詩を書きます。
『世界の終わりの前日』
夕方のニュース、世界が終わることを知った。
通りで欠勤退職する人が多いのか。
白米を一人でよそう。
早朝の目覚まし、世界が終わる前に会社を休んだ。
電話の向こうの上司はただ一言「分かった」とだけ言った。
マーガリンをスプーンで塗る。
午前の繁華街、世界の終わりのような静けさの中を散策した。
花屋に白髪の女性が「全部タダなんですよ」と朗らかに言った。
ありったけの花をリヤカーで運ぶ。
正午の公園、世界の終わりかと一人ごちながらベンチで昼食にした。
遠くの木に人がぶら下がっていて、風に吹かれる度に揺らめいている。
視線を外して見なかったことにする。
午後のデパート、世界の終わりなど忘れたようにショッピングをした。
どの店もガラスが割れていて、半年前くらいに暴動があったなと思い出す。
1万円をレジに置いて適当に持ち帰る。
深夜のリビング、世界の終わりをイメージして模様替えした部屋で積み本を読んだ。
そこかしこに花を生け、ロウソクを灯し、クラシックを流して寛ぐ。
日本酒をグラスであおる。
日を跨いだ寝室、世界の終わりの音が聞こえる。
けたたましくも悲しいラッパの音、おぞましくも厳かな木魚の音。
新たな世界の始まりを予感して目をつぶる。
昨日は久方ぶりに楽しかった。
今日は世界が終わる。
明日は何を想えば良いだろうか。
私は眠る。世界の終わりの最中に。