ネガティブ方向にポジティブ!

このブログは詰まらないことを延々と書いているブログです。

【それ、事件にしませんか?】〜公園にて〜

・登場人物

 

先生(せんせい)

 

助手(じょしゅ)

 

恨む女(うらむおんな)

 

暗い男(くらいおとこ)

 

 

1、公園

 

照明、舞台中央を照らす。

助手、舞台中央に目を隠して座っている。

 

助手  いーち、にーい、さーん、しーい、ごーお、ろーく、しーち、はーち、きゅーう、じゅー!もーいーかーい?

 

先生  ……まーだだよー

 

助手  ……いーち、にーい、さーん、しーい、ごーお、ろーく、しーち、はーち、きゅーう、じゅー!もーいーかーい?

 

先生  ……まーだだよー

 

助手  ええー?……いち、にい、さん、しい、ごお、ろく、しち、はち、きゅう、じゅー!もーいーかーい?

 

先生  ……もーいーよー

 

助手  よぉし!見つけちゃうぞ!

 

照明、舞台全体を明るくする。

助手、辺りを探し始める。

 

助手  どーこーだー?

 

先生、ひょっこり顔を出し、隠れる。

 

助手、うろうろする。

先生、助手の後ろ側へ移動する。

 

助手  どーこー?

 

先生、アンパンを取り出し、食べ始める。

 

助手  ……あ、先生、質問なんだけど。

 

先生  ……ん?何だ?

 

助手  はいっ!見付けたぁ!

 

先生  あっ!ズ、ズルいぞぉ!反則だぁ!

 

助手  ズルくない!先生の習性(しゅうせい)を利用した、これは知略戦略(ちりゃくせんりゃく)なのだ!先生の方がズルい!ボクのは?ねえ、ボクのは?

 

先生  これは、私のアンパンだ!君のはない!

 

助手  ええー!?ねえ!ボクの!ボクも食ーべーたーいーっ!

 

先生  このっ、まとわりつくなっ!

 

助手  ねえー!ねえー!ボクにも!ボクにも!

 

先生  ええい!うるさいっ!

 

助手  ねえー!ねえー!ねえー!!

 

先生  くっ、このっ……分かった!後で買ってやるから!

 

助手  やった!ありがと、先生♪

 

先生  はあ……手痛い出費だ……

 

助手  (時計を確認して)あ、先生、そろそろ時間だよ。

 

先生  む?そうか、なら、用意しろ。

 

助手  アイアイサー!

 

助手、舞台袖からカバンを持ち出し、先生に手渡す。

先生、カバンから占い師の衣装を出す。

助手、舞台袖から机、椅子2脚、水晶玉、「占い」の看板を出し、下手側寄り舞台中央に設置する。

 

先生  さて、誰が来るかな……

 

助手、手を差し出す。

 

先生  ……何だ、その手は?

 

助手  今日の「助手料」をください!

 

先生  ……今は手持ちがない。後だ。

 

助手  ……はーい。あ、アンパンも忘れないでね!

 

先生  分かっている!

 

先生、椅子に座り、待つ。

助手、邪魔にならない位置に座り、待つ。

音響、時報。

恨む女、上手から舞台中央へ、「占い」の看板をじっと見る。

助手、恨む女に近付く。

 

助手  こんにちは!

 

恨む女  ……んにちは……

 

助手  営業、してますよ?

 

恨む女  ……うですか……

 

助手  何かお困りですか?

 

恨む女  ……ぃえ……の……

 

助手  困って、いますよね?

 

恨む女  ……はい。

 

助手  だったら!相談してみてください!きっと、あなたの人生の助けになりますから!

 

助手、恨む女の背中を押して、椅子に座らせる。

 

先生  ようこそ。

 

恨む女  ……うも……

 

先生  それで、何にお困りなのですか?

 

恨む女  ……とを……ろしたい……すが……うすれば……

 

先生  ……あー、済みません。もう少し、大きい声で話して頂けませんか?

