欠伸がまろび出る。
何をそんなに急いているのか、一目散に出ていく。
ぼんやりした視界の中、微睡みながら、欠伸が出て行くのを見送る。
考えれば、見送るばかりの人生だ。
希望を胸に先んじて歩く人たちを、私は陽炎のような揺らめきに身を任せて、眺めるばかりだ。
花を見れば、花の美しさを愛でる。
鳥を見れば、鳥の飛ぶ速さに驚く。
風が吹けば、風で運ばれたであろう遠い異国の匂いを感じる。
月が照れば、月の慈しみの明かりの下で、ただただ、見上げる。
そうやって、謳歌する世のすべてのものの遥か後ろで、私は欠伸をしているのだ。
「アキレスと亀」で言えば、世のすべてのものが「亀」で、私が「アキレス」だ。
その気になれば、アキレスが亀を追い越すのは容易い、と多くの人は声を上げるを
しかし、もし、追い越した亀はすでに地球を1000万周していて、アキレスは999万9999周分の周回遅れだとしたら?
不可能ではないかもしれないが、その道程が困難なのは、想像に難くない。
アキレスは追い抜くために、困難な一歩を踏み出すだろうか?
アキレスが駆けている間も、亀も進んでいるのに?
これは愚問だろう、それでも、アキレスは駆け出す。
アキレスの胸には希望があるのだから。
駆け出す人を、傍観する私は、気のない声で応援する。
前述で私は「アキレス」と宣ったが、何処もアキレスではなかった、反省する。
アキレスでも亀でもない私は、やはり、陽炎だ。
欠伸がまたまろび出る。
気を付けて、と気のない声をかけて、また見送った。