ネガティブ方向にポジティブ!

このブログは詰まらないことを延々と書いているブログです。

【モザイク・症候群(シンドローム)】幕間-ドロボウと警察-〜金魚島(序)

バス事故のもう一人の生存者の話、そして舞台を移して因習残る島へ。

 

 

 ・幕間-ドロボウと警察-

左近寺勝にスポットライト。

左近寺の後ろに玄野翔、望月紫苑、山緑永久、黄戸正道、稲葉朱理がいる。

 

左近寺「10年前、俺はバスの横転事故にあった」

 

バスのアナウンス「次は北森2丁目、北森2丁目でございます。お降りの方は、バスが完全に止まってから席をお立ちください。お忘れ物なきようご注意ください」

 

左近寺「原因は、運転手の運転ミスと…俺がどかしたマネキン」

 

バスのアナウンス「次は南公園前、南公園前___」

 

左近寺「ちょっと邪魔だったんだ、まさか、倒れてくるなんて…」

 

バスのアナウンス「次は市立図書館前、市立図書館前___」

 

左近寺「あの時、左に、左にさえ曲がらなければ…左にさえっ!」

 

バスのアナウンス「次は東名大学病院、東名大学病院___」

 

左近寺「それから10年間、俺は右にしか曲がれない、あの日から」

左近寺「俺の人生の内で最大の厄日(やくび)だった、昨日までは」

 

ガン、という音。

玄野、望月、山緑、黄戸、稲葉、左近寺、プールに飛び込んだ時のように、急に身体が沈む。

タイヤが加速する音。

玄野、望月、山緑、黄戸、稲葉、左近寺、沈んだ身体が水面に向かって浮かぶように、ゆっくりと身体が上へと向かう。

ドゴン、という音。

玄野、望月、山緑、黄戸、稲葉、左近寺、風に舞う木葉のように、バスの中でしっちゃかに動く。

ガッシャーン、と言う音。

玄野、望月、山緑、黄戸、稲葉、左近寺、横たわる

 

左近寺、立ち上がる。

舞台中央、走る男、左近寺。

必死に逃げている。

時々立ち止まり、右に回る。

ぐるっと舞台を一周する。

 

そこへ、須藤勝が入ってくる。

須藤「逃げても無駄ですよ?」

左近寺は苦い顔をしながら、また右に曲がる。

左近寺を追う須藤。

ぐるっともう一周する。

 

須藤「そこは右折禁止ですよ?」

左近寺「普通自動車は、だろう、がっ!」

右折する左近寺、追う須藤。

左近寺、立ち止まる。

須藤も立ち止まる。

 

須藤「はい、行き止まりです」

左近寺「しつこいぞ、須藤!」

須藤「私は警察官、ホシを追うのが仕事です」

左近寺「ウソつけ!お前は、ホシを挙げたい訳じゃないだろっ!」

須藤「あら、バレちゃいました?」

須藤「思い出しますね。二人の思い出の数々を」

 

須藤、前に出る。

ライトが変わる。

猫の鳴き声。

左近寺、玄関を開ける。

左近寺「ただいま...はあ」

明かりを着けようとして止まる。

須藤「おかえりなさい」

部屋の中央で座り込む須藤、何やら匂いを嗅いでいる。

左近寺「だ、誰だ」

ゆっくりと振り返る須藤、目を細く、薄い笑顔を浮かべる。

須藤「須藤勝です。横須賀の須に藤(ふじ)で、勝負の勝(しょう)で「かてる」です。歳は34歳、階級は警視正(けいしせい)。趣味は料理、特技は暗記です。そして、あなたの運命の人です。」

左近寺「…うんめい?は?」

須藤、すーっと近付いていく。

左近寺、転げるように走り出す。

須藤「ふふふふふ…逃がさない」

 

ライト、元に戻る。

左近寺、最初の位置に戻る。

須藤、その動きに合わせて最初の位置へ。

 

