プログレッシブな印象劇。
A…登場人物1
B…登場人物2
C…登場人物3
1、駅(朝)
C、下手から舞台中央へ。
C「(一礼)これより、「短辺ABと長辺Cからなる三角形の風景」を開演いたします。お手持ちの携帯電話の電源をお切りになっているか、今一度ご確認のほどよろしくお願いします」
C「この物語は月並みで在り来たりな、山もオチもない、チラシの裏に書かれるような、そんな物語です」
C「しかしこの物語は、私の物語であり、あなたの物語でもあります」
C「日常の断片、普通の延長線上、私たちの世界のどこかで紡がれた、物語です」
C「20分の小旅行、どうぞ寛いでご覧になってください(一礼)」
C、翻って(ひるがえって)、下手側に立ち、帽子を被る。
チャイムの音。
B、上手から舞台中央へ。
C「間もなく、3番線ホームに、10時05分発、上り快速電車が入ります。黄色い線の内側までお下がりください。間もなく、3番線ホームに、10時05分発、上り快速電車が入ります。黄色い線の内側までお下がりください。」
電車が近付いてくる音。
A、下手から出る。
Cに切符を手渡し、Bの所へ。
A「よっ」
B「よう」
A「どうよ」
B「まあ。どうよ?」
A「まあ」
B「で?」
A「ん?」
B「どこ?」
A「あー……」
B「え?」
A「んー……」
A「あっち!」(指差す)
B「あっち?」
A「そ」
B「……はぁ」
B「あっちか……」(嫌そう)
A「おー!」
B「え?」
A「おー!!」
B「……おー」
A「うんうん」
A「では!」
B「あー、はい」
A「いきましょ!」
B「いきましょ」
B、A、ハケる。(可能なら客席をぐるっと回る)
2、ショッピングモール(午前)
C、下手からエプロンを出し(帽子は脱ぐ)、舞台中央へ行き、エプロンを着ける。
C「いらっしゃいませ!本日、ショッピングモールPASTEL(ぱすてる)開業3周年を記念致しまして、お買い求め頂いたすべての商品が、何と!3割引となります!」
C「あの欲しかったウェアーも、ブーツも、小物もすべて!3割引とさせて頂きます」
C「この機会に是非、お買い求めください!あ、いらっしゃいませ!」
C、上手側に立つ。
A、Bに舞台上へ。
A「おお」
B「おお……」
A「あっ」
B「あ?」
A「おおっ!」
B「……ええー」
A「なに?」
B「いえ」
A「なぁに?」
B「いいえ」
A「お?」
B「うん?」
A「あれ!」
B「……どれ?」
A「あれ!」
B「あー、あれ?」
A「そ」
B「ふーん……」
B「あ」
A「ん?」
B「うーん…………」
A「あーー!」
B「なに?!」
A「これっ!これっ!!」
B「…………あー」
A「んー……どっち?」
B「あー……そっち?」
A「こっち?」
B「ああ」
A「どうよ!」
B「あー、はい」
A「んー?」
B「あー………かわいいよ」
A「ふふーん!」
A「つぎいこ!」
B「つぎね」
A、B、下手、舞台奥、上手、上手手前と歩く。
C、下手にA、Bが移動し始めたら、上手から2脚椅子を持ち、舞台中央(下手寄り)へ。
3、食事処(昼過ぎ)
C「いらっしゃいませ。何名様でしょうか?(A、指を2本立てる)2名様ですね。お好きな席にお座りください」
A、B、椅子に座る。
C、再び上手へ行き、お盆にコップ2つとメニュー表を持って出てくる。
C「失礼します。本日のオススメは(メニューを開いて)こちらの春の山菜尽くし御膳(ごぜん)となっております。本日の御膳物の小鉢は……こちらのカボチャの煮付けです。お冷やはそちらの備え付けのサーバーをご利用ください。メニューが決まりましたら、ボタンを押してお呼びください」(去り際、一礼する)
A「はー……」
B「あー……」
A「ん」
B「どうも」
A「はー……」
B「はー……」
A「ん」
B「ん」
A「んー……」
