ネガティブ方向にポジティブ!

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【ストーリーテラー・ストーリー】~山奥~

その4。

個人的に好きなシーンというか、気持ちが入ってるところ。

 

 

4、山奥。

 


 暮土、ビニールシートに乗せて深志を運ぶ。

 暮土、運ぶのを止め、スコップを持つ。

 


暮土  これより穴埋め作業に入る

 


 暮土、スコップで穴を掘り始める。

 


深志  ……なければ……書かなければ……書かなければぁ!( ガバっと起き上がる)

 


暮土  あ

 


深志  はあ、はあ、はあ……生き、てる?息、息してる?はあ、はあ、 はあ……よし!

 


暮土  あー、穴埋め作業中断。これより通常業務を再開する

 


深志  あ。待って待って待って!1000万!

 


 暮土、ピタッと動きを止める。

 


深志  1000万円!日本円で1000万円を支払うから!見逃して!

 


暮土  ……1000万円、貯金があるのですか?

 


深志  貯金は……ない!ないが!この物語が完成すれば! 印税が入るから!そうすれば、払える!はず!

 


暮土  ……原稿用紙、埋まってなかったじゃないですか?

 


深志  これから!埋める!埋めるから!だから!見逃してくれ!

 


 暮土、ゆっくりと深志に近付く。

 


深志  ああ!埋めないで!埋めるから!埋めないで!

 


暮土  ……良いですよ

 


深志  へ?

 


暮土  見逃します

 


深志  おお?え、本当?え、見逃してくれる?

 


暮土  自分が言えた口じゃあないですけど、 締め切りを破ったから殺してしまおうって発想する会社、 まともじゃないですよ。

 


深志  おお……そう、だね?

 


暮土  それで、運が良いことに、生き返ったじゃないですか。 自分ももう一回殺すの、正直しんどいし、 殺した後に生き返った場合はこっちは責任を負わないって誓約書に も書いているので、反省文を書いて終わりです。 料金の支払いも確認済みなので、 自分は深志さんを見逃すのは吝かではないです

 


深志  そ、そうか!

 


暮土  お金も、まあ、交通費ぐらい出してくれたら有り難いって感じです

 


深志  いやいやいや!何か奢るよ!肉か!肉食べる?肉食べよう!

 


暮土  ……良いっスね。肉、食べましょう

 


深志  よし!これで、書けるぞ……帰りに原稿用紙を買い足しておくか… …

 


暮土  ……素朴な疑問なんですけど

 


深志  ん?

 


暮土  書かない、って選択肢はないんですか?

 


深志  書かない?

 


暮土  そう、だって、一度、殺されたんですよ?締め切り破って

 


深志  ふおおお……そう、だね、うん……

 


暮土  一度、死んで、怖い思いして、運良く生き返ったのに、 どうしてまだ書こうとするんですか?

 


深志  あー……暮土くん。暮土くんは朝ご飯は食べる派?

 


暮土  そうですね。食べます。

 


深志  どうして?

 


暮土  どうしてって……朝ごはんを食べた方が健康に良いから?

 


深志  じゃあさ、寝る時は何時間くらい寝る?

 


暮土  そうですね……大体、7時間くらい?

 


深志  どうして?

 


暮土  いつも大体、それくらいで起きるから?

 


深志  じゃあさ、じゃあさ……何年くらい生きたい?

 


暮土  あー、なるべく長生きしたいですかね?

 


深志  どうして?

 


暮土  どうしてって……別に大した理由はないです。 生きなければならないじゃないですか?

 


深志  それ!

 


暮土  ?

 


深志  「どうして書くのか?」、「書かないという選択肢はないのか?」 の答えは、「別に大した理由はないが、 生きなければならないからだ」

 


暮土  ?え、でも、それは、書かなくても成立するじゃないですか?

 


深志  そうだね、書かなくても成立する。でも、 書かなければならないんだ。俺の場合は

 


暮土  ……どうして?

 


深志  別に大した理由はないが、それでも書かなければならないからだ

 


暮土  ……んー、理由が無いのが理由?

 


深志  理由だとか、大義だとか、そんなのは知らん。紙がある、 ペンがある、だから書く。物語を、俺の物語を書く、それだけだ

 


暮土  ……深志さんもまともじゃないですね……

 


深志  まあ、まともだったら、もっとマシな仕事をしていただろうし。 公務員とか?

 


暮土  あー、他に生きる手段が無いってのは、分かります

 


深志  まあ、だから、だ。俺は物語を書く。 それ以上もそれ以下の意味も無い

 


暮土  それは良いんですけど、どこで発表するのですか?

 


深志  大丈夫、大体、締め切りってのは本当の締め切りじゃない。 デッドラインはもっと後ろだったりする

 


暮土  はい

 


深志  生き返って脳のシナプス信号が良い感じだ。今なら書ける! 2週間、いや1週間で書き上げる!それを持ち込んで、 載せてもらう!

 


暮土  え、乗り込むんですか?

 


深志  同じところじゃないと、物語の整合性が変わってしまうからな

 


暮土  そういうものですか?

 


深志  そういうものだ

 


暮土  ふーん……何か手伝います?

 


深志  !手伝ってくれるか!

 


暮土  まあ、1ヶ月共に過ごした仲ですし?

 


深志  ありがとう!助かる!主に炊事をしてくれるとすっごい嬉しい!

 


暮土  苦手な物とかあります?

 


深志  トマトが苦手だ!

 


暮土  トマトですね、分かりました。やりますよ

 


深志  ありがとう!よし!書くぞぉ!(手を突き上げる)

 


暮土  その前に、肉、行きましょ

 


深志  そうだな!行こう行こう!

 


 深志、暮土の肩を抱く。