左近寺「薄暗がりで、にっこり笑う女、何のホラーだよ。今思い出してもちびりそうになるわっ!」

須藤「左近寺さん、質問です」

左近寺「.........何だ」

須藤「あなたは今、袋小路にいます。あなたが取れる選択肢は3つ」

須藤、手をバン、と叩く。

須藤「1つ、私をすり抜ける」

須藤「ふふっ、でも無理ですよね?だって私、あなたから見て右にいますから」

左近寺、黙っている。

須藤、また手をバン、と叩く。

須藤「2つ目、私を倒す」

須藤「でも、あなたは私に勝てない」

須藤「剣道七段、空手六段、逮捕術の大会の個人技で3位、ね?」

左近寺、身動ぎもせず、無言。

 

須藤、一際大きく、バン、と手を叩く。

須藤「ああ、そしてお待ちかね!あなたが取れる最後の選択肢は…私と一緒に暮らすことです」

左近寺「は?」

須藤「あなたが盗んだ物は、紛失物として私が上手く処理します」

須藤「部屋のレイアウトも左側を使わなくて良いように工夫します。左近寺さんは動く必要もありません。私が全部、お世話しますから」

左近寺「監禁か...イカレ女め」

須藤「匿う(かくま・う)、と言ってください」

左近寺「頭がパッパラパーな女に玩具(おもちゃ)にされたらストレスマッハだよ」

須藤「なら、自首をしますか?」

左近寺「…それは…」

須藤「しないのですね?」

須藤「うふふ…さあ、左近寺さんのお答えは?」

左近寺、考え、天を仰ぐ。

左近寺「なあ、質問だ」

須藤「はい」

左近寺「何で、俺が、この袋小路にいると思う?」

須藤「私がそう誘導(ゆうどう)したからです」

左近寺「お前、この辺一帯の地図は覚えているんだろう」

須藤「はい、ばっちりです」

左近寺「最後の質問だ。この壁の向こう側は何だ?」

須藤「この壁の向こう側?(考え、ハッとする)…左近寺さん!」

詰め寄ろうとする須藤、それよりも早く壁によじ登る左近寺。

左近寺「馬鹿が!右折しかできないから?直進も後退もできるわっ!選択肢狭(せば)められてねーんだよ!」

須藤「迂闊(うかつ)っ!」

左近寺「ざまあねーな、ストーカー!俺はこれでお前さんのいないどこかに行くよ」

須藤「まっ」

左近寺「(食い気味に)待たねえよ!じゃあな!」

左近寺、壁の向こう側に飛び降りる。

 

須藤、立ち上がり、大きく深呼吸。

須藤「壁の向こう側は、水上バスの発着場」

須藤「現在6時20分、(iPhoneを見て)、出港した水上バスの向かう先は…金魚島」

須藤「すぐに壁によじ登らなかったのは、水上バスの出港時間と私が壁を登って左近寺さんに追い着くまでの時間差を埋めるため」

須藤「途中でペラペラと話出したのは、時間稼ぎをするため。私の質問の間黙っていたのは、汽笛の合図を聞き逃さないため」

須藤「ふふふ、本当に困った方ですね...」

須藤「必ず捕まえてみせますよ、左近寺さん」

 

須藤、退場する。

 

・金魚島

 

波の音。

青い景色になる。

どたどたと銀、ゆっくりと金田が再登場する。

 

銀「いやあ、来たね、金魚島!」

金田「ああ」

銀「おいら、ワクワクしてきたぞ!」

金田「巫女さんに会うのが?」

銀「それもあるけど、祭りもあるみたいなんだよ!祭りっつたら、酒も出るだろ?」

金田「あー…お前、あんまり飲むなよ」

銀「ケチくせぇこと言うなよ、あー、楽しみだな!」

 

