梅雨が明けた。
関東甲信越地方は夏に入った。
6月に梅雨明けしたのは、観測史上初めて、とのこと。
成る程、雲が三々五々と散り散りになっているのは、梅雨が明けたからか。
熟練のパン職人が千切ったパン生地のような雲たちは、のびのびと浮かんでいる。
そして、徐々に高度を上げながら、東から西へと流れて行く。
久方ぶりに山の稜線の緑を見た。
快活な山肌の木々は風が吹く度に、音の強弱を付け、止め処なく、ぱらぱらと葉を打ち合っている。
その葉音はまるで、晴れやかに談笑しているようだ。
ふと、細く小さい雲が山に寝そべっていた。
くたっとしたその雲は、梅雨の忙しい時期を終えて、力が抜けてしまったのだろう。
よく分かる、一仕事を終えた後は、くたっとしなくなるよな。
あのくたっとした雲や、三々五々したあの雲たちも、まだ日本の各地で雨を降らすのに大忙しな雲たちを助けに向かうのだろうか?
それとも、日本を離れて、遠く異国の地へ向かうのだろうか?
どちらにしても、一先ずは、信濃での長らくのお勤め、お疲れ様。
自動車から降りると、斜向かいの家の二階の窓が、太陽の光を反射した。
隣の家の庭先の青い紫陽花は、反射した光をその全身で受け止めていた。
だからだろうか、私には紫陽花の青さが眩しく見えた。
7月、梅雨明け、夏本番だ。
私の部屋の扇風機も首を回して準備運動し始める。
雲も、山の木々も、青い紫陽花も、夏の準備は万全だろうか。
私の心は浮き足立ちながら、いつものように日々を過ごす。
丁寧に、一つ一つ、確かめて。
今年の夏の色と音と匂いと味わいと肌触りを、できるだけ写し取ろう。
すべてを写すのはできないだろうが、私の身体が感じるその一瞬を忘れないように。
忘れても、アルバムをめくる時に思い出すように、写し取る。
思い出すことも忘れたら、そう感じていた私を認められるように、写し取ろう。
さあ、梅雨が明けた。
私の準備は万端だ。
今、この瞬間、もう夏だ。