夢を見た。
亡き祖母が私の夢枕に立った、のだろうか。
炬燵のある4畳一間の部屋に私が居て、襖をそっと開ける。
襖の向こう側は歌舞伎の檜舞台のような景色が広がっていて、舞台端に役者が居る。
私が一度襖を閉めて、またそっと開けると目と鼻の先に先程の役者が居る。
私が驚いて襖を閉めて、炬燵に潜ると、先程の役者がどこからともなく入ってくる。
その役者が祖母だと私が認識して、私は祖母を抱き締める。
私の夢は映像先行で音声はない場合もあるのだが、その時に私は祖母の耳元で呟く。
「もっと生きていて欲しかった……ごめん」
そうした私に祖母は「僕はもう……」と言った。
ざらついた、ひび割れた、低い声音であった。
そうして、目が覚めたのが深夜2時だった。
起きてしばらく、呆然と座り込む。
あれは祖母だったのだろうか?
一人称が「僕」であったし、声音が幼さがある上に低かった。
顔もモザイクがかっていたように感じるし、確証はない。
しかし、もしかしたら、夢枕に立ってくれたのではないか、と仄か期待が膨らむ。
私がしっかりしていなければ夢枕に立つ、そう祖母が言っていた。
未だに自分一人どうにもできていない私を叱りに来たのだと、そう思いたかった。
青い部屋で部屋を見渡す。
雑多に散らかった部屋で、私は座り込んでいる。
あれが祖母だとして、私は祖母に何と言ったか?
汚らしい願望を祖母に伝えた。
夢枕に立った相手への言葉が我侭だ。
ひどく情けなく、それでも言わずにはいられない本心だ。
青い部屋の真ん中で、私は泣きそうになる。
漏れ出る言葉は「ばあちゃん、ごめん」は青い部屋に響かない。
何に対する謝罪なのか、感情が迷子になりながら、うずくまる。
悲しいが私の腹の底から出てきては「ばあちゃん、ごめん」と漏れ出る。
どうして私はこうなのだろうか?
12年経って、この体たらく、どうして私はこうなのか?
時間にして数分、悲しいの波が落ち着いて、私は大きく深呼吸する。
もう一度、雑多な部屋を見渡す。
性根を変えられない私だが、背伸びする努力はしよう、と考える。
青い部屋の真ん中で、私は祖母の夢を見た。
あれは祖母であったと、そうじゃなかったとしてもそういうことにしておく。
私の根源にあって、人間で在る私を呼び起こす、あの悲しいがそうさせる。
本物の祖母は、どちらにしても、12年も前に居ないのだ。
居ないのだ、私の生きるこの世界には、居ないのだ。
ばあちゃん、ごめん。
やっぱり、もっと生きていて欲しかった。
4月某日、庭に梅が咲く、青い部屋にて。