ネガティブ方向にポジティブ!

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【ストーリーテラー・ストーリー】~とあるボロアパート~

1時間程度の脚本。

人数は4~6人。

柱毎に区切る、その1。

 

 

【ストーリーテラー・ストーリー】

 


・登場人物

 


・松本 深志(まつもと ふかし)

 売れない小説家「嘘鳥(おそとり)(ペンネーム)」

 


・メトバ姫(めとばひめ)

 松本の小説「メトバ姫とサヤエンドウ」に登場する姫様

 


・縣 顕太郎(あがた けんたろう)

 「嘘鳥」の担当編集者

 


・暮土(くれつち)

 殺人代行業者

 


・カエル王子(かえるおうじ)

 カエルの王子、縣顕太郎にそっくり

 


・アナウンサー

 テレビのアナウンサー、メトバ姫にそっくり

 


1、とあるボロアパート。

 


 ピンポーン、インター音が鳴り響く。

 松本深志(以下、深志)、机に向かって唸っている。

 ピンポーン、ピンポーン、とインター音が鳴る。

 


深志  書かなければ……書かなければ……

 


 ドンドンドン、扉を激しく叩く。

 深志、ビクッとする。

 


縣顕太郎(以下、顕太郎)  先生?ご在宅でしょうか?嘘鳥先生?

 


 ピンポーン、ピンポーン、ドンドンドン

 深志、頭を抱える。

 カチ、と鍵が開き、ギイーと玄関の扉が開く。

 顕太郎、暮土、部屋に入ってくる。

 


顕太郎  あ、やっぱ居留守使ってましたか……おはようございます、 嘘鳥先生

 


深志  か、勝手に入ってぇ、来るな!

 


顕太郎  いや、先生が部屋に通してくれないからじゃないですか?

 


深志  ぷ、プライバシーの侵害だ!い、今直ぐに、でで出てってくれ!

 


顕太郎  そういう訳にもいきませんよ……全く……原稿、書けましたか?

 


 深志、狼狽える。

 


顕太郎  原稿は書けましたか?

 


深志  い、今、構想を練っているところだ……

 


顕太郎  なるほど?その構想はどの程度までできましたか?

 


深志  お、お前に言っても、分からないだろうが、 物語というのは一朝一夕で書けるものではないのだ。そ、 それはそれは、膨大な資料を読み、閃き、広大な世界を構築し、 その世界で生きた人間を想像し、無限のその生を歩ませ、 一文字一文字を積み上げ、一行一行を連ねて、一章一章を束ねて、 果てのない旅路の先へ、未だ見ぬ道の先へ、 ひたすらに突き進んだ者だけが、物語を紡がれていくのだ!か、 簡単には書けないものなのだ!

 


顕太郎  そうですか。大変なのですね。 では私にも分かるように説明して頂きたいのですが。1つ、 膨大な資料を読む。2つ、閃く。3つ、広大な世界を構築する。 4つ、生きた人間を想像して、その生を歩かせる。5つ、 文字を書く。現時点で先生は、どこなのでしょうか?

 


深志  そ、そんな、単純な話ではない!一つ終わったら、さ、 作業のおしまいではない!こ、こ言葉を紡ぐ時、 再び資料に戻ることもあるし、書いている時にあ新しいひ、 閃きだってある。 ベルトコンベアーでやるような作業ではないのだ!は、 始まりと終わりを繰り返す多重螺旋の痕跡を辿り、 一筋の光に向かっていく!かん、簡単ではない、 簡単ではないのだ!

 


顕太郎  そうですか、そうですか。難しいのですね。では、 私のような凡夫にも分かるように、シンプルに教えて頂きたい。 ええ、イエスかノーの質問です。 先生が執筆してくださっている原稿は、書き終わりましたか?

 


深志  だ、だ、だから、構想を練って……

 


顕太郎  嘘鳥先生、イエスか、ノーで、お答えください。

 


深志  あ、あう、そ、その……の、の、の……ノーだ

 


顕太郎  そうですか。まあ、そうでしょうね。分かりました

 


深志  よし、か、帰ってくれ、か帰ってくれ

 


顕太郎  先生、最後通告です

 


深志  へ?

 


顕太郎  次、締め切りを1月先とします

 


深志  おお!

 


顕太郎  その締め切りまでに書き上げて下さい

 


深志  分かった、分かりました、よ、よし……!

 


顕太郎  もし。もし、1月後の締め切りまでに書けていなかったら……

 


深志  ……か、書けていなかったら……?

 


顕太郎  嘘鳥先生には死んでもらいます

 


深志  へ?

 


顕太郎  では、よろしくお願いします

 


深志  ま、待ってくれ!え?い今、死んでもらいます…… 死んでもらいますって言った?

