自動車の鍵を無くした。
普段はカーゴパンツの右ポケットに突っ込んでいる。
しかし、その右ポケットから忽然と消えた。
原因は分かりきっている。
物がスラム街の裏道並みに散乱しているからだ。
物を片付けている際に、何処かに紛れたのだろう。
初めから整理整頓をすれば、こんなことにはならなかっただろう。
しかし、初めから整理整頓ができるような生真面目な人間ではない私は、露骨なまでに目を逸らす。
魔境と化した我が城に、踏み入れる人がいないのが幸いか。
スペアキーでエンジンをかける。
無骨でシンプルなスペアキーは、呆れているだろうか。
スペアキーに付けたストラップがカチャリとハンドルにぶつかって、無骨らしい返事をした。
きっと、旅に出たのだろう。
妖精の背に乗って、 私が知らない世界へ行ったのだ。
そして、疲れたら、私の部屋にそっと戻ってくるだろう。
私がキーを見付けた時、魔王城の宝箱のような胸のときめきとキーの大切さに気付くはずだ。
キーが旅に出たのは、自分自身を見つめ直すためで、キーは旅をしたことによって、自分の役割、居場所を再認識する。
キーが見付からないのは、私だけの性ではない。
済まない、キーよ、私の無精の性なのに。
許せ、キーよ、見付からないお前が悪いのだ。
…片付けを頑張ろう、そうしよう。