 

恨む女  ……人を殺したいのですが、どうすれば良いのか、分からないのです。

 

先生  ……ほう?詳しく聞いても?

 

恨む女  ……あれは、2週間前のことです。

 

助手  結構、最近なんだね。

 

恨む女  その日、私は朝からとても、浮き足立っていました。その、届いたので、とても嬉しくなって……

 

先生  届いた?何がですか?

 

恨む女  ……ーめん。

 

先生  済みません、もう一度。

 

恨む女  ……カップラーメンです。期間限定、「火山屋」さんとのコラボ商品です。

 

先生  ほう、カップラーメンですか。

 

恨む女  ラーメンは私の趣味で……カップラーメンは、お湯を注いで、3分待つだけで、誰でも簡単に作れる、素晴らしい食べ物で、それでいて、実は健康にも良くて、添加物に関しては厳格なルールがあって、一生涯食べ続けても問題ない量なんです、素晴らしいです、一生涯食べても大丈夫、素晴らしいです、調味料に含まれるグルタミン酸ナトリムの安全性は、大人から幼児にいたるまで、どなたでも安心して食べられるってWHOも認めていて、ビタミンB1やビタミンB2も栄養強化で入っていて、よく問題とされる塩分量は1日の摂取量でスープを捨てれば問題ないんです、でもラーメンの醍醐味ってやはりスープで、その味の奥行きの深さに感動します。

 

先生  な、なるほど?

 

恨む女  ……その日、私は朝からとても、浮き足立っていました。届いたので、とても嬉しくなって……「火山屋」さんはラーメン好きには人気のお店で、豚骨ベースのちぢれ太麺の味噌ラーメンが看板メニューで、味噌は信州味噌を使っていて、こってりしたスープが麺によく絡んで、すごく美味しいんですけど、上に乗っている山のような青ネギが目に鮮やかで、口の中を一陣の風が吹き抜けて、すごく美味しいんですけど、その「火山屋」さんが期間限定でコラボしたカップラーメンが発売されたんです、これは買わなければなりません。だってあの「火山屋」さんとコラボしたカップラーメン、期間限定、買わなければなりません、だって、期間限定ですから、買わなければなりません。それで注文して、1ケース、本当は3ケースくらい欲しかったですけど、他の人も買いたいでしょうから我慢します、本当は3ケースくらい欲しかったんですけど、我慢しました。

 

助手  これ、オタクが早口で喋る奴だ。

 

先生  こら!……んん、失礼、続けてください。

 

恨む女  その日、私は帰ったら、食べようとしたんです。朝からずっと、そのことばかり考えてしまって、仕事で3つ、ミスをしてしまいましたけど、ミスをするのはいつものことなので、それは良いです。怒られて毎回泣きたくなります、私だってミスしたくてミスをしている訳ではないのに、毎回呼び出されて、メモだっていつも見ているけど、ミスしちゃうんです。むしろ、3つしかミスしてないから良いです。ラーメンは偉大です。朝から幸せなことを考えていたから3つしかミスしなかったんです、ラーメンは偉大です。だから、浮き足立って、家に帰ったら……

 

先生  ……帰ったら?

 

恨む女  あの野郎!私の、私の、カップラーメンを!勝手に!食べて!

 

先生  失礼、その、あの野郎とは?

 

恨む女  友達です、クソを煮詰めたような顔をしたブタ野郎です。ああ、ブタさんに失礼ですね、ブタさんのクソを煮詰めたような奴です。フフッ、ブタさんのクソなんて光栄でしょうね、泣いて喜んで……喜ぶ?あの野郎、何、ニタニタ笑ってっ……確かに中で待っているように言ったのは私ですし、カギを予め渡したのも私です。それは私の善意です。慈悲です。優しさです。外で待たせるのは可哀想だと考えて、それでカギを渡したのに、それなのに、あの野郎、勝手に、私のカップラーメンをっ!ぶっ殺してやるっ!

