カラスの群れが一斉に鳴き、西の山へ飛び立つ。
田に植えられた稲の穂先が仄かに黄色く色付くが、広葉樹の葉は緑の影色濃く、未だ夏だと感じさせる。
額の上をじっとりと流れる汗を右手の親指で拭う。
刻一刻と夕闇へと変わり行く駅のホームで、アイスを頬張る。
女子高生の戯れの声がフェンス越しから聞こえてくる。
野獣派の絵画のような重さのある雲が山の上に浮いている。
明日も仕事だ、朝から仕事だ。
耳の鼓膜付近に置かれた言霊は、しかし私の心臓の音でかき消される。
痛飲するぞ、と別の言霊は、私の血管を駆け巡り、心臓の音と共に肺を響かせる。
大きな声では言えないが、誰かに会うのは楽しみだ。
大きな声で言えないが、大きな声で言いたくなる。
世間体、しかし産まれた言霊は、私の心臓の音にかき消される。
アナウンスが流れる。
ようようと電車が減速しながらホームに滑り込む。
額の上をまたじっとりと流れる汗を右手の親指で拭う。
明日のことは今は知らない、そう呟いて、夕闇から離れる。