待望の雨が降った。
私の住む地区にはここ数週間、1滴の雨も降らなかった。
暑がりの母は、ようやく降った雨にほっとしている様だった。
待ち望まれた雨は、静かに唐突にやって来た。
私が目を覚ました時は何の気配もなかった。
しかし程なくして、ぽつぽつと軽い音から急激にバチバチとトタン屋根を強く叩き付ける音が鳴り響いた。
滂沱の雨である。
車軸を流すような雨である。
豪雨がひび割れたコンクリートに激しく打つ。
それなのに、雨が降っていなかった。
仕事に向かう道、2kmほど進んだ地区には、1滴も降っていなかった。
ひび割れたコンクリートは渇き切っていた。
自転車で15分ほどの距離だ。
片やバケツをひっくり返したような雨、片やぱりぱりのパイのような乾いた道。
こうも違うとあの雨は夏の蜃気楼ではないか?と疑ってしまう。
仕事場に着き、しばらく働いていると、蒸気が吹き出したような音が近付いて来た。
滂沱の雨だ、車軸を流すような雨だ。
湯を沸かしたような匂いが工場に充満した。
どうやら、私が雨を追い越していたようだ。
その追い越した雨が、追いついたのだろう。
ざばざばと雨が降っている。
明日の朝は肌寒いかもしれない、と蒸し暑い工場の中、一人ぽつり思う。
ただ、雨が降った、それだけの話だ。