なめした牛革のような雲が山から遠ざかっていく。
底抜けに明るい空色が山と雲との間で均一に広がっている。
ギザギザした山が雲をよく噛むから、柔らかい雲になるのだろう。
赤く日焼けした肌に薄皮が丸く膨れて、山の連なりのようだ。
腕時計をしていた所はまっちろで、手の甲と腕との間を隔てている。
薄皮が捲れれば、なました牛革のような模様になることだろう。
ご飯の上に牛肉が山盛りされている。
腹の虫は未だか未だかと催促し、白米と牛肉を一緒くたに口に放り込む。
奥歯でよく噛んで脳の満腹中枢を刺激させれば、腹の虫も気付くだろう。
私の意識の根柢に山はある、鬱陶しいほどに。
小学校の校歌に、中学校の校外学習に、高校の通学で乗る電車に。
山の名前がある、山を集団登山する、登山シーズンに登山者が乗ってくる。
何処に行っても、山が追いかけてくる。
何時まで経っても、山が追い縋ってくる。
本当は、山はただそこにあって、追いかけても追い縋ってもいないのに。
山に噛まれてぐにゃんぐにゃんになった私が居る。
何時の間にか、なまされた牛革の如しだ。
一人で立つのが億劫で面倒なのは、ぐにゃんぐにゃんに噛んだ山の性だ。
山から遠ざかりたい、あの雲もそう考えているに違いない。
しかし、雲も私も柔らかいから、一処に留まらない。
そして、きっと、山がそんな雲や私を繋ぎ止めている。
鬱陶しいほどに、安心する。
それが山、私の山だ。
ギザギザした山を今日も仰ぎ見る。
山の日らしいから、それらしいことを書いてみた。