浴室で座り込んで、じっとシャワーを浴びる。
浴槽に身体を浮かべている時間よりも、じっとシャワーを浴びている時間の方がずっと長い。
ただシャワーヘッドから出る湯をじっと浴び続ける。
一人だけの空間で、私の口からは息を吐く時の音しかしない。
私一人だけ、後は、シャワーの音だけ。
途切れなく流れ出る、シャワーの音だけが浴室に響く。
と、私の耳に電話の着信音が聞こえた。
リリリリリ…とよく耳を澄まさないと聞こえないような小さな音だ。
静かな夜だ、隣近所から伝播したのか、と考える。
いや、もっと耳を傾けてみると、電話の着信音ではない。
リリリリリ…となる音は途切れず、響いている。
細やかな金属音はシャワーから出る湯と連動しているように感じる。
この音は、もしかしたら、と当たりを着ける。
リリリリリ…と私の右耳に意識を集中させる。
その音は、絶え間なく、浴室に響く。
シャワーの栓を小気味好い音でキュッと締めて止めた。
リリリリリ…と鳴っていた音が、ゴボゴボと代わり、音が止まった。
あの細やかな金属音の正体は、シャワーからの湯を通った時の排水管の音だった。
とても小さな音だった。
普段はぐたんぐたんと妄想しているのだが、そのぐたんとぐたんの隙間があったのだろう。
以前からきっと鳴っていたに違いない、私が気付いていなかっただけ。
浴室で座り込んで、じっとシャワーを浴びた。
リリリリリ…鳴った細やかな金属音と、シャワーヘッドからの音と、私の吐く息の音は、皆仲良く排水溝の奥へと消えていった。
さっぱりした心地良さに私はとても満足した。
今日は静かな夜だったから、私の右耳は捉えたのだろう。
リリリリリ…と反響する小さな音の粒に気付けた。
今日は静かな夜だったから、私の右耳は聞いたのだろう。
口を閉ざしてじっとするのも良いものだ。