
1、オフィーリア 手紙

 

 ハムレットからの手紙を読む、または現れる

 

  天使のごときわが魂の偶像、美しきものなるオフィーリアへ……

  その白妙のみ胸にこの文を

  星の燃ゆるを疑おうとも、

  太陽の動くを疑おうとも、

  真実のまことなるを疑おうとも、

  わが愛を疑うことなかれ。

  おお、オフィーリア、私は詩を作るのが苦手だ、

  胸の悩みを行分けして書きあらわすなんてできっこない。

  だが、私はおまえを愛している、だれよりも、なによりも、愛している、

  それだけは信じてくれ。

  さようなら。

  このからだが自分のものであるかぎり、いとしきオフィーリアよ、

  永遠におまえのものであるハムレットより

 

2、オフィーリア 序章

 

「忘れるとでもお思い?」

 

「それだけかしら?」

 

「いまのおさとし、大事にしまっておいて心の見張り役にします。でも、お兄様、大丈夫かしら、罰当たりの神父様のように、私には天国へのけわしい茨の道を教えておいて、ご自身は身をもちくずした放蕩者のように歓楽の花咲く道を歩んでご自身の教えを忘れてしまう、そんなことはないかしら?」

 

「この胸にしっかり錠をおろし、鍵はお兄様の手におあずけします。」

 

近ごろのハムレット様はたびたびお心のこもったやさしいおことばをかけてくださいます。」

 

「どう考えたらいいのかわかりません、お父様。」

 

「でも、お父様、愛を打ちあけるときのハムレット様は、とってもきまじめに……」

 

 何かの音

 

「おことばの一つ一つに、ありとあらゆる誓いのことばをそえて、真実であることを……」

 

「お言いつけに従います、お父様。」

 

3、オフィーリア お父様

 

「お父様、お父様、とっても恐ろしいことが。」

 

「いまお部屋で縫い物をしておりますと、ハムレット様が。上着の胸もはだけ、帽子もかぶらず、靴下も汚れたままだらしなくくるぶしまで垂れさがり、お顔は真青、両のお膝はぶるぶるふるえ、まるで恐ろしい話をするために地獄からいま抜け出してきたばかりのように悲しそうなまなざしで……私の前に。」

 

「私の手首をぎゅっと握りしめ、そのお手を伸ばせるだけうしろへさがり、もう片方のお手をこのように額にかざし、肖像画でもお描きになるように、私の顔をじっとお見つめになりました。そのまま長いあいだ動かずにいらして、やがて私の手を軽くふり、頭をこのように三度うなずかせると、悲しそうに深い溜息をつかれました。いまにもおからだが溜息とともに消えていきそうに思われるほど。それでやっとお手をはなし、肩ごしにお顔をこちらにむけたまま、見ないでも道がわかるように、ドアから出ていかれたのです。最後まで私を見つめて。」

 

「いえ、ただ、お父様のお言いつけどおり、お手紙をお返しして、もう私のところにはお出でにならぬようにと。」

 

4、オフィーリア ハムレット様

 

「ハムレット様、このごろいかがお過ごしでございましょう?」

 

「ハムレット様、いただいた贈り物をここに、お返しせねばと気になっておりました。どうかお受けとりを。」

 

「ま、おぼえがないなどと、そんなはずは。これにそえてやさしいおことばまで。そのためにいっそうこの品を大事に思っておりましたのに。その香りも失せました。お返しします。気高い心には、大事であった贈り物も、贈り主の心が変われば大事でなくなるもの。さ、どうか」

 

「え?」

 

「なぜそのような?」

 

「美しさには貞淑こそもっとも似つかわしいのでは?」

 

「そのように、ハムレット様、信じさせてくださいました。」

 

「とすれば私の思いちがいはいっそうみじめなものに。」

 

 何かの音

 

「あのかたをお救いくださいまし、神様!」

 

「神様、どうかあのかたをもとのお姿に!」

 

「ああ、あれほど気高いお心が、このように無惨に! 貴人の、武人の、文人の、そのまなざし、ことば、剣さばき、うるわしいこの国の希望とも花とも仰がれ、流行の鑑、礼節の手本とたたえられ、あらゆる人の賛美の的であったのに、みんな、みんな、おしまい! 私はこの上なくふしあわせなかわいそうな女、あのかたの誓いのことばの甘い蜜を吸ったこの耳で、いま、あの並ぶものなき気高さをもったお心の、ひび割れた鐘のような狂ったひびきを聞かねばならぬとは。あのたぐいまれな青春の花のお姿が狂乱の嵐に吹き散ってしまった。ああ、なんて悲しい。昔を見た目でいまのありさまを見るこの身が恨めしい!」

 

5、オフィーリア 解放

 

「どこなの、デンマークの美しいお妃様は?」

 

 歌を歌う

 

「え? だめよ、黙って聞いてくださらないと。」

 

 歌を歌う

 

「お願いだから聞いていて。」

 

 歌を歌う

 

「元気よ、おかげさまで。フクロウは昔、パン屋の娘だったんですってね。まあ、すばらしいごちそう。」

 

「お願い、そのことはもうおっしゃらないで。でも、どういうことかって、聞かれたら……」

 

 歌を歌う

 

「さ、もう誓いのことばなしに終わりましょうね。」

 

 歌を歌う

 

「なにもかもきっとうまくいきますわ。でもどうしても涙が出てきて。冷たい土のなかで眠っている人のことを思うと。お兄様に必ず知らせます、ご忠告どうもありがとう。さ、私の馬車を。ではおやすみなさい、みなさま、おやすみなさい。おやすみ。おやすみ。」

 

 水のなかに沈んでゆく