山に薄い赤系統のフィルターを切り貼りしたような早朝に、月が出ていた。
夜の領域が太陽の絶大な力で徐々に消えていく最中、丸い月はとぼけ顔で居残っている。
朝に見る月と言うのは、私は場違いな気がして、ちぐはぐした風景に見える。
この目で見た月は、確かな存在を私に知らしめてくる。
さっと現代機器を片手にパシャリと、居残る月を撮る。
そうすると、あれだけ存在感のあった月は米粒ほどの大きさになって、影が薄くなる。
月が綺麗な空の日は、私を圧倒する月の魔力を幾度か写し撮ろうと試みてきた。
しかし、現代機器のレンズを通る際に圧縮されるのか、こじんまりとした月しか写っていない。
月の魔力は1億テラバイトくらいはあるだろうに、アルバムに残る月は1バイトもない。
確からしいことを追い求めているのに、気付けばあやふやになる。
月の魔力は確かにあるのに、どうやっても私はそれを形に残せない。
現代機器と私の、共通項だ。
太陽の絶大な力に月も薄く見えにくくなる。
朝の領域が私を追い越して、遍く光を大地にもたらす。
現代機器をすっとポケットに仕舞って、次の夜に備えて、歩き出す。