ゆっくりと確実に、雲が雲の隙間を埋めていく。
スポンジ生地に丁寧に塗るクリームのように、均一に雲が伸びていく。
そして、夕方、世界は灰色になった。
この灰色は病室の壁のようにも見える。
何の刺激もなく、何の変哲もない。
病室の壁のような空は、自分が周りから隔離されたような気分になり、妙な不安を覚える。
仕事で一つ上の役職への打診があった。
主だった理由が、休みなく長く続けている人だったから。
数日、考えて、承けても良い旨を先程伝えた。
昇格なのだから喜んで素直に引き受ければ良かったかもしれない。
しかし、このポジション、ストレスが半端ないらしい。
今の職場を辞める理由の1つが、このポジションでのストレス、と囁かれたのを聞けば、どうしても二の足を踏んでしまう。
私は兎に角、お金よりも休みが欲しい人間だ。
今のままの方が、ずっと良いのだ。
しかし、周りの希求する声を完全に無視できるほど図太くない。
それに、ずっとこのままで居続けることへの懐疑もある。
全く分からない訳ではない、手間取るだろうが、やれる気もする。
なら、引き受けてみよう、と考えた。
このまま、灰色の世界に居続けるのも悪くない。
しかし、普通の青空の下で普通の人のように振る舞いたい欲がある。
隔離されていれば安全だが、得るモノもない、何となくそう考える。
雨の匂いがする。
この雨が通り過ぎれば、夏だ。