玄野翔、望月紫苑、山緑永久、黄戸正道、稲葉朱理、登場する。

稲葉「遠かったね」

山緑「わあ、かにさんだぁ」

黄戸「ここが金魚島か」

望月「万病を治す巫女、あの子なのかしら?」

山緑「どなたぁ?」

望月「姫恋白よ、夢に出てくる女の子」

望月「…何か静かね」

山緑「あれれ?そこに座っているのは、どなた?」

稲葉「翔くん?」

玄野、無言。

黄戸「…船酔いか?」

望月「はあ?何で船酔いとかしてるのよ?」

稲葉「翔くん、大丈夫ですか?」

玄野、小声で何かを言う。

望月「何?」

稲葉「…「ここは任せて、先に行けッス」だそうです」

望月「余裕じゃない」

黄戸「心配して損した」

山緑「あ、猫さんだぁ」

稲葉「キツかったら、言って下さいね?」

玄野、無言で頷く。

 

左近寺、登場。

左近寺「あー、着いた…もう昼か?」

須藤が登場する。

須藤「左近寺さーん」

左近寺「!?何でいるんだよっ!」

左近寺、船側に隠れ、様子を見る。

須藤、左近寺を探す。

銀と金田、須藤の行く手を阻む形に。

 

須藤「こんにちは」

銀「こんちはー」

金田「こんにちは」

須藤「この島の住民の方ですか?」

銀「いや?違いますよ」

須藤「そうですか…」

金田「あなたは?」

須藤「失礼しました。(警察手帳を見せる)私は須藤勝、警察です」

銀「警察の方?何か事件ッスか?」

須藤「いえ…こちらの方を知っていますか?」(左近寺の写真を見せる)

金田「!左近寺勝…!」

須藤「知っているのですか?!」

金田「ああ、いや?」

須藤「どのような関係で?どこにいるか知っているのですか?!もしかして、呼ばれたとか!??」

銀「ちょちょ、質問が多いですって!」

須藤「…済みません、平静を失ってしまいました…見付けましたら、ここにご連絡ください」(メモ書きを手渡す)

金田「あいつ、何かしたのか?」

須藤「…それについてはお答えできません」

互いに無言。

銀「…まあまあ、警察にも守秘義務ってあるし?な?」

須藤「…いえ、実は私的な理由でして…」

銀「んあ?」

須藤「左近寺は私の旦那(だんな)で…」

金田「あ、そうなのか…?」

須藤「私に何も言わずに失踪して…悩みがあるなら言ってくれても良かったのに…!」

左近寺「お前だよ、お前」(小声)

金田「…分かりました。見付けましたら、ご連絡します」

須藤「絶対ですよ?お願いしますよ?…嗚呼、もうすぐ会えますね、あなた…!」

須藤、退場。

銀「…いやあ、めでたしめでたしってか?」

左近寺「めでたくねぇよ!」(小声)

 

そこへ松田橙子、竹内もぐら、梅木蒼、赤城彩花、姫恋白が登場。

 

梅木「ようこそ!」

赤城「神秘の島、金魚島に!」

姫恋、旗をぱたぱたと振る。

 

