エピローグ、物語の終わり。
(タイトルなぞるだけ、簡単なお仕事だ。)
8、とある部屋の片隅。
照明、舞台中央に白のスポットライト。
大道具、舞台中央天上から荒縄の首吊り輪を降ろす。
文月、上手から椅子を持って舞台中央のスポットライトへ。
文月、椅子を置き、椅子の上に立ち、首吊り輪に手をかける。
音響、インターフォン、扉を開ける音。
小夜、雨羅(トランクを持っている)、下手から文月の足下へ。
雨羅、トランクを雑に置く。
小夜「ご機嫌よう?元気そうで何よりだわ」
雨羅「片付いてるな、小夜も見習えよ?」
小夜「何を?私の部屋はあれで完成しているのよ」
雨羅「片付けられない奴の言い訳にしか聞こえねーぞ」
小夜「違うわ!全然違う!あの配置にどれだけの心血を注いでいるのかっ!」
雨羅「もっと別のことに心血を注ぐべきじゃね?例えば、足下のゴミとか」
小夜「それはあれよ、心優しいメイドさんがいつも綺麗にしてくれるから」
雨羅「もしもーし?その心優しいメイドってあたしのこと?」
小夜「いつもありがとう」
雨羅「はいはい、せめてポテチの袋ぐらいはゴミ袋に入れてくれよ?」
小夜「善処(ぜんしょ)します……あ、あなたの依頼、半分は達成したわ」
雨羅「中々のイカレた野郎だったな」
小夜「そうね。骨は折れたわ。まあ、でも、報償を貰えたしね」
雨羅「フッフフ……ネコババじゃねーの?」
小夜「違うわよ?九十九一のゲームに勝った、正当な報酬よ!後で分けましょ?」
雨羅「小夜、愛してる」
小夜「ありがと。あー、それで、伝言があるのだけど?ちょっと、聞いてる?」
文月「……伝言?」
小夜「そう。皐月から」
文月「!な、何て……あ、いや、やっぱり、良い……」
小夜「あら、そういう訳にもいかないわ?伝言を伝えるって約束だし?」
文月「私に、聞く、権利なんか……」
小夜「「ごめんなさい」だって」
雨羅「問答無用に聞かせる、良いね」
小夜「「でもだって」のやりとりって無駄じゃない?」
文月「そんな、何で、そんな……私が、私が悪いのに……」
小夜「さて、文月さん、本題はここからよ」
雨羅「問答無用に先に進める。痺れる(しびれる)ね」
文月「……本題?」
小夜「そう、あなたが希ったことよ」
雨羅「そう、あんたが切願ったことだ」
文月「それなら、終わったって、言って……」
小夜「まだよ、文月。まだ終わっていないわ」
雨羅「あんたの願いは「九十九一を殺して、終わりにして欲しい」」
小夜「九十九一は死んだわ。でも、まだ終わりじゃない」
雨羅「九十九一が死んだら清算?そんな簡単な話じゃないだろ?」
小夜「タミコはまだ館で彷徨いて(うろついて)いるわ」
雨羅「サツキも館に囚われているな」
小夜「九十九一は分家だったそうじゃない?本家は野放し?」
雨羅「九十九一に殺された女は他にもいるだろう?知らん顔するつもり?」
小夜「そして何より、あなたが救われていない」
文月「……救われる?私が、救われる?フフ、フフフフ、おかしい。私は救われてはいけないのよ」
小夜「あら、ならどうして首を吊ろうとするのかしら?」
雨羅「苦しいからじゃない?救われたいからじゃない?」
小夜「別にあなたが首を吊っても構わない」
雨羅「別にあんたが首を折っても構わない」
小夜「ああ、でも、私は聞いてしまった、あなたの希いを」
雨羅「ああ、でも、あたしは聞いてしまった、あんたの切願いを」
小夜「九十九一を殺して」
雨羅「終わりにして欲しい」
小夜「聞いてしまったからには、責を負わなくちゃ」
雨羅「しっかと聞いてしまった、責を負わなきゃ」
小夜「あなたの好きにすれば良いけど」
雨羅「あんたの好きにすれば良いけど」
小夜「私はもう一度だけ聞くわ、あなたの希いを」
雨羅「あたしはもう一度だけ聞こうか、あんたの切願いを」
小夜「ねえ、文月?」
雨羅「なあ、文月?」
小夜、雨羅「どうしたい?」
文月、考え込む。
文月「……伝言」
小夜「ん?」
文月「皐月からの伝言は、それだけ?」
小夜「ウッフフフ!いいえ、まだあるわよ」
文月「……何て?」
小夜「知りたい?なら、下りなきゃね?」
雨羅「問答無用で首吊りを止めさせる。ある意味で鬼だな」
小夜「がおー」
雨羅「可愛いが過ぎる」
小夜「ちょっと、止めてよね!」
雨羅「ッヒヒヒ!……で、どうするよ、文月?」
文月、そっと椅子から下りる。
文月「……死ぬのは、聞いてからにするわ」
小夜「フフーン!じゃあ、しばらくは私の元で働いてもらうわ」
雨羅「働かせる?殺しをさせんの?」
小夜「違うわ。私、気付いたの」
雨羅「何に?」
小夜「殺しだけじゃあ、生活しづらい!」
雨羅「まあな……それで?」
小夜「カフェを開きます!」
雨羅「カフェ?オシャレな?」
小夜「そう!オシャレなカフェ!
雨羅「カフェの経営者になるのか?」
小夜「そうよ!オシャレなカフェだから、それはもう、清掃の徹底を従業員に課すわ!」
雨羅「ゴキブリは出ない?」
小夜「当然!そんな綺麗でオシャレなカフェには、優秀な人材が必要!」
雨羅「あー、それで文月?」
小夜「私たちの本業も知っているから、勝手が良いじゃない?」
雨羅「そうだな、色々と辻褄合わせをするには都合が良いな」
小夜「あと、ただ働きしてくれそうだし」
雨羅「ブラック企業の経営者か」
小夜「お客さまの「ありがとう」があれば良いのよ」
雨羅「ブラック企業の経営者か、先行きが心配だな……」
小夜「私に任せなさいっ!……それで、どう?文月?」
文月「……よろしく、お願いします」
小夜「決まりね!じゃあ、まずは物件探しから!」
雨羅「何処か良い所あるかね?」
文月「……あの」
小夜「ん?」
文月「1件、心当たりが……」
雨羅「おい、早速、仕事してんぞ」
小夜「頼もしい!なら、まずはそこを見ましょ!」
小夜、楽しげに下手へ。
雨羅、肩をすくめて下手へ。
照明、上手側に白いスポットライト。
文月、上手側に振り向く。
照明、上手側の白いスポットライトを消す。
小夜「文月?」
文月「はい」
文月、下手へハケる。
照明、舞台中央を白いスポット照明、ゆっくりと。
椅子が照らし出される。
音響、悲しげなオルゴール。
照明、ゆっくりと暗転。
了。