9番目。
9、橋の下。(夕闇)
橋の上ではパシャパシャと音がする。
誰も通らない橋に雨が代わりに伝っていく。
トゲ、今日の道中を振り返りながら空を見上げてぼーっとしている。ふと、視線を横にずらすと何か小屋のようなものが目に入る。
モクタン FuuYeh!ワニっ子、何を黄昏れているんだい?今日のボクの、このボクの活躍でも思い出して、自分との器の違いを恥じていたのかい?」
モクタン、トゲに絡んでくる。
トゲ、そんなモクタンに苦笑いする。
トゲ よう、炭っカス。さっきまでヘバっていたけどもう大丈夫かい?あんまり無理するなよ、軟弱な身体をしているんだからさー
モクタン ……ボクは決して軟弱ではない。君が異常な体力なだけだ。そんな体力バカに付いてったんだから、ボクは愛されるべき全ての人形達に賞賛されて然るべきなんだよ?
トゲ あっそ。おい、そんなことよか、あれ見な
モクタン そ、そんなこと……今に見ておれぇ筋肉だけで構成された化け物めぇ…で、何を見ろって?
トゲ ほら、あれだ。お地蔵さんの家
モクタン Hoo…こんな誰も通らない道にお地蔵さん、なんとも哀愁がありますな
トゲ それ、本人の前で言うなよ?で、今晩はあそこで泊めてもらおうと思うんだが?
モクタン んー、この橋の下だと水嵩が増したとき怖いですからねー…これから交渉に?
トゲ ああ、ちょっくら行って来る。ウサギは?
モクタン 麗しき彼の人は向こうで雨に想いを馳せていますよ
モクタン、反対側でトゲと同じように空を見上げているウサギを胸に思い描いた。
と、 同時にトゲに対して嫉妬のような感情がわき起こる。
しかし、そんなことは微塵にも出さずにくるりと向きを変える。
モクタン それでは私はウサギにそのことを伝えて来ます。上手く折り合いをつけて下さいね?
トゲ あいよ
トゲ、雨が降る外へと走り出した。
モクタン、雨の中迷わずに飛び出せる背中を見やり、すっと顔を戻す。 そして、ウサギのいる場所まで引き返す。