 


顕太郎  はい、死んでもらいます、と言いました。

 


深志  いやいやいや、この国は法律国家だぞ?死んでもらいますって、 そういう物騒な言葉を使うべきではない。そ、そうだ! 私を手放したら、ほ、他の出版社に行ってしまうぞ!そ、その、 いや、1ヶ月後には書いているが!そういう、そういう可能性も、 僅かだが、ある!

 


顕太郎  嘘鳥先生、違います

 


深志  へ?

 


顕太郎  他の出版社に行けません

 


深志  いやいやいや、お、お前……御社のところで出せないとして!ほ、 他の出版社への制限は、ででできない…できにゃい!じ、 人権の侵害だ!

 


顕太郎  嘘鳥先生、申し訳ありません。言葉足らずでした

 


深志  こ、言葉足らず……?

 


顕太郎  次、締め切りを破ったら、死んでもらいます。物理的に

 


深志  ……ぶ、物理的に?

 


顕太郎  はい。先生の身体を物理的に破壊して、生命活動を終了させます

 


深志  ……しんたいをぶちゅりてきにはきゃい?せいめいか、 かつどうをしゅ、終了……?

 


顕太郎  はい

 


深志  いやいやいや!いやいやいや!ここは!法治国家だぞ!犯罪だ! 紛れも無い犯罪だぞ!

 


顕太郎  (溜息)先生のように、 締め切りを守らない人が多過ぎるんですよ。 こっちも生活がありますし、 印刷所や販売店にもご迷惑がかかっている状況です。決定は、 上の方々が。私が決めたことではありません

 


深志  だだだからって、こ、こ、ころ……そういうのは、 違うんじゃないかなー?

 


顕太郎  それなりに知名度があって、死んでも困らない人、 見せしめに丁度良い人材なのですよ、嘘鳥先生は

 


深志  いやいやいあ……お、おかしいって。その理屈は、 おかしいって絶対

 


顕太郎  こちら、殺人代行業者の暮土さんです

 


暮土  どうも

 


深志  さ、さ、さつ……そういう業者さんがあるのですね!

 


顕太郎  私も知りませんでしたが、長野県内で殺人代行している業者さん、 5件あるらしいですよ?

 


深志  五件も!?そんなに?!え、長野県内だけで??

 


暮土  東京とか、大阪だと、個人経営も含めれば300ほどありますよ?

 


深志  うっそー……大手とかもある感じなのー……?

 


顕太郎  現実は小説より奇なり、まあ、そういうことなので

 


深志  ああ、そういうこと……いやいやいや!そ、そういうことじゃ、 なくて!

 


顕太郎  書けないのですか?

 


深志  あう、そ、その、いや、それは、だから……

 


顕太郎  書けないのですか?

 


深志  構想はあるんだ……その、ちょっと閃きが、その、足りない、 というか……

 


顕太郎  書けないのですね?そうですか、今までお世話になりました

 


深志  書けるぅ!書けます!書かせて下さい!

 


顕太郎  (レコーダーを押す)はい、言質を取りました

 


深志  あ、ああ!

 


顕太郎  では、1ヶ月後にお会いできることを楽しみにしております

 


暮土  確認

 


顕太郎  はい?

 


暮土  1ヶ月後に、書けていなかったら、業務開始、で良いですか?

 


顕太郎  あ、はい。そのようにお願いします

 


暮土  こちらが判断しても?

 


顕太郎  構いません。まあ、原稿が埋まっていれば、それで良いです

 


暮土  分かりました

 


深志  分からない分からない分からない、やだ、死にたくない

 


顕太郎  では、頑張って書き上げて下さい。 それがあなたの生き残れる方法です。では、失礼します

 


 顕太郎、さっさと帰る。

 


深志  ……あのー?

 


暮土  はい?

 


深志  これ、壮大なドッキリ、ですかね?いや、よぉく考えたら、さ、 さ、さつ……そういう、代行なんて、ね?映画の見過ぎですよね? はは!

 


暮土  あ、前の作業の様子、動画で撮ったのがあるのですけど、見ます?

 


深志  はあ?!

 


暮土  前の依頼主さんは、もう解体済みなので

 


深志  かい、かい、かいたー!?

 


暮土  (端末を弄る)ほら、これがその時の……

 


深志  はい!分かりました!ありがとうございます!よく分かりました!

 


暮土  ……見ていないじゃないですか

 


深志  もう、もう、良いです……

 


暮土  そうですか。じゃあ、自分、こっちの角っこに居ますんで

 


 暮土、部屋の隅に行き、座る。

 


深志  何を考えているんだ……うう……そうだ、書かなくちゃ、物語を、 物語を、書かなくちゃ……そうだ、そうだ! 書きさえすれば大丈夫だ!書きさえすれば、何も問題なーい! 書くぞぉー!

 


 深志、手を突き上げる。