鈍色の魚のような雲の群れが東の空に浮かんでいた。
川に薄氷が張っているようなリバーブルーの空を、自由に、堂々と、雲の群れが浮かんでいた。
昼の名残りは星々が拾い集め、雲の群れは夜の衣を纏い始めていた。
雨と雨の合間、気持ちの良い風が私の顔を、肺を、心臓を、その内部深くまで通り抜けていった。
この風は、あの雲の群れの息吹きだろう。
数年を共に歩いたボロ靴に空いた穴からも、雲の群れの息吹きは通っていった。
今、この瞬間だ。
頭蓋骨の内側で銅鑼が鳴り響く。
今、この一瞬が、すべてだ。
今だ、今なのだ。
この瞬間、この一瞬、この刹那。
今、今、今なのだ。
大きく息を吸い、止めて、吐いた。
雲の群れは弾むように軽やかに、悠々と、リバーブルーの冷たい空を進んでいた。
さようなら、今よ、この瞬間よ。
いずれ私もあの空の底に沈むだろう。
その時に、また出会える奇跡を。
生きている内には、これが最後に違いなかった。
鈍色の魚のような雲の群れが東の空に浮かんでいた。
川に薄氷が張っているようなリバーブルーの空を、自由に、堂々と、雲の群れが浮かんでいた。
私は履き慣れたボロ靴でずっと暗くなった道に、一歩、踏み出した。