今しがた、すれ違ったのは、私の知っている人だったろうか?
軽く会釈をして、返してくれたから、多分、私の知っている人だろう。
それとも、私が会釈をしたから、知らない人だけど、返してくれたのだろうか?
後ろを振り向けば、ブロック塀の影に隠れた、後ろ姿が見える。
大きな声で、呼べば、振り向いてくれるだろうか?
それとも、私が呼んだと気付かずに、ブロック塀のあの角まで歩くだろうか?
果たして、私がすれ違ったあの人は、私の知っている人だったろうか?
じんじんと熱せられる、田んぼのあぜ道から、カエルが飛び出してきた。
そのカエルは去年見たカエルとは違う、私は何故、言い切れるのだろうか?
皺を数えられるほどにじっと見ていない。
手の大きさを計れるほどにじっと見ていない。
ただ、顔を上げて、4歩、振り向いて、5歩、その間しか見ていない。
すれ違ったのは、私の知っている人だったろうか?
軽く会釈をして、返してくれたから、多分、私の知っている人だろう。
それを確かめる術は、あのブロック塀の曲がり角に、置いてきた。
あいまいなままに、記憶をなぞる、8月半ばかな。