真夜中、皆が通る大通りから外れた細い道を走った。
地元の人間しか知らない道である。
少し進めば、田んぼや畑だけになり、視界がずっと開ける。
するすると進んでいると、ライトの先に動物がいた。
キツネ、のような顔立ちで、尾も立派にふさふさとしていた。
恐らく、野犬ではなかろうか?
田んぼに囲まれた場所であるが、私の後ろには住宅地がある。
こんな場所で野犬がいるものだろうか、とマジマジと見た。
その野犬は畑の方におずおずと避け、私の不躾な視線に少し不機嫌に感じたのかチラリとこちらを見て、おずおずと自動車の後ろ側まで回り込んで去っていった。
野犬を見付けたので市役所にでも電話すれば良いのかもしれないが、時間は真夜中、誰も出やしない。
そも、その野犬を捕まえる手段が無いから、ただただ「犬っぽいのがいた」と言うしかない。
下手したら、ホラ吹きの称号を冠されてしまうだろう。
しばし、ぼおっと見送って、そのまま走っていく。
あの気の弱そうな野犬は、人間が追い込まなければ危害がないような気がした。
目が合って数秒、勝手に野犬の性格を決め付け、広大な夜の先へ進んだ。
忘れがちだが、人間の住んでいるだけではなく、他の生き物も当然にいる。
山奥を走れば、鹿に遭遇するのは珍しくない。
目の前を巨大な鳥が羽ばたいて横切っていく。
人間しか遭遇しない人間の社会にいるから、いちいち驚いてしまうだけだ。
本当は人間以外の生き物も、それなりの大きさの生き物もいる。
時々、こうして現れて、私が忘れていた存在を示して思い出す。
あの野犬は今はどこを歩いているだろうか?
道の邪魔にならないようにおずおずと歩いているだろうか?
立派に生え揃った尾を垂れ下げて、あの狐面した野犬を考える。
数秒の出会いに当たり前な事実を思い出した、夜の一幕。