 

先生  なるほど、それは、その、お気の毒に。

 

助手  はい!質問!その期間限定のカップラーメンは1ケース?でしたっけ?それを全部食べられたのですか?

 

恨む女  ……いえ、1つです。

 

助手  ええ?1つだけ?だったら、別に良いじゃないですか?

 

恨む女  ……は?

 

助手  まだたくさんあるんだから、1つくらいどうってことないですよ?ねえー、先生?

 

先生  バ、バカ!こっちに振るな!

 

助手  というか、殺したいって言ってましたけど、そんなカップラーメンぐらいでー、許してあげましょうよー?

 

恨む女  ……ラーメン、ぐらい、で?

 

先生  えっと、落ち着きましょ?

 

恨む女  ラーメン、ぐらい、でぇ?

 

助手  ちょ、こわいこわいこわい!

 

先生  助手!謝れ!早く!

 

助手  ご、ごめんなさい!勝手に食べるのは、良くない!クソ野郎だっ!ごめんなさい!

 

恨む女  ……ふー……次はないですよ?

 

助手  こっわー……

 

先生  いやー、本当に、ラーメンが好きなのですね。

 

恨む女  好き、ではないです。愛してます。

 

先生  ほ、ほう、愛していますか。

 

恨む女  はい、ラーメンは私の、人生です。

 

照明、全体をミラーボール照明、舞台中央をスポットライト。

恨む女、舞台中央のスポットライトの中へ。

 

恨む女  ……んこつ……うゆ……そ、しお……めん……

 

先生  はい?

 

恨む女  豚骨、醤油、味噌、塩、ラーメン。

 

先生  はあ……?

 

恨む女、じっと見る。

 

先生  えっと……?

 

恨む女  豚骨、醤油、味噌、塩、ラーメン。

 

先生  ……豚骨、醤油?

 

恨む女  味噌、塩、ラーメン。

 

助手  豚骨、醤油、味噌、塩、ラーメン?

 

恨む女  もう一度。

 

先生、助手  ……豚骨、醤油、味噌、塩、ラーメン。

 

恨む女  もう一回。

 

先生、助手  豚骨、醤油、味噌、塩、ラーメン。

 

恨む女  リピート。

 

先生、助手  豚骨、醤油、味噌、塩、ラーメン。

 

恨む女、ポーズ。

音響、リズミカルな音。

 

※歌1(恨む女、()内は先生、助手)

 

_____

 

豚骨、醤油、味噌、塩、ラーメン

 

(豚骨、醤油、味噌、塩、ラーメン)

 

豚骨、醤油、味噌、塩、ラーメン

 

(豚骨、醤油、味噌、塩、ラーメン)

 

いつからだったか、思い出せない

 

気付いたときには、あなたに夢中

 

今日も!私の!お腹を満たす

 

豚骨、醤油、味噌、塩、ラーメン

 

(豚骨、醤油、味噌、塩、ラーメン)

 

豚骨、醤油、味噌、塩、ラーメン

 

(豚骨、醤油、味噌、塩、ラーメン)

 

こってり豚骨、私を離さない

 

あっさり醤油、優しく包んで

 

味噌も!塩も!私を惑わす

 

豚骨、醤油、味噌、塩、ラーメン

 

(豚骨、醤油、味噌、塩、ラーメン)

 

豚骨、醤油、味噌、塩、ラーメン

 

(豚骨、醤油、味噌、塩、ラーメン)

 

カモン!

 

豚骨、醤油、味噌、塩、ラーメン

 

(豚骨、醤油、味噌、塩、ラーメン)

 

豚骨、醤油、味噌、塩、ラーメン

 

(豚骨、醤油、味噌、塩、ラーメン)

 

も一度!

 

豚骨、醤油、味噌、塩、ラーメン

 

(豚骨、醤油、味噌、塩、ラーメン)

 

豚骨、醤油、味噌、塩、ラーメン

 

(豚骨、醤油、味噌、塩、ラーメン)

 

I LOVE ラーメン

 

_____

 

照明、元の明るさに戻す。

恨む女、席に戻る。

 

助手  ……先生、質問なんだけど、何でこの人、急に歌ったの?

