詩を書きます。
『小雨』
小雨が降る。
雨粒が川に降り注ぐ。
降り注いだ雨粒が水泡になる。
水泡が苔の蒸した石に張り付く。
苔の蒸した石に張り付いた水泡が鱗になる。
薄い銀色の光を携えながら苔の蒸した石は一匹の魚になる。
一匹の魚は川を下る。
冷たい川の流れに任せて。
一匹の魚は海へ出る。
一匹の魚は遠くを目指した。
石であった頃、変わらない景色から。
石であった頃、空想した景色へ。
一匹の魚は遠く遠くを目指した。
嵐にあった。
鯨に会った。
虹を見た。
船を見た。
木が流れていた。
プラスチックが流れていた。
一匹の魚は遠くへ来た。
美しかった鱗は剥がれ落ち、水泡になった。
一匹の魚は苔の蒸した石になった。
深い深い海の底へゆっくりと落ちる。
やがて、底らしい場所に着いた。
苔の蒸した石は暗い海の底にいた。
苔の蒸した石はぶくぶくと泡立った。
泡立った苔の蒸した石は、天へと上った。
幾数年の月日が流れ。
苔の蒸した石は小雨となった。
苔の蒸した石のいた懐かしい川へ。
そうして、小雨がまた降る。