銀「!おおお!選り取り見取りじゃ!」

赤城「私たち金魚高校1年観光部です。島のご案内は任せてください!」

銀「ほほう?チミたちの名前は?」

梅木「私は梅木蒼」

赤城「私は赤城彩花です」

銀「成る程成る程、3サイズは?」

金田「銀…」

銀「…お?あ、巫女さん!」

姫恋、旗を振る。

赤城「お、おじさん白がお目当て?そう、何を隠そう、舟守神社の巫女にして、この島のアイドル!」

姫恋、軽く突っ込む。

赤城「アイドルじゃないって?なんでなんで?この前もめっちゃもらってたじゃん、何か野菜」

梅木「野菜」

姫恋、頭を軽く振って、手を合わせる。

赤城「神社のってこと?でも、それって誰が食べるの?」

姫恋、自分を指す。

赤城「じゃあ、しろのものじゃん、プレじゃん、プレ。つまり、しろはアイドル!」

梅木「そう!白はアイドル!」

姫恋、照れる。

金田「アイドル?巫女じゃないのか?」

赤城「巫女さんですよ、巫女でアイドルです!」

梅木「アイドル活動はしてないけどね!」

銀「尊いな…っと、白ちゃんがさっきから喋っていないんだけど?喋れないの?おいら、白ちゃんの声も聞きたいなぁ」

赤城「駄目だよ、白が喋れるのは1年で3回だけ」

姫恋「もう少し、喋る」

銀「喋った!」(驚く)

金田「貴重な1回目がしょうもないツッコミか」

赤城「おっと、録音すべきだったわー、ミスった」

姫恋、赤城を突く。

赤城「痛い痛い。ああ、お客さんたち、宿はこちら」

銀「おっと、いかん!」

金田「どうした?」

銀「お前には聞こえないのかっ!祭り囃子だ!酒が、美女が、俺を呼んでるぜ!フッフー!」

銀、退場。

赤城「あれは駄目なおっさんだな」

梅木「さいか」

赤城「あれ、置いてって良い?」

金田「…ああ」

梅木、左近寺に気付く。

梅木「あ、さいか!あの人もお客さんじゃないっ?」

梅木「ようこそ!金魚島へ!」

左近寺「ばっ!こっちに来るな」

須藤、登場。

須藤「…左近寺さん?」

左近寺「!クソっ!」

須藤「ふふふふ…」

左近寺、転げるように退場。

須藤、追うように退場。

 

梅木「…何なんだ?」

赤城「今日は変な客が多いな…白、近付いちゃ駄目だぞ。さ、お客さんはこちらへ!」

金田、赤城、姫恋、梅木、退場。

 

山緑「…どなたぁ?」

望月「左近寺よ」

黄戸「居たな」

玄野「何で逃げるんスかね?」

黄戸「復活、早っ!」

稲葉「翔くん、もう大丈夫なの?」

玄野「ウッス!俺は大丈…オロロロ…」(吐く)

稲葉「しょ、翔くん!?」

望月「はあ、アホらし」

山緑「どなたぁ」

望月「翔よ、アホの」

山緑「まあ、たいへーん」

黄戸「前途多難(ぜんとたなん)だな…」

 

望月、黄戸、山緑、退場。

銀、入れ違いに登場。

銀、iPhoneを出し、電話をする。

上手側に時雨、電話に出る。

銀「しもしも、銀でっす」

時雨「どう?」

銀「まあ、想定の範囲内って感じですかね?」

時雨「そう」

銀「しっかし、これで良いんですか?」

時雨「何が?」

銀「金田に病気を誤認識させるってのは…色々とリスキーじゃありません?」

時雨「良いのよ、こちらがコントロールできれば問題ないわ」

時雨「それに、良い実験データが手に入るかもしれないわ」

銀「変にならなきゃ良いけど...」

時雨「また連絡して」(通話を切る)

時雨、退場。

銀「うっし、宿に行く前に…美味しいお酒はどこにありんす?」

銀、退場。

稲葉「翔くん、今のって…」

玄野「…どうやら、銀は悪の組織の人間みたいッスね!」

玄野「朱理ちゃん!オレたちで世界を救うッス!」

稲葉「…うん、救おう!」

稲葉「私、魔法少女ね!」(玄野、朱理、退場しながら)

玄野「朱理ちゃん!朱理ちゃんにはピンクをやって欲しいッス!」

稲葉「えー?魔法少女が良いな」

玄野「そう言わずに!俺、レッドがやりたいッス!頼むッス!」

稲葉「…もう、しょうがないなー」

玄野「朱理ちゃん!マジありがとう!」

稲葉「その代わり…私のお願いも後で聞いてね?」

玄野「もちろんッス!さあ、面白くなって来たぞぉ」