 

先生  知らん。俺に聞くな……いや、待て。そうだな、ラーメンの愛が溢れたのだろう、多分。

 

助手  ……そういうもの?

 

先生  そういうことにしておこう。下手に突くな。

 

助手  ラジャ!

 

恨む女  ……れで……ろしたいのですけど……うすれば……

 

先生  ……あー、殺す、というのは簡単ではないですよ?何せ、警察の捜査をかいくぐらなければなりませんからね?

 

恨む女  ……てます……いさつから逃げるのは……でも、私は、あの野郎を!許す訳にはっ!私の、ラーメンをぉ!あのクソがぁ!

 

助手  情緒が不安定過ぎる

 

恨む女  もう、捕まっても良いんです。あいつさえ殺せれば……

 

先生  ……ほう?捕まっても良い?

 

助手  ん?先生?

 

先生  ふ、ふふふ……そうですか、捕まっても良い、ですか。

 

恨む女  ?はい。

 

先生  それ、事件にしませんか?

 

恨む女  はい?

 

助手  ちょっと、先生、何を言っているの?

 

先生  実は、私、占い師は副業でして。本業は、別にあるんですよ。

 

助手  先生、ストップ。今は占いというか、人生相談が仕事だよ?

 

先生  シャラップッ!黙らっしゃいっ!

 

助手  あ、これ、スイッチ入っちゃった奴だ……

 

先生  占い師は世を忍ぶ仮の姿、私の正体、それは……名探偵だっ!

 

恨む女  はあ……?

 

先生  数々の難事件を解決することができる閃きと、危機的状況にも臆しない胆力、そして、卑劣な犯人を決して逃がさない熱い想いを有した名探偵、そう、それがこの私だ!

 

助手  さっき、普通にビビってなかった?

 

先生  しかーし!生まれた時代が悪かった!世の中は平穏そのもの!難事件が私のところに来る前に、大体警察が解決してしまっている!

 

助手  良いことだよ、うん

 

先生  私のところにくるのは、浮気調査とか、ペット捜索とか、そんなことをするために探偵になった訳じゃなーいっ!

 

助手  浮気調査も、ペット捜索も、どっちも大事な仕事だよ?

 

先生  あなた、殺せるなら、捕まっても良い、と言いましたね?

 

恨む女  ……はい。

 

先生  手伝いましょう。

 

恨む女  !ほ、本当ですか?!

 

先生  ええ、私があなたにトリックを授けます。

 

恨む女  トリック……推理小説によくある?

 

先生  その通り!そして、私がその事件を解決する!

 

助手  先生?

 

先生  殺人事件が来ないなら、殺人事件を起こせば良い!これぞ、コペルニクス的発想の転換!私があなたにトリックを教える。あなたはトリックを使ってブタのクソ野郎を殺す。私が現れてトリックを見破り、事件解決!

 

助手  先生、知ってる?それ、マッチポンプって言うんだよ?

 

先生  あなたの殺しに私が手伝う代わりに、あなたの殺人事件を私が解決する!これぞ、Win-Winの関係!どうです?

 

助手  あー、やめた方が良いと思いますよ?この人、ちょっとオツムが足りてないところがあるから

 

恨む女  良いですね、お願いします!

 

助手  こっちも、ちょっとオツムが足りてなかったかー

 

先生  ハハハ!遂に私の時代が来たぞ!助手!事務所に戻るぞ!

 

助手  撤退(てったい)するの?

 

先生  そうだ!どういうトリックを使うか、検討しなければな!

 

恨む女  ああ、これであいつを……ふ、ふふふっ……行きましょう!

 

先生、恨む女、下手へハケる

 

助手  もう!ちょっと待ってよ!先生!

 

助手、水晶玉、「占い」の看板を持って下手へハケる