B「あー……」
A「どう?」
B「んんー……」
A「よし!」
B「ん?」
A「これとこれ!」
B「ほう?」
A「どう?」
B「んんー……」
A「どう?どう?」
B「……これと……」
A「うん」
B「……これ」
A「よしよし。そりゃ!」
ピンポーン、と音。
照明、暗めの青で全体を照らす。
A、B、ハケる。
C、舞台中央へ。
4、幕間。
C「さてさて、特に大きな盛り上がりもなく、ただただ日常の、普通の、世界のどこかの話が続いております」
C「ここで私が言葉を紡ぐとしましょう」
C「例えば。3月末。君の真珠の心が触れた希望、今までなかった上昇気流から再び実感、6mの大波もう止まらない、筆先に伝える夢の挑戦の延長へ」
C「例えば。「評価したい」、ポピュリズム大衆迎合の病気、だまされないで専門家が未成熟、大人になるあなたの役割、病と次代により良い20年」
C「例えば。なぜ今?乱暴すぎるプライド、350ミリリットルのなみだ、作りませんでした。これから私達は考え続ける」
C「例えば。ありがたい、、身元分からぬまま受け入れ、かけがえのない日常を守る。早ければお待ちしております、自分だけは」
C「今、私の放った言葉に意味があるのか?いいえ、まったく意味などありません。何か意味があると考えてしまうのが、私たちです。何か意味があると信じたくなるのが、私たちです」
C「しかし、意味のない言葉の中に、微かに(かすかに)、意味が生まれる時があります。それはどういう時か。それは、誰かの心に響いた時です」
C「私の戯れ言(ざれごと)はこの辺にしておきましょう。本編(ほんぺん)の続きです。そう、日常の断片、普通の延長線上、私たちの世界のどこかで紡がれた、物語の続きです」
C、ハケる。
5、公演(夕方)
照明、ゆっくりと赤くなる。
A、B、入り、舞台中央へ。
A「あはは」
B、黙っている。
A、黙る。
A「……ありがと」
B「……おう」
A「……ごめんね?」
B「……いや」
A「……また、ね?」
B「……おう」
A「……それじゃあ」
B「…………あー……」
A「……ん?」
B「ん」(小さい箱をポケットから出す)
A「うん?」(小さい箱を受け取って、開ける)
B「ん……」
A「……え」
B「ん」
A「………どう?」
B「…あー、はい」
A、黙って見つめる。
B「あー…………似合っているよ、誰よりも」
A「ふーん……」
B「何?」
A「べつに?」
B「何?」
A「べっつにー?」
A、B、顔を見合わせ、笑い合う。
A「…では」
B「あ、おう」
B「じゃあ」
A「じゃあ」
A、客席へ降りて行く。
A、客席最後方で立ち止まり、Bへ。
A「ねぇ!」
B「あ?!」
A「ありがとう!」
B「……おう!」
A、客席出入り口にハケる。
B、見送った後、上手にハケる。
C、Bと入れ替わりに舞台中央へ。
C「(一礼)月並みで在り来たりな、山もオチもない、チラシの裏に書かれるような、しかし、たった一つの物語が終わりました」
C「日常の断片、普通の延長線上、私たちの世界のどこかの物語は、私たちの物語です」
C「もし、微かに、ここにいる誰かの心が震えたのであれば、これ以上ない喜びです」
C「何故なら、それは月並みな私たちの物語でも、誰かの心を動かすことができる証明になるから」
C「何故なら、在り来たりな私たちの物語にも、言葉の意味があったということだから」」
C「これ以上の蛇足はこの辺にしておきましょう」
C「お帰りになられる方は、お忘れ物なきようご注意ください。また、もし宜しかったらお手持ちのアンケートに感想を書いて頂けると、劇団の励みとなります」
C「これにて、「短辺ABと長辺Cからなる三角形の風景」を閉演とさせて頂きます。本日はお越し頂き、ありがとうございました(一礼)」
C、颯爽(さっそう)と下手側にハケる。
了。