ネガティブ方向にポジティブ!

このブログは詰まらないことを延々と書いているブログです。

【あなたが眠るまで。】終わり

7.そして、日は昇りゆく

 

目を覚ましたら、僕は暗い場所にいた。 

どうやら寝てしまっていたらしい。

上体を起こし、軽く目を揉んだ。

そして、身体を伸ばして、考えた。

はて、何時僕は寝たのだろう?

僕は高木神社で早弁をしている。

昼食の時間は購買で焼きそばパンかカツサンドを買って友人たちと取り留めのない会話に入るために毎朝ここで食べている。

今日も朝からここで弁当を広げて…そこから今までの記憶がない。

横に弁当箱が置かれている。

未だ食べかけだ。

食べかけと言うことは…食事中に寝てしまった?

そんなことがあるだろうか?

しかし現に弁当箱の半分ほどない。

からあげも2つになっている。

そう言えば、僕はからあげを食べただろうか?

眠る前のことが思い出せない。

余程疲れていたのか?

いや、昨日は夜更かしをしていないし、体育で運動をしていない。

勉強もそこそこだ。

疲れるようなことはないもしていない。

首を傾げていると後ろでカサッと何かが落ちる音がした。

僕は音のした方へ目を向けようとした。

うにゃあ

と、猫の鳴き声がした。

良く知っている猫の鳴き声だ。

腰元へ目をやると何時の間にやら黒い光沢の美しい猫が居た。

この黒猫は僕が毎朝ここで食べていると僕の前でよく毛繕いをしている。

偶に弁当の中身を上げることもある。

首輪をしていないから野良かもしれないが、毛並みの美しさを鑑みるに飼い猫かもしれない。

それでもよく見かけるこの黒猫を僕は勝手にクロと名付けて呼んでいる。

「クロ、おはよう」

うにゃあ

クロが返事をした。

話しかけるときちんと返事をする。

猫にしては大変生真面目な性格をしている。

クロは僕の手の甲に自身の頭を擦り付けてくる。

僕はそっとクロの頭を撫でた。

つやつやの毛並みを僕は堪能した。

そう言えば、今日はめざしが入っていた。

弁当を中身を改めて見るとやはり丸々一匹めざしが入っている。

僕にとってのメインはからあげだ。

めざしはそれはそれでとても美味しいけど、特にこれといった思い入れはない。

僕はめざしを一匹行儀悪く手で摘むと、クロの足下に置いた。

「クロ、お裾分け」

うにゃあ

クロははぐはぐと食べ始めた。

その様子を眺めていて、遠くで予鈴の音が聞こえてハッとした。

しまった、のんびりし過ぎた。

今からだと…一限目にはまだ間に合う!

僕は急いで弁当箱を仕舞い、変に行儀良く置かれた鞄を見付け、その鞄の中へ入れた。

そのまま走って自転車に跨がり、挽回しようとペダルに足をかけた。

うにゃあ

クロが遠くで鳴いている。

僕はクロに手を挙げた。

「クロ、またな!」

うにゃあ

僕はクロの返事を聞くとペダルを力強く踏み、学校へと向かった。

 

黒猫は青年を見送った。

十字路を曲がった所までじっと。

見えなくなってから、黒猫は歩き出した。

青年が振り向こうとした音の先へ。

そこには握り潰された、煙草の箱が落ちていた。

その煙草の箱には血のような焦げ跡が点々ある。

黒猫は、その煙草の箱をくわえると再び青年が消えた方向を見た。

雲がゆっくりと過ぎ去っていく。

黒猫はスッと立ち上がると、境内の外へと歩き出した。

そうして、住宅の垣根へとするりと入っていった。

境内にはもう、誰もいない。

 

がやあー、がやあー

 

何処か遠くで、何かが鳴く声だけを残して。

 